彼女たちがこのステージに立つのは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため2日目公演が開場直前に中止となった、2020年2月のドームツアー以来5年ぶり。この5年前のライブ中止はメンバーにとってもファンにとっても忘れられない出来事となっており、今回のライブは雪辱を果たす舞台として注目されていた。そしてさらに公演直前、メジャーデビュー20周年記念日である9月21日に、Perfumeは年内をもって活動をひと区切りし、2026年から“コールドスリープ”に入ることを発表。この公演は“コールドスリープ”最後のライブとして特別な意味を持つ一夜となった。
あの日止まった時計が、また動き始めた
ツアータイトルにある「ネビュラロマンス」は、架空のSF映画のサウンドトラックとして構想された2部作のアルバムのこと。昨年末から今年4月にかけて行われたアリーナツアー「Perfume 10th Tour ZOZ5 “ネビュラロマンス” Episode 1」はアルバム「ネビュラロマンス 前篇」の曲を収録順に披露し、そのストーリーを忠実に再現するコンセプチュアルな内容だった。今回の東京ドーム公演は、最新アルバム「ネビュラロマンス 後篇」のライブと位置付けられていることがあらかじめアナウンスされていたことから、多くの観客が前篇の続きとなるライブを予想していたが、ライブは意表を突かれる形で幕を開けた。
開演後に流れたのは「もう一度、あの日から始めよう」というPerfumeの3人の声。すぐに会場内に硬い足音が響き、メインステージを覆っていた布が振り落とされると、高所に3人が姿を現した。息を整えたあとで、3人は着ていたマントを一斉に投げ捨てる。そして始まったのは「GAME」。ライトセーバーを振り回して踊る3人の姿に、怒号のような歓声がドームに轟く。
この一連の演出は、2008年に開催された初のツアーのオープニングのセルフオマージュとして、2020年の東京ドーム公演のオープニングで行われたのとまったく同じものだった。メインステージの形状も、VJ映像もあの日と同じ。つらい記憶として刻まれた5年前のリベンジを果たすべく、Perfumeは自らの手で、“あの日止まった時計”をまた動かしたのだ。
そして2020年のライブの当時の最新シングルだった「再生」へ。オープニングで感傷に浸るオーディエンスに向けて、あ~ちゃんが「今日という日を楽しみましょう!」と呼びかける。なお今回のライブは、会場の構成も2010年に行われた初の東京ドーム公演を思い出させる形状となっていた。メインステージから伸びた花道は、小さなセンターステージからさらに3方向に分かれて伸び、アリーナが十字に分断されている。
「ネビュラロマンス 後篇」の壮大な物語が開幕
アルバム再現ライブだった「前篇」とはまったく趣きの異なる、意表を突いた幕開けだったが、ここから壮大な物語がスタートする。「Cipher」を厳かに歌い、スモークが焚かれたステージを1歩1歩踏みしめるように歩みながらメインステージに降りた3人。「ネビュラロマンス」の物語が再び始まることを告げるように「再起動世界」をパフォーマンスすると、ライブ初披露の新曲にもかかわらず、客席ではハンドクラップが湧き起こる。そして曲が終わる瞬間、まるで映画のオープニングのように「ネビュラロマンス 後篇」のロゴが大きく映し出された。
「ネビュラロマンス」の物語は、キキモという女性の手記によって進行する。かつて地球を離れた旧人類の末裔はロボットアーミーとなり、宇宙要塞となった月を襲撃。月を脱出して地球に到着した幼い3人の少女たち、アヤカ、ユカ、アヤノをキキモが保護し、記憶を失った彼女たちを新人類として育てた。子供の頃から歌って踊ることが好きだった3人は、地球防衛軍NEBULAに所属する傍ら、Perfumeとして音楽活動をすることに。そんな彼女たちがNEBULAの任務で初のドローン討伐に向かう、というところまでが前篇のストーリーだ。そしてキキモは、ここまで明かされていなかった事実を観客に伝える。この世界の新人類は地球の現支配者であるカキモトによって作られた機械人間であり、アヤカ、ユカ、アヤノこそが、かつて地球を追われた旧人類と同じ“真の人間”なのだと。
「そんなすぐに受け止めんでもいいよ」
前篇ツアーでは一切MCをはさまずにライブが進行していたが、劇中の歌番組「Mr. MIC SHOW」で「ネビュラロマンス」を披露したあとで、3人は「ユカです!」「アヤカです!」「アヤノです!」と役名で挨拶。いつものPerfumeと変わらないMCながら、2つのパラレルワールドが混じり合ったようなどこか不思議な感覚を覚えさせる。
