ナタリー PowerPush - GREAT HUNTING 15周年記念オーディション「BAND ON THE RUN」

名門新人発掘部によるバンドオーディション徹底解剖

“キャラ立ち”よりも“音楽ありき”

亀田 僕ね、今回審査をしていく上で、自分の中で気を付けようと思っているポイントがあって。それは“キャラ立ち”についてなんです。今人気があるゲスの極み乙女。や赤い公園がまさにそうなんだけど、最近はバンドでもメンバーそれぞれのキャラがしっかり確立されているでしょ? でも、僕は必ずしもすべてのバンドがそうでなくてもいいと思っていて。

木村 ああ、確かに。みんなお笑い芸人みたいにしゃべれますよね。すぐ面白いことを言おうとする。打ち合わせをしていても、わざわざ会話をかぶせてきて、「そういうのいらないんだけどなあ」と感じることもしばしば(笑)。

亀田誠治

亀田 例えばバンド内に1人ものすごいカリスマがいて、あとは幼なじみ?みたいなバンドって最近少なくて。

島田 映像を撮る側から言うと、全員のキャラが初めから立ちすぎていると、着色しづらいのはありますよね(笑)。どうしてもアプローチが限られてくるというか。

──ああ、つまりそのキャラからあまり逸脱したドラマも作りづらいなあ、と?

島田 ハコをどう演出することでしかできなくなる。

木村 あと最近はファッションを見てもやっている音楽の傾向がわかりづらくなりましたね。みんなある程度おしゃれだし。今ってパッと見ではわからないかも。

亀田 ある意味確信犯的にわかりづらくしている場合もあるしね。

木村 だからって無理にコスプレとかする必要もないんですが(笑)。でもやっぱりエレカシみたいなバンドって、最近あまり見ない気がする。

亀田 そうそう! だからキャラ立ちより何より、まず“音楽ありき”で審査するよ!というのは、この場をお借りしてきちんと伝えておきたいですね。楽しいライブをすることだってもちろん大切なんだけど、サービス精神なんてなくてもズシッと心に響くライブだってあるじゃないですか。MCだって親切な必要だってないわけで。

木村 だって学生時代にライブハウスへ行くのって、決して楽しい場所に行くという感覚じゃなかった。むしろ怖いところへ出向くという感じで。

亀田 それわかるわかる!(笑)

木村 何かあそこでケンカしてるよ、みたいなね(笑)。

亀田 最近はみんな初めからちゃんとできあがっていて、デビュー前からパッケージを意識しているかのようなアマチュアのアーティストもたくさんいらっしゃいます。でも本当は不器用ぐらいが大歓迎なんですよ。最初からできすぎていないほうが、その後のケミストリーも大きい気がするんです。

印象深い新人たち

──皆さんこれまでに数々のアーティストと関わってこられましたが、今振り返っても印象深い“新人”との出会いがあればお聞かせ願えますか?

亀田 僕はやっぱり椎名林檎さん。本当に忘れもしないのは、彼女が18歳の終わりぐらいに、初めてEMIさんからの紹介で僕のスタジオに訪れて。キャッキャしていたかと思うと、おもむろに「私はRadioheadが好きで、でも美空ひばりさんも好きで。あ、『サウンド・オブ・ミュージック』のサントラって最高ですよね。でも朱里エイコさんも好きで、マライア・キャリーの歌マネだったら誰にも負けません」とか話し出して(笑)。洋邦も問わず、ジャンルの垣根もなく、でも好きなものにはものすごい愛情を注いでいて、それを堂々と表明する姿勢を間近で見たとき、自分が世代的にそれまで持っていた洋楽コンプレックスのような意識が吹っ飛んで、解き放たれた感覚がありました。「こういう世代が、こういう逸材がついに現れたか」と思いました。

──なるほど。木村さんはいかがですか?

木村豊

木村 スピッツも長いけど、僕が携わった頃はもう新人じゃなかったからな……でもART-SCHOOLはよく覚えていますね。

加茂 あいつらはヒドかった。というか木下(理樹)がヒドかった(笑)。

亀田 どうヒドかったの?(笑)

木村 彼から提案されたアイデアがあったので、そのままやってみたら「写真が気に入らない」とか言って全部めちゃくちゃにしちゃって(笑)。そしたら加茂さんが木下くんに「謝れ!」って怒って(笑)。

── 「謝れ!」(笑)。

加茂 初期の頃の木下とはモメまくりで(笑)。レコーディングで終わってから「やっぱり録り直したい」とか「テンポ全部変えたい」とかめちゃくちゃ言っててね。「お前もう契約切るぞ!」とかしょっちゅう言っていましたからねえ……(笑)。

木村 でも面白かったですよ。結局なんだかんだ言って、彼と僕は今もずっと一緒にやっていますから。

加茂 木下、今もすごくがんばっているもんね。

──島田さんはいかがですか?

