「ある用務員」阪元裕吾×福士誠治×芋生悠インタビュー|バイオレンス界の新星が放つ、大人から子供まで楽しめる殺し屋映画

「ハングマンズノット」「ファミリー☆ウォーズ」などで知られ、バイオレンス界の新星と称される1996年生まれの阪元裕吾が監督を務めた「ある用務員」が、特集上映「未体験ゾーンの映画たち2021」の1本として1月29日に公開される。

本作の主人公は、元暴力団員だった父を幼い頃に殺された深見晃。凄腕の殺し屋に成長した彼は、父親の組兄弟の娘・真島唯の見張りを務めるため、用務員として高校に潜り込んでいる。ある日、暴力団の抗争が勃発し、唯の命が狙われることに。戦場と化した学校で、唯を守るため深見の命懸けの戦いが始まる。

映画ナタリーでは本作の公開を記念し、阪元、深見役の福士誠治、唯役の芋生悠にインタビューを実施。過酷な撮影の裏側や、一緒に過ごした“素敵な時間”について語ってもらった。

取材・文 / 金子恭未子 撮影 / 谷俊政
福士誠治:ヘアメイク / 宮本圭歌(MAXSTAR) スタイリング / 高橋美咲
福士誠治:プルオーバー、パンツ、シューズの衣装協力 / CULLNI

邦画にない新しいものを作りたい(阪元)

──本作は監督が企画した作品だと伺いました。どこから着想を得たのでしょうか?

「ある用務員」

阪元裕吾 日本ではアクション映画は一部のマニアが楽しむものになってしまっていると思うんです。坂口拓さんのようなアクションスターありきで作られるものか、マンガやアニメの実写化しかない。そのどちらの層も取り込みつつ今までの邦画にない新しいものを作りたいという気持ちがあったんです。そしたら用務員だ!って思って。

──なぜ用務員だったのでしょうか?

阪元 特殊部隊のようなものだと、日本人にはなじみがない。でも、用務員は誰もが知っている。身近にいる人が学校の中で死闘を繰り広げる物語を作りたかったんです。「ダイ・ハード」のようなワンシチュエーションの中で孤軍奮闘する姿って、観客が想像しやすいと思うんです。

福士誠治 学校が舞台というのも、この作品の魅力ですよね。僕も台本を読んでいて想像しやすかった。図書館で戦うシーンが出てきたら、そこにどういうものがあるのかわかっていますので。

──福士さんは主人公である深見を演じています。映画は初主演ですね。

福士誠治
芋生悠

福士 アクションを専門に役者をやってきたわけでもないし、周りもそういう認識はないと思う中、僕を選んでくれたのはとても光栄に思いました。裏社会に生きる暗殺者なんて、なかなかやれる役じゃないですし、オファーをいただいたときにすぐにやります!ってお返事しました。

──芋生さんは深見に守られる女子高生の唯を演じています。彼女はかなり過酷な状況に追い込まれますよね。

芋生悠 自分の通う学校で銃撃戦や人が死ぬのを目の当たりにする。そんな状況でどんな反応をするのかは、台本を読んだだけでは、追いつかない部分もあったんです。監督とお話をする中で、唯の心理はどういう状況なのか現場で詰めていきましたね。

──芋生さんから見て唯はどんな女の子ですか?

芋生 唯の父親は裏社会を牛耳っている人間です。親だけれど唯にとっては権力者でもある。一番愛してくれている人かもしれないけど、ずっと縛られているような感覚が彼女の中にはあるのかなって。だから、自分があがいたところで、どうせっていう惰性で生きている女の子だと思っていました。彼女のそばには、幼なじみのヒロがいて、唯も彼のことは好きなんだけど、本当の意味では彼を見ていない。誰のことも見ていない子だと思っていました。

──唯を守る深見も彼女と同様に大きな枷を負った人物ですよね。

福士 子供の頃から暗殺者として育てられて、裏社会で生きてきて、好きだとか嫌いだとか、楽しい楽しくないという感情の経験値が限りなく少ない人物。周りからはかわいそうな人に映ると思うのですが、深見からするとそれが当たり前の世界。体は大人だけど、心が知らないことがたくさんある人間だと思います。

