ACIDMANの集大成「あらゆるもの」
──アルバムの最後に収められている「あらゆるもの」も素晴らしいです。8分を超える楽曲ですが、これまでACIDMANが描いてきたものが集約されている印象があります。
この曲のタネみたいなものも、10年前くらいからあったんです。アルバムの制作中に過去のデモ音源を聴き直して、「最後に合うのは、こういう壮大な曲だな」と。最初は3、4分くらいの曲にしようと思ってトライしてたんですけど、結局8分くらいになりました。歌詞もアルバムのテーマとつながっていて。光は万物を作った源、光からあらゆるものが生まれてきたと考えれば、曲名は「あらゆるもの」しかないなと。すべてを内包した楽曲にしたかったし、過去のいろいろなアイデアを少しずつつなげて、メロディを重ねて……最後に「アルバムに入ってる全部の曲のワンフレーズを加える」ということを思いついて、完成しました。アルバムの最後にふさわしいし、“歴代仮面ライダー大集合”とかアベンジャーズ的なワクワクもあって(笑)。
──ラストの「君が生まれた それだけは 正しい事なんだよ」というフレーズがすべてを言い表していると思います。圧倒的な肯定ですが、この歌詞を入れたのはどうしてですか?
それに尽きる、ということですね。インディーズの頃に「正しさに 今 乱されそう」という歌詞を書いたことがありますけど(「酸化空」)、その頃は何が正しいかわからなかったし、この星に生命が誕生したこと自体いいことなのかどうかわからなくて。もっと言えば当時は「宇宙が生まれたことは正しかったんだろうか?」と思ってたんですよ。僕たち自身もそう。シミュレーション仮説と言う、「人類はさらに高度な生命体に生かされている」という考え方もあって。
──怖い仮説ですね、それ。
そうだとしたら、ゾッとするじゃないですか。それでも、僕は僕であって、あなたはあなたであると肯定したいし、「君が生まれたことは正しいことなんだよ」とどうしても言いたくて。子供の頃、多くの人が夢や希望の大切さを教わって育ちますけど、結局は何者でもない自分に打ちのめされたり、眠れない夜を過ごしたりしている。でも、それでいいんです。何者にならなくても、何かを成し遂げなくても、生きていることはとても意味がある。僕らが生きていることでエネルギーが生まれ、それが大きい塊になる。つまり僕らは生きているだけで宇宙を動かしているんです。たまに傷付いて、小さな幸せを感じて。また朝起きて、日常が続いていく。それがすべてだし、それだけでいいんだという考え方には僕自身も救われているし、それをみんなにも伝えたい。なのでこのアルバムも「君が生まれた それだけは 正しい事なんだよ」という言葉で締めたかったんです。
理系は怖くないよ、面白いよ
──想像だけではなくて、科学や物理学の理論を取り入れながら歌を生み出しているのが大木さんらしいし、それこそがACIDMANだなと思います。
好きなんですよね、科学や物理学が(笑)。宇宙や生命の謎を解き明かしたくて音楽をやってるようなものなので。ここ数年、科学者の方々と対談する番組(サイエンストーク番組「ACIDMAN大木と科学者たち powered by 講談社ブルーバックス」)をやらせてもらってるんですけど、そこで聞ける話もめちゃくちゃ面白くて。そうやって得たものを音楽として皆さんに還元したいんです。例えば「アストロサイト」も番組での話がきっかけで生まれました。
──「アストロサイト」は、星状膠細胞とも呼ばれる、星のような形をした細胞の一種。神経細胞をコントロールしているという説もあるそうですね。
脳科学者の毛内拡さんと対談させてもらったときに初めて知った言葉なんですけど、すごく興味深くて。その細胞が僕らの意思決定を司っている可能性があるらしいんですけど、それってめちゃくちゃ面白いじゃないですか。この言葉を知って、すぐに曲名に使おうと思いました。「僕らの世界はまだまだ不思議なことばかりだ」というところから始まり、戦争を描き、愛を描き、最後は「君が生まれた それだけは 正しい事なんだよ」につながるアルバムですね。
──最初から設計図があったかのような流れですね。
偶然もあれば狙ったところもあるんですが、映画や小説のような1つの流れを意識した作品作りはもともと好きなんです。そういうアルバムの作り方は時代と逆行しているかもしれないけど、特に若いリスナーに刺さってくれたらうれしいです。アルバムにインタールードが入ってたり、8分の曲があったり、「こういう表現もあるんだよ」と知ってもらいたい。
──「光学」というタイトルは、どの時点で決めたんですか?