島田 やっぱりRADWIMPSですね。彼らとはデビュー前に出会ったんですけど、とにかく最初は歌詞の長さにビックリして(笑)。野田くんの歌詞、すごいじゃないですか。どの曲も全部違うし、フレーズの繰り返しとかもあまりなくて。いつだったか「なんでこんな曲長いの?」って聞いたら、「言いたいことがありすぎるから自然と長くなっちゃう」って言って(笑)。

──それはシンプルだけど響く言葉ですね。

島田 ええ。ああ、これはすごいヤツが出てきたなあと思いましたね。当時パッと見はみんなやんちゃな子供みたいな感じで集まってはキャッキャキャッキャ騒いでいる感じだったんですが、歌詞を見ると死を連想させる歌詞が多かったりするので、とても印象深く残っていますね。

GREAT HUNTING 15周年記念オーディション「BAND ON THE RUN」
<応募条件>
12月14日に東京・原宿アストロホールで行われるライブ審査に参加可能であること。バンドであれば、音楽性、編成、年齢は問いません。
<審査員>
亀田誠治 / 木村豊 / 島田大介
<審査スケジュール>
2014年12月1日:応募締切(12月1日必着)
2014年12月8日:ファイナリスト発表
2014年12月14日:東京・原宿アストロホールにて最終ライブ審査
2015年2~4月:レコーディング、ビジュアル&ビデオ作成
亀田誠治(カメダセイジ)

1964年アメリカ・ニューヨーク生まれ。1989年に音楽プロデューサーおよびベーシストとしての活動を始める。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、Do As Infinity、スガシカオ、アンジェラ・ アキ、JUJU、秦基博、いきものがかり、チャットモンチー、エレファントカシマシ、WEAVER、MIYAVI、赤い公園、東京スカパラダイスオーケストラなど数多くのアーティストのプロデュースやアレンジを手がける。また2004年夏に椎名林檎らと東京事変を結成し、数多くのヒット曲を発表。2012年閏日に惜しまれつつも解散する。2013年には2回目となる自身の主催ライブイベント「亀の恩返し」を日本武道館にて開催。映画「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の音楽プロデュースなどさまざまなかたちで作品を届けている。2014年5月には「SAYONARA国立競技場 FINAL WEEK JAPAN NIGHT」にて音楽監督を務める。またオフィシャルサイトで、自身の知識をフリーでシェアし、新しい才能を応援する「恩返し」プロジェクトを展開中。

木村豊(キムラユタカ)

アートディレクター。1995年にCentral67を設立。以降、スピッツ、スーパーカー、椎名林檎、東京事変、七尾旅人、ART-SCHOOL、赤い公園らのCDジャケットを中心に、ビデオクリップの監督や本の装丁、ツアーグッズなどのデザインを手がけている。

島田大介(シマダダイスケ)

演出家、写真家、アートディレクター。株式会社コトリフィルム代表。200本以上のビデオクリップ、ユニクロ、Xperiaなどのコマーシャルフィルム、ファッションブランドなどの映像演出を手がけ、CDジャケットのアートディレクション、秦基博のライブを総演出するなど演出活動は多岐にわたる。2013年には初監督した小松菜奈主演短編映画「ただいま。」が上映される。写真家としてはファッションのほか、CDジャケット、Charaのパーソナルブックなどを手がける。2014年には東京・SUNDAY ISSUEにて写真展を開催した。

加茂啓太郎(カモケイタロウ)

ユニバーサルミュージックの新人発掘セクション・GREAT HUNTINGのチーフプロデューサー。1960年生まれ、東京都出身。1983年に東芝EMI(現ユニバーサルミュージック)に入社。主に邦楽ディレクターを務め、1998年から新人発掘・育成を担当して現在に至る。発掘に関わった主なアーティストはウルフルズ、SUPER BUTTER DOG、ART-SCHOOL、氣志團、フジファブリック、Base Ball Bearなど。2013年8月に著書「ミュージシャンになろう!」を刊行した。


2014年11月14日更新