「今日ダメだったら、もう見切る」

──GREAT HUNTINGはメジャーデビューを見据えた部署ですから、バンドは育成期間に入っていくわけですよね？

育成期間とはいえ、高校のときとそこまで大きくは変わらなかったかもしれないです。基本的に音のことは任されていたので、自由にやらせてもらってました。ただCDを出すときは、どういう曲を入れようっていうような話し合いすることもありました。

──育成期間からメジャーデビューまでは、わりと順風満帆に進んでいったのでしょうか？

1回だけ、加茂さんに「今日のライブがダメだったら、もう見切るから」って言われたことがあるんです。当時の僕らって全然動員が伸びなくて、お客さんが10人とか1桁のこともあったくらいなんで。ライブ直前にすっごいピリピリしてステージに上がったんですけど、いざライブが始まったら関根が2曲目で慣れないジャンプかなんかしたんですよ。そうしたら思いっきり尻もちついちゃって（笑）。尻もちをついたままベースを弾く、みたいなことがあったんです。加茂さんもそれを観て面白いって思ってくれたのか、その後もやり取りは続いたんですよね。もしかしたら彼女の尻もちがなかったら、今のBase Ball Bearはなかったかもしれないです（笑）。

──そういえばBase Ball Bearは過去にバンド名を変えていますが、これはレーベル側にそう言われたからなんですか？

別にレーベル側から「変えたほうがいい」とか言われたわけではないんですよ。デモテープを送った頃、僕らは「PLANET」っていうバンド名で。それで加茂さんが当時パーソナリティをやってたラジオ番組で曲を流してもらうことになったんです。これが僕らの曲がラジオでの初オンエアだったんですけど、番組のもう1人のパーソナリティの人に「『PLANET』っていうバンド名は好きじゃない」と言われてしまって。メンバー全員で「バンド名ヤバイぞ」って話して、小出と湯浅（将平）で決めたのが今の「Base Ball Bear」なんです。直接的ではないんですが、改名のきっかけを作ったのは加茂さんですね。

モチベーションだけでもいい

──以前のインタビューで加茂さんは「デモテープでいいバンドに巡り会う確率は“3000分の1”」とおっしゃってました。Base Ball Bearはこの“3000分の1”のバンドだったわけですけど、その勝因ってなんだったんでしょうか？

ウチの場合はアー写だったみたいなんですよ（笑）。教室で撮ったメンバーが手をつないでいる写真をデモテープと一緒に送ったんです。でもその写真、実は撮ってもらった友達の指の影がバッチリ入っちゃってて（笑）。そんな写真が同封されているところに興味を持ったらしいってことをあとで聞きました。もちろん、デモテープの音を聴いてもらってそれがよかったのもあったみたいですけどね。

──バンドの音が水準に達しているのはもちろんとして、そういう面白さみたいな部分に興味を持ってもらったんですね。

やっぱりカッコつければつけるほど、カッコ悪くなるみたいなところがありますから。自然体でどうポテンシャルを発揮できるか、面白いことになるかって部分が大事なんだと思います。これはバンドだけのことじゃないですけどね。

──これからメジャー進出を目指す若手のバンドたちに何かアドバイスはありますか？

僕は「何をモチベーションにやってるのか」っていうのを若手によく聞くんです。そりゃあバンドやってれば「忙しい」とか「バイトキツい」とか「曲が書けない」とかがあるわけですよ。でもバンドをやりたいんだったら、そんなこと当たり前で、要はなんのためにその苦労を乗り越えていくかって話だから。それは別に「モテたい」でもいいし「家族を食わせていきたい」とか「子供たちから憧れられる存在でありたい」とかね。本当になんでもいいんですよ。ただそれをはっきりさせないと、バンドやってる意味がなくなっちゃう。

──堀之内さん自身のモチベーションはなんだったんですか？

バンドじゃなくて個人の話になってしまいますけど、僕は「親に認めてもらいたい」っていうのが大きかったですね。今でも親父には認めてもらってない部分があるんですが（笑）。でもそういうバンドをやるしっかりした理由というか、目指すものがあるかどうかって、音を聴いただけでわかるものなんですよ。目指すものがない状態でステージに上がっても、何かを伝えられるわけないじゃないんです。逆に言えばモチベーションとか、夢だけでもいいんです。僕らだって気持ちだけで食ってたようなもんなんで。それだけでも伝わるものは伝わると思ってます。