このMCであ~ちゃんは、2日前に発表したコールドスリープについて「時代も変化していくし、年齢もレベルアップしていくし、永遠なんてないのかもしれない。反面、一生Perfumeでいたいという思いが強くなっていきました。そんな夢を実現するためにコールドスリープすることを選びました」と、前向きな決断であることを改めて説明。これについて、かしゆかは「きっとそれぞれのいろんな思いがあると思う。突然すぎてまだ受け止められないっていう人もいるかもしれないけど、そんなすぐに受け止めんでもいいよ。ゆっくり自分の中でほどいてくれたらうれしいです。悲しい話じゃないから。パワーアップしてカムバックするので」とファンに優しく寄り添った。
一方、のっちは「東京ドームは5年ぶりになりますね。前回は2020年2月だったんですけど、2DAYSのうち1日目しかできなくて。そのときから私たちもみんなも、いろんな思いで過ごしてきたと思います」と5年前に思いを馳せる。そして「だからまたこうして東京ドームに立てることができて本当にうれしいです。2日目が開演できてよかった。これが普通じゃないということを私たちは経験しています」と、このステージに立てる喜びを噛み締めていた。
巨大ドーム空間をフルに使った過去最大級の「FUSION」
この日のライブは前篇のツアーとは違い、ストーリーパートでも後篇に収録されていない曲がたびたび織り交ぜられていた。MC明けの「エレクトロ・ワールド」では、ヘビーなトラックをかき消すほどの地鳴りのような「ヘイ!」コールが客席から響き渡る。このとき劇中では、新人類のとある視聴者が「Mr. MIC SHOW」で歌うPerfumeを観ているシーンに。テレビには「エレクトロ・ワールド」だけでなく、同じく近未来三部作と呼ばれる「リニアモーターガール」「コンピューターシティ」を歌うPerfumeの姿が映っている。しかしその映像には、ネビュラロマンス世界の3人のパフォーマンスに混じって、現実世界で作られた各楽曲のミュージックビデオがインサートされていた。それを観た視聴者は、別の並行宇宙にも存在するPerfumeが歌って踊っているのではないかと疑い始める。
物語が新たな謎を提示する中、ライブは「ソーラ・ウィンド」へ。客席の床からいくつものレーザーが天井へと放たれ、会場中に壮大な光の柱を出現させる。「Virtual Fantasy」ではポリゴンで描かれた高層ビル群のような映像を背景に、3人はピンクのキックボードに乗って、夜の都会を散歩するように軽やかに花道を疾走する。
そしてグリッチノイズのような冷たく攻撃的なビートが鳴り響き、場面はパラレルワールド、すなわち“現実世界”で生きるPerfumeへとスイッチする。彼女たちがここで披露したのは、2018年の「Reframe」以降さまざまな場所で披露され、2019年にはNHK「紅白歌合戦」でも実施された、バーチャルシャドウを演出に使用した「FUSION」のパフォーマンス。今回は東京ドームの巨大な空間をフルに使った過去最大級のスケールで行われ、ダンスする3人の影が、高さ50m以上もあるドームの天井まで伸びていく光景に、観客は息をのんだ。
15年前のリベンジを果たした「Perfumeの掟」
キキモの語りによって、物語はさらに核心へと迫っていく。劇中の3人は、前篇のラストで敵であるはずのロボットアーミーの青年と遭遇したのち、彼女たち自身がロボットアーミーと同じ旧人類、つまり“真の人間”である可能性を聞かされたのだという。そんなキキモの言葉に続いて、アリーナ席を囲むように16体のロボットアーミーたちが出現。真っ赤な照明が熾烈な戦いを想起させる中、ロボットアーミーたちは監視するように手元のライトを客席に向け、観ている側も他人事ではないと言わんばかりに、会場全体を物語の渦へと巻き込んでいった。
ロボットアーミーたちがメインステージに向かって敬礼すると、その先にはPerfumeの姿が。ここで始まったのはなんと、2010年の東京ドームで披露された「Perfumeの掟」の再現だった。会場のあちこちから湧き上がる、当時を知るファンの驚きの声。3人がダンスをすると、スクリーンでは2010年の衣装と現在の衣装が目まぐるしく入れ替わり、メンバーそれぞれの15年前の姿と正確に重なる。
「Perfumeの掟」のかしゆかのソロパートは、背後に映る9人の自分の分身とともにダンスする「10人のかしゆか」。2010年当時は満足のいくパフォーマンスができずに不甲斐なさと悔しさを口にしていた彼女だが、この日は寸分の狂いもなくシンクロする完璧なパフォーマンスを見せつけ、15年前のリベンジを果たした。あ~ちゃんはビームライフルで、花道の先端で白いドレスを着たマネキンが持っている風船を狙撃。この直前にスクリーンにはネビュラロマンス世界の自分が銃撃戦をしている姿が映り、2つの世界の出来事がリンクする。
のっちはカウントアップの声に合わせて歴代シングルの振付のポーズを披露。2020年の東京ドーム公演では「1」の「リニアモーターガール」から「11」の「VOICE」までの11曲のポーズを決めたが、今回はその続き、「12」の「Spending all my time」から「25」の「Moon」までのポーズで、Perfumeの歩みを体現してみせた。
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