WOWOW「W座からの招待状」|良質な映画をお届け!「新聞記者」「ウィーアーリトルゾンビーズ」監督による交換レビューも

「ウィーアーリトルゾンビーズ」

※テレビ初放送
WOWOWシネマ 2020年8月2日(日)21:00~ほか

「ウィーアーリトルゾンビーズ」

「そうして私たちはプールに金魚を、」で日本人監督初のサンダンス映画祭短編部門グランプリを受賞した長久允の長編デビュー作。両親を亡くしたが泣けない13歳のヒカリ、イシ、タケムラ、イクコは、心を取り戻すためにゴミ処理場の片隅でLITTLE ZOMBIESというバンドを結成する。4人の演奏を偶然見かけた男が動画をアップロードしたことを機に、またたく間に“社会現象”となった彼ら。しかし予想もしない運命が4人を翻弄していく。

スタッフ / キャスト

監督・脚本:長久允
出演:二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中島セナ、佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏ほか

 レビュー
ファンタジックかつ唯一無二の作品

文 / 藤井道人(「新聞記者」監督)

「そうして私たちはプールに金魚を、」を観た時から強烈な個性と、社会を見る長久監督の眼差しが好きだった。
また、撮影監督の武田浩明くんが大学の後輩ということもあり、かなり前から勝手に長久監督には親近感を持っていた。
なので、長久監督の長編デビュー作となる本作「ウィーアーリトルゾンビーズ」は予告編の段階でとても楽しみにしていたし、
サンダンス映画祭で日本人初の審査員特別賞を受賞した時はとても嫉妬した。
そして、公開になりすぐに劇場に観に行った。結論から言うと、本作は期待の何倍も上を行くファンタジックかつ唯一無二の作品だった。
本作の、デビュー作の重圧を一切感じさせない映像のおもちゃ箱のような展開に、胸が躍り、感嘆した。
特筆すべきは、登場人物の「感情」の部分を上手く演出していること。
子供たちは、とても感情がないように見える。タイトルの通り「ゾンビ」のようだ。だからこそ、4人が本当はどう思っているか知りたくなる。
その作戦にまんまとハマってしまった。特に中島セナの目は凄いなと思った。じっとカメラを見ているだけで、何か見透かされているような気持ちになる。
そういう意味では、キャスティングの時点でもはや長久監督の術中にハマってしまっていたのかもしれない。
一方、大人たちへの演出はその逆である。
饒舌であり、調子がよく、狡猾に見える。セリフを撮っているというよりドキュメンタリーを見ている様な感覚に襲われる。
このコントラストが本作のスタイリッシュな映像の世界観をより強めて、「人間」を浮かび上がらせることに成功しているのだなと思った。
映画が進んでいくにつれて、登場する子供たちの抱える虚無感が、大人になった僕たちの感情と徐々にシンクロして、問いかけてくる。
「僕たちこそ、死んでるように生きてるんじゃないか?」
しがらみ、社会のルール、本音と建前。感情を持たず生き延びることがとても上手くなってしまった大人たちにこそ、この映画は観て欲しいなと思った。
最後に、僕がこの映画を一番評価したい部分は、監督のみならず、この映画に執着して「作り上げた仲間たち」である。
昨今の映画業界において、オリジナル映画の企画は通りにくく、小説や漫画を実写化するケースが多い。これに対しては正直否定はない。
ビジネスとして考えた時に「リスクマネジメント」は必要だからだ。
しかし、この作品にはそれがないように感じた。監督の感性を信じた沢山の仲間たちと、とても愛情のある映画を作り上げた。
それこそ、この映画に出てくる登場人物のように。そのこと自体が映画業界にとっての光明だと思った。
僕も同世代の同志(勝手に申し訳ありません)として、負けないようにオフェンシブに戦っていきたい。

 コメント
「ウィーアーリトルゾンビーズ」監督・長久允 コメント

長久允

この映画は、絶望するこどもたちのために作りました。絶望しないためにどうすればいいかの僕なりの想いを力いっぱい詰めこんでいます。エンドロールのあとまで大事なシーンが続きますので、観てもらえたら嬉しいです。また、去年の公開時よりも、悲しいことに、誹謗中傷のこと、SNSのこと、自分たちの利益しか考えない大人の組織のこと、それらがより痛々しくリアリティーをもってしまって見えてくるかもしれません。苦しいです。映画ができることを、これからも考えていきたいです。この世界が、もっとやさしくなることを心から祈ります。

番組では、ほかにもバラエティに富んだ作品を紹介

「轢き逃げ 最高の最悪な日」※テレビ初放送WOWOWシネマ 2020年7月5日(日)21:00~ほか

「轢き逃げ 最高の最悪な日」

「TAP -THE LAST SHOW-」に続く水谷豊の監督作第2弾。とある地方都市で交通事故が起こり、1人の女性が命を落とした。現場から姿を消した車の運転手は、結婚式の打ち合わせに急いでいた青年・宗方秀一。この“ひき逃げ”事件によって当事者や被害者の両親、ベテラン刑事らの人生が複雑に絡み合い、それぞれが抱える心情が浮き彫りになっていく。

