「ある用務員」阪元裕吾×福士誠治×芋生悠インタビュー|バイオレンス界の新星が放つ、大人から子供まで楽しめる殺し屋映画

興奮しすぎて、OKが出ない(芋生)

──阪元監督は1996年生まれで、映画界でも若手の監督です。一緒にお仕事をされてお二人はいかがでしたか?

福士 監督の好きなところは、何よりも映画を好きでいてくれるところですね。満足いくものが撮れたら、誰よりも「あー! いいシーン撮れた!」って素直に喜んで興奮してくれている。でもまずは一言OKを言ってくれみたいなところもありました(笑)。

芋生 興奮しすぎて、OKが出ないんですよね(笑)。

阪元 (笑)

左から福士誠治、芋生悠。

福士 OK出すのを忘れてるんですよ。そうなってしまうぐらいのめり込んでくれると、役者としても熱量を持って挑みたくなる。監督が「ん?」って表情しているときは、「そんな顔見たらもう1回やるよ! もう1回だ!」とがんばれる。何十年もやっている監督に比べたら経験は浅いかもしれないけど、何より一番持っていてほしい映画に対する愛情が伝わってくる。いい意味で映画の変態ですね。

芋生 視点がすごく面白いですよね。あまり主人公として描かれないような、用務員を主人公にするのも面白いなと思いました。読んでいる本とかも独特で、裏社会のことにすごく詳しかったり。

阪元 そうですね(笑)。勉強のために読んでいます。ノンフィクションものとか。

芋生 暴力を受けたときに人間がどう反応するのかとか、すぐぱっと教えてくれるんです。監督にはアクションとかバイオレンスを極めてほしいです!

福士 自主映画で仲間と一緒に楽しく作っているのと、商業映画を撮るのとでは監督の中で違いは感じるんですか?

阪元 違いますね。最近は自分で撮っていたので、カメラマンさんがいらっしゃるのは久々だったんです。こう撮ったらかっこいいよなって自分が思っているものを、全部理解してくれていて。よくわかるなーって(笑)。

一同 (笑)

阪元 ベテランの役者さんとこんなふうにお仕事をするのも初めてだったんです。皆さん台本を読み込んで来てくれる。そこは学生同士でやっていたときと一番違うところですね。いろんな視点を持っていて、そういう見方をするんだって気付きもありました。

──どんな気付きがあったんでしょうか?

阪元 唯の腹違いの兄を演じている前野朋哉さんが、1シーン目を撮り終えたときに「このキャラって『ドラゴンボール』のフリーザなんですね。そういう感じの面白さですよね」って言っていて。それで俺も、そうなんだ!って気付いたんです。

福士 強敵ゆえの余裕がありますよね。一見親しみやすい人に見えて、唯のことバシバシたたいたり。

芋生 前野さん自身は優しい人だから、「ごめん」って言われながら、バシバシやられました(笑)。

阪元 突然変貌する。野性味が出ていますよね。

「血みどろでいいんです!」と言っていました(福士)

──本作は6日間で撮影したと伺いました。かなりハードな撮影をともに戦ったと思います。

芋生 アクションシーンが本当にハードな作品なので、ヘトヘトになりながら戦っている福士さんを撮影中は間近で見ていたんですが、全部、嘘なく、深見としてそこにいてくれました。福士さんに、唯の魅力を引き出してもらったと思っています。

福士誠治

福士 うれしいですね、こんなこと言っていただいて。芋生ちゃんも唯として嘘なくそこにいてくれた。本来の芋生ちゃんは人見知りな部分もあると思うのですが、よーいスタート!って本番が始まると唯になっている。目と目でお互い演技を交わせるのがいいなと。演じている最中は、瞬間瞬間で爆発してくれますし、形じゃなくて感情で来てくれるからこっちも感情が乗っていく。相乗効果ですね。そして、お酒が強かったりする意外な一面もあって……(笑)。

芋生 ふふふふふ(笑)。

福士 撮影が終わってからお食事会をしたんです。コロナもありますから、少人数で対策もして。そこで「え? 芋生ちゃんって飲めるの?」みたいな(笑)。

芋生 学生のイメージですよね。映画では女子高生を演じていましたし(笑)。

福士 「カシスウーロン……え? 日本酒!」という驚きもあって。監督は楽しくなりすぎて、ちょっと酔っ払っちゃったり(笑)。

阪元 人生で一番ってぐらい飲みましたね(笑)。

福士 普段日本酒飲まないのに芋生ちゃんに付き合って飲んでたからですよ。

芋生 KO勝ちしてしまいました(笑)。

福士 そのときも、監督は「バイオレンスが好きなんですよ! 血みどろでいいんです!」と言っていました。

阪元裕吾

阪元 自分が怖いです……。そんな人怖いですよね(笑)。

福士 いや、いいんですよ! 映画が好きなことが伝わってきました。みんな現場に飢えている時期だったから、物作りができる幸せを語り合ったりした素敵な時間でした。思い出が尽きないです。

──お話を伺っていて、チームワークのよさと、この作品に皆さんが懸ける思いが伝わってきました。

福士 本当にたくさんの人に観てもらいたいです。アクション映画って好きな人は好きだけど、そうじゃない人は苦手意識もあると思うんです。でもこの作品は筋肉ムキムキの人たちがずっと戦っているお話ではなくて、こんな人たちが戦うんだという意外性のある作品。深見という人間を軸にしたヒューマンストーリーにもなっていて、誰もが持っている普遍的な感情にあふれている。だから、大人も若者も楽しめると思います。

芋生 「ある用務員」ってなんだろう?ってところから入っていただいてもいいですよね。

福士 そうそう! タイトルに謎があっていいんだよね。

芋生悠

芋生 今のご時世、人と会うことが減って、体温に触れる機会も少なくなっているじゃないですか。でも、この作品の中では体も心もぶつかり合っている。映画を観て周りの大切な人を改めて考えるきっかけにもなるのかなって。いろんな観方で楽しんでほしいです。

──監督はどんな方に観ていただきたいですか?

阪元 実写映画をあまり観ない人に観てほしいです。僕はジャンプ系のマンガをよく読むんですが、映画の参考にもしているんです。「ある用務員」では魅力的なキャラクターをたくさん出して、各々好きな人を見つけてくださいという差し出し方をしている。それが深見だったり、唯だったり。実写映画にマンガのエッセンスを入れて、エンタメにしています。映画を観ながら好きなキャラクターを見つけていただけたら。

福士 「ある用務員2」もやりたいですよね。あんな惨劇を見た唯のその後も気になります。絶対普通のOLにはなれない。監督は2よりも新しい作品を作りたいかもしれないけど(笑)。

阪元 いやいやいやいや! やりたいです!

──続編のためにも「ある用務員」を盛り上げたいと思います。

福士 盛り上げてください! こんなに盛り上げたことあるかな?というくらいお願いします(笑)。

左から福士誠治、芋生悠。

2021年1月22日更新