──唯を守るために、ただひたすら戦う深見の姿が印象的でした。

福士 長生きすることなんてそもそも考えていない。いつも死と隣り合わせの場所に立ってきた人間。だから唯を助けるという任務が与えられたら、それだけが彼の生きがいになる。ただ、見方を変えると、深見と同じように抑圧された環境で成長した人は世の中にもたくさんいると思うので、僕らとまるっきり違う思考回路を持った暗殺者ではあるけど、現代社会で生きる人間にも通じるものを持っている。そういう部分は演じるうえでふくらませていきました。

阪元 深見は成長し切っていない子供のような大人というイメージなんです。彼の家のシーンは登場しない。帰る場所は父親のような存在である真島のところだけ。真島に縛られているんです。一方の唯も父親の呪縛から逃れられない女の子。2人を描くにあたって、深見が唯の心を解いてあげるラストにできればなと。だから最後のシーンに僕は懸けていましたね。

「ある用務員」

福士 子供が生まれる瞬間のようなシーンになりましたよね。今までずっと誰かの意思で生きてきた深見と唯が、やっと人間になれるというか、しっかり自分の意思を持つ。命が生まれるときって、精子が競争してただ1つが子供になれる。そんな根本の世界のようなシーンになったと思います。

芋生 最後のシーン以外、深見と唯はあまり言葉を交わしていないんですよね。深見がどういう人間かも唯はあまりよくわかっていない。そんな中で最後、福士さんと目を合わせていたら、深見はずっと同じ景色を見てきて、逃れられない場所にいた人なんだというのが自然と伝わってきたんです。演じていて胸を打たれました。

トム・クルーズ目指せるかな(福士)

──ラストは注目してほしいシーンですよね。そして、もちろんアクションシーンも本作の見どころの1つだと思います。

福士誠治
芋生悠

福士 大変でしたね。2階から飛び降りたと思ったら、銃撃戦やって、ジークンドーやって、テコンドーやって。ナイフが入ったり。「今日はプロレスか」と思いながら現場に行った記憶もあります(笑)。

芋生 寝技ばっかりの日もありましたよね(笑)。

福士 スタントなしでやらせてもらえたのは、うれしかったですね。トム・クルーズ目指せるかな。言いすぎました(笑)。

──アクショントレーニングはされたんですか?

福士 いや、全然(笑)。走ったり、使うだろうなと思う筋肉をいじめたりは個人的にやりましたが、事前稽古はなかったです。当日何十手もその場で覚えてやっていく。体はもちろんのこと、何度もシミュレーションしながらやるので頭も疲れました。

──ハードなアクションシーン満載なので、その場で覚えたというのは驚きました。

福士 「左来て、右来て、避けて。じゃあ本番いきましょうか!」って、「いやいや、待て待て早い!」みたいな(笑)。でもそういう現場の勢いも作品の中でいい味になっていると思います。守っている芋生ちゃんを引っ張るシーンとか、カチッと段取りを決めて撮っているわけではないので、リアルなリアクションが引き出せて、生々しい画が撮れたり。

──けがはなかったですか?

福士 大きなものはなかったですけど、すり傷は多々ありました。殴られるシーンを撮っているとリアクションのために左右に首を振るので鞭打ちにもなりましたね……。さすがにつらいときはトレーナーさんに来てもらって鍼を打ってもらったり、身体のメンテナンスをしてもらいました。

──過酷な撮影ですね……一番苦戦したシーンはどこですか?

福士 図書館で、ナイフを使って戦うシーンです。とにかく手が速くて、頭が追いつかない。途中、血が騒いだのか芋生ちゃんが「私も戦うところありませんか?」って言い始めて(笑)。

芋生 役柄としては足がすくんで動けないという設定なんですけど、間近で見ていると、私も戦いたいなって(笑)。

福士 「あははははー」って笑いながら銃撃ったりね(笑)。

芋生 楽しそうでしたね! 私もやりたかった。

福士 心の中ではずっとファイティングポーズ取ってたよね。監督の次回作では芋生ちゃんがアクションをやりたいと思います。

一同 あははははは(笑)。