アイザック・ニュートンが1704年に出版した光学研究の実験レポート集のタイトルでもあるんですけど、「光学」というワードはずっと前から使いたいと思っていたんです。「輝けるもの」「光の夜」もそうですが、今回はいつも以上に“光”の曲が多くて。僕自身もずっと追求しているテーマだし、これを機に「宇宙や生命について学んでみませんか?」という提案でもあります。世の中には数学や化学が嫌いな人もたくさんいるでしょうけど、理系は怖くないよ、面白いよって(笑)。
音楽の自由さにあふれた「ACIDMAN Tribute Works」
──アルバム「光学」と同時に、初のトリビュートアルバム「ACIDMAN Tribute Works」もリリースされます。
実はトリビュートアルバムは数年前から準備していたんです。最初はレーベルの皆さんにお任せしていたんですけど、途中で制作がストップしていて。すでにストレイテナーや10-FEETからは曲が届いてたから、なんとか形にしたいと思って、今年に入ってから僕も積極的に関わって一気にまとめました。リリースが「光学」と重なったのは狙ったわけではなく、偶然です。
──ELLEGARDEN、ストレイテナー、東京スカパラダイスオーケストラ、the band apart、じん、jon-YAKITORY、downy、10-FEET、SOIL&“PIMP”SESSIONS、yama、THE ORAL CIGARETTES、BRAHMAN、Dragon Ashが参加しています。すごいラインナップですね。
本当に。どのテイクも素晴らしいです。関わってくれたバンド、アーティストがすごくセンスのあるアレンジをしてくれて、最高のトリビュートアルバムになったと思っています。ELLEGARDEN、ストレイテナー、the band apart、10-FEETもそうですけど、インディーズ時代から関りがあるバンドも参加してくれて。25年以上前に出会って、今もお互いに活動してるのは、奇跡的だよなって。憧れだったBRAHMAN、Dragon Ashとも今では友達みたいな関係だし、その人たちが本気を出して自分たちの曲を演奏してくれてるのもうれしい。音楽っていいな、バンドってすごいなと思えるアルバムだし、これもぜひ若い子たちに聴いてほしいです。こんなアプローチがあるんだ?と思うだろうし、音楽の自由さを感じてもらえたらなと。
──10月26日には7度目の日本武道館ライブがあり、12月にはアルバム「光学」全曲初披露ライブ&第2回壇上交流会が行われます。
全曲初披露ライブでは、「光学」を1曲目から最後まで曲順通りにやります。その後、お客さんにステージに上がっていただいて、ドラムセットとかギターやベース、エフェクターなどを見てもらって、最後に僕らと握手して、お別れするという会です。前回すごく好評だったので、またやりたいなと。
──アルバムの曲はライブだと表現が変化しそうですね。
まだリハーサルも全然やってないので、どうなるんだろう?という感じです。僕らもすごく楽しみです。
──期待してます。ちなみに次のアルバムのイメージもすでにあるんですか?
ありますね。候補曲も4曲くらいできていて、今のところメロディを大事にした曲が多いのかな。まあ、どうなるかはやってみないとわからないです。
公演情報
ACIDMAN 13th ALBUM「光学」全曲初披露ライブ&第2回壇上交流会
- 2025年12月7日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2025年12月20日(土)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
プロフィール
ACIDMAN(アシッドマン)
1997年に結成された、大木伸夫(Vo, G)、佐藤雅俊(B)、浦山一悟(Dr)の3人からなるロックバンド。2002年に限定シングル「造花が笑う」「アレグロ」「赤橙」を連続リリースし、2002年10月にアルバム「創」でメジャーデビューを果たした。2007年7月に初の日本武道館公演を開催。生命や宇宙をテーマにした独特の詞世界、静と動の両面を表現する幅広いサウンド、映像とリンクした演出を盛り込んだライブなどが高い評価を得ている。2017年には、結成20周年の集大成として故郷埼玉のさいたまスーパーアリーナにて主催フェス「SAITAMA ROCK FESTIVAL "SAI"」を開催。2022年にもさいたまスーパーアリーナにて「"SAI" 2022」を行い、2日間で約4万人を動員した。2024年1月に映画「ゴールデンカムイ」の主題歌「輝けるもの」をリリース。2025年3月よりワンマンツアー「ACIDMAN LIVE TOUR "This is ACIDMAN 2025"」を開催。10月26日にはこのツアーのファイナルとして7年ぶり7度目の日本武道館公演「This is ACIDMAN」を行う。その3日後、10月29日にニューアルバム「光学」とトリビュートアルバム「ACIDMAN Tribute Works」を同時リリース。
『オリジナルアルバム「光学」』『トリビュートアルバム「ACIDMAN Tribute Works」』 - ACIDMAN
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