ナタリー PowerPush - GREAT HUNTING 15周年記念オーディション「BAND ON THE RUN」

名門新人発掘部によるバンドオーディション徹底解剖

ミュージシャンのビックリ度合いを担保するもの

──ビックリするようなバンドが“絶対に”出てくるという確信こそないものの、希望を持てるくらいの可能性は……。

あると思ってます。まだまだ未知の存在っているはずですから。ここまで挙げてきたバンドだって、なんでビックリされられたかといえば、いきなりどこからともなく現れたからなわけですし。確かにこの15年、ホントにいろんなバンドを観てきたつもりではあるんですけど、それでもまだ僕が想像もしていなかったような場所からとんでもないバンドが出てくることはあるはずなんですよね。もちろんそういうバンドであっても、あとあと話をしてみれば、なぜそういう音楽をやっているのか、そういうビジュアルなのか、その理由はわかるんですけど。

──それこそリファレンスしているものがわかれば因数分解は可能ですもんね。

でもアニソンのようなキャッチーなメロディとIQの高いアレンジを組み合わせた相対性理論がそうであったように、そのリファレンスの仕方と量と組み合わせ方次第では聴き手をビックリさせられる。偶然、デビュー直後の椎名林檎のフェイバリットリストを見たことがあるんですが、ホテルの便せんに10枚びっしりの、膨大な一覧表を作っていたんです。椎名林檎は1日にしてならずというか、ハンパない量のコンテンツをリファレンスしていることも椎名林檎を椎名林檎たらしめている大きな要因なんですよね。ビックリできるワン&オンリーな存在たらしめている。実は今回「BAND ON THE RUN」の審査員を亀田誠治さんと、アートディレクターの木村豊さん、映像作家の島田大介さんにお願いしているのには、応募してくる人のリファレンス量を知りたいっていう理由もあったりするんですよ。

この名前にピンと来たら、ぜひ応募!

──なぜこのお三方の存在がバンドのリファレンス量の測定を可能にするんですか?

もちろん大前提として音とビジュアルと映像っていうバンドの音楽を構成する3つの要素を正しくジャッジできる人にお願いしたかったっていうのがあるんですけど、今ってYouTubeで気軽に音楽を聴けてしまう時代じゃないですか。

加茂啓太郎

──そうですね。

だから楽曲やビデオクリップ、アートワークのクレジットを気にする若い子って以前よりも少なくなっていると思うんです。このYouTubeの存在も最近のバンドのリファレンスの量の減少の理由の1つだと思うんですけど、そんな状況にあってなお、ちゃんとこのお三方の仕事を追いかけていて「えっ、この人たちが聴いてくれるの!?」って反応できる人にはぜひ応募してもらいたいんですよね。

──この審査員一覧は「BAND ON THE RUN」の“フェイバリットリスト”というか……。

そうなんです(笑)。さっきからお話しているようにミュージシャンが挙げてくれた好きなもの100個を見れば因数分解できる。ヘタに話をするよりも人物像や音楽性がわかるように、この3人の名前が並んでいれば、応募する人も「あっ『BAND ON THE RUN』っていうのはこういうオーディションなのか」ってわかってくれるはずですから。そしてこの審査員が応募者にとっての一番の副賞のつもりなんです。パソコンがあれば音源だってジャケット写真だってビデオだって誰にでも作れてしまう時代ではあるんだけど、そうではない。はるかに高度な技術の粋を凝らすことのできるプロ中のプロに自分の音源を聴いてもらうことの意味や価値。それがわかる人には魅力的なオーディションになっていると思ってます。

勝利のカギはイチゴ大福的発明

──「BAND ON THE RUN」の攻略法というか、審査の際、特に注目するポイントってあります?

完成度が高いバンドはもちろん見つけたいんですけど、それとは別に2年後、3年後に期待できる可能性のあるバンドを見つけたいな、とは思っています。

──加茂さんの考える可能性って?

発明があるかどうかですね。よく若いバンドの子たちにいうのは、レシピ通りに料理を作るのは簡単。書いてある通りに作ればいいんだから。でもそうじゃなくて、レシピを作れるようになりなよ、っていうことなんです。「イチゴ大福理論」って呼んでるんですけど、イチゴ大福ってレシピとしては簡単じゃないですか。大福にイチゴを入れればいいだけなんだから。でもそれを思いついたことは本当にすごいこと。そういうイチゴ大福的なサウンドを発明できるバンドになってほしいんですよね。例えばRed Hot Chili Peppersって何がすごいかっていったら、彼らはもともとはパンクバンドなんだけど、ベースをスラップにしてみたところ。70年代当時はパンクバンドがスラップベースなんて掟破りだったんだけど……。

──彼らはあえて掟を破ってみた。

だからこそ新しい発明ができたんですよね。The Beatlesだって最初に何が新鮮だったかというとバンドメンバーの4人が楽器を持って歌っていたことなんです。それが観る人、聴く人には新鮮だったわけですから。それに綾小路翔だってもし目黒や世田谷に生まれたら小沢健二になりたいようなサブカル少年だったはずですよね。でも木更津に生まれたからサブカルとヤンキーのミクスチャに成功している。元・相対性理論の真部(脩一)くんも好きなミュージシャンはマイルス・デイビスとかWeather Reportとか、アカデミックなジャズなんですよね。なのにああいう曲を書く。そんな人ってほかにいないですから。

──ただ「発明」もある意味「ビックリ」と同じ。時代を経るごと、先達が増えるごとに新しい発明は生まれにくくなるのでは?

でも最近のバンドの中にも発明している連中はいて。例えばGEZANなんか本当にすごいじゃないですか。そういう意味でも「ビックリ」と同じなんだと思いますよ。まだまだ画期的な発明をする余地は残されていると思うし、その余地っていうのは僕らの想像を飛び越えたような場所にある。それを見つけてこれるバンドに会いたいですね。あと一緒に酒を飲んでて楽しいバンドだとうれしいかな(笑)。

GREAT HUNTING 15周年記念オーディション「BAND ON THE RUN」
<応募条件>
12月14日に東京・原宿アストロホールで行われるライブ審査に参加可能であること。バンドであれば、音楽性、編成、年齢は問いません。
<審査員>
亀田誠治 / 木村豊 / 島田大介
<審査スケジュール>
2014年12月1日:応募締切(12月1日必着)
2014年12月8日:ファイナリスト発表
2014年12月14日:東京・原宿アストロホールにて最終ライブ審査
2015年2~4月:レコーディング、ビジュアル&ビデオ作成
加茂啓太郎(カモケイタロウ)

ユニバーサルミュージックの新人発掘セクション・GREAT HUNTINGのチーフプロデューサー。1960年生まれ、東京都出身。1983年に東芝EMI(現ユニバーサルミュージック)に入社。主に邦楽ディレクターを務め、1998年から新人発掘・育成を担当して現在に至る。発掘に関わった主なアーティストはウルフルズ、SUPER BUTTER DOG、ART-SCHOOL、氣志團、フジファブリック、Base Ball Bearなど。2013年8月に著書「ミュージシャンになろう!」を刊行した。


2014年11月14日更新