スタッフ / キャスト
監督・脚本:水谷豊
出演:中山麻聖、石田法嗣、小林涼子、毎熊克哉、水谷豊、檀ふみ、岸部一徳ほか

「さらば愛しきアウトロー」※テレビ初放送WOWOWシネマ 2020年7月12日(日)21:00~ほか

「さらば愛しきアウトロー」

1980年代初頭のアメリカに、ほほえみながら誰ひとり傷付けず目的を遂げる銀行強盗フォレスト・タッカーがいた。その紳士な人柄で、被害者や事件を追う刑事を魅了するフォレスト。あるときかつてない“デカいヤマ”を成功させた彼だったが、“黄昏ギャング”と大々的に報道されたことで予期せぬ危機に直面する。主演のロバート・レッドフォードにとって、これが俳優引退作となった。

スタッフ / キャスト
監督・脚本:デヴィッド・ロウリー
出演:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、ダニー・グローヴァー、ティカ・サンプター、トム・ウェイツ、シシー・スペイセクほか

「よこがお」※テレビ初放送WOWOWシネマ 2020年7月26日(日)21:00~ほか

「よこがお」

第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した深田晃司によるヒューマンドラマ。看護師の白川市子は、訪問看護に通う家の長女・基子に憧れ以上の感情を寄せられていた。そんな折に基子の妹のサキが行方をくらます。サキは無事に戻ってきたが、市子は事件への関与を疑われ、これまで築き上げてきた生活を壊されてしまう。

スタッフ / キャスト
監督・脚本:深田晃司
出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、吹越満、須藤蓮、小川未祐、大方斐紗子、川隅奈保子ほか

「世界の涯ての鼓動」※テレビ初放送WOWOWシネマ 2020年8月9日(日)21:00~ほか

「世界の涯ての鼓動」

ノルマンディーの海辺に位置するホテルで出会い、情熱的な恋に落ちたダニーとジェームズ。互いに生涯の相手だと気付く彼らだが、ダニーは深海に潜り生命の起源を解明する調査、MI-6の諜報員・ジェームズには爆弾テロを阻止する仕事が待っていた。そして離ればなれになった2人は、それぞれ任務の最中に危機的な状況に陥り……。「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」で知られるヴィム・ヴェンダースが監督を務めた。

スタッフ / キャスト
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:エリン・ディグナム
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル、アレクサンダー・シディグ、レダ・カテブ、アキームシェイディ・モハメドほか

「パピヨン(2017年)」※テレビ初放送WOWOWシネマ 2020年8月16日(日)21:00~ほか

「パピヨン(2017年)」

作家アンリ・シャリエールの実体験をもとに、13年間で9度もの脱獄に挑んだ男たちの姿を描く人間ドラマ。スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの共演で大ヒットを記録した映画が、40年以上の時を経てリメイクされた。無実の罪で絶海の孤島に投獄された終身刑囚“パピヨン”を「パシフィック・リム」のチャーリー・ハナム、パピヨンと奇妙な絆で結ばれる囚人仲間のドガを「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレックが演じた。

スタッフ / キャスト
監督:マイケル・ノアー
脚本:アーロン・グジコウスキ
出演:チャーリー・ハナム、ラミ・マレック、イヴ・ヒューソン、ローラン・モラー、トミー・フラナガン、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲンほか

「真実(2019年)」※テレビ初放送WOWOWシネマ 2020年8月23日(日)21:00~ほか

「真実(2019年)」

フランスの国民的大女優ファビエンヌが自伝本「真実」を出版したことをきっかけに、彼女とその娘家族が再会。しかし娘は本の内容が偽りだらけなことに驚き、母と対立する。そして2人の間に隠された愛憎入り混じる“心の影”が次第にあらわになっていき……。是枝裕和がメガホンを取り、カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが母娘に扮した話題作。第76回ヴェネツィア国際映画祭ではコンペティション部門オープニング作品に選出された。

スタッフ / キャスト
監督・脚本:是枝裕和
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、マノン・クラヴェル、アラン・リボル、クリスチャン・クラエ、ロジェ・ヴァン・オールほか

「ぼけますから、よろしくお願いします。」WOWOWシネマ 2020年8月30日(日)21:00~ほか

「ぼけますから、よろしくお願いします。」

テレビディレクターの信友直子が、広島・呉市に暮らす自身の家族を捉えたドキュメンタリー。病に直面して苦悩を抱える母と彼女に寄り添う父の姿が、娘である“私”の視点から丹念に切り取られていく。2016年と2017年にテレビ放送された番組に追加取材と再編集が行われ、2018年に完全版として劇場公開された。同年のキネマ旬報ベスト・テンでは、文化映画ベスト・テン第3位にランクイン。

スタッフ / キャスト
監督:信友直子