「わたしは光をにぎっている」|松本穂香が川島小鳥ワールドへ ノスタルジックな銭湯でのひととき

「私ってどういう人間なんだろう」ということを知りたかった(松本)

──松本さんは澪を演じるにあたり「あえて作り込まない意識をしていた」と聞きました。

松本 最初に脚本を読んだとき、作り込まなくていいなと感じたんです。

──それはなぜでしょう?

松本 その時期、あまり調子がよくなかったというか、しんどい気持ちを抱えていて。「私ってどれくらいできるんだろう?」と自分のことがわからなくなっていた。そのときにいただいた脚本を読んだら、「私のままでいいんだよ」って肯定してくれてる気がしたんです。澪に自分と近いものを感じたので、1回作り込まないで挑戦してみようって。「私ってどういう人間なんだろう」ということを知りたい気持ちがありましたし、そういうことが求められている映画だと思いました。

中川 その話は初めて聞いたけど、とてもいいですね。

──澪とはどんな部分が近いと感じたんですか?

松本 「しゃべらないことで自分を守ってるんだよ」と澪が言われる場面があるんですけど、自分の心にもグサッと刺さりました。私は優しい親のもとで育ったので、自分の機嫌が悪いときに察してもらうことに慣れているんです。環境に甘えてしまうところがある。何かを人に伝えるって勇気がいることだし、傷付く可能性もあるじゃないですか。黙っていればプラスマイナスゼロの状態でいられると思ってしまう、弱い部分が似ていると思いました。

中川 それは今の若い日本人の多くに言えることですよね。リスクを回避する傾向があって、自分から他者に飛び込まない。そんなあり方を見ていていら立つこともあれば、もちろん自分自身にそういう部分を見出すこともある。自分が感じる同世代のイメージを澪に託したかもしれないです。

「わたしは光をにぎっている」

──撮影中、中川さんに「澪はもっとこういう感じだと思う」と言われた松本さんが「澪は私だから」と答えたこともあったそうですね。

中川 面白い話だからあちこちで言ってしまうんですよね、(松本を見ながら)ごめんなさい(笑)。

松本 私は覚えてないです……いつですか?

中川 スチル撮影のときに言ってました。そういうことを言ってくれる松本さんに、澪を演じてもらってよかったなと感じましたけど。

松本 生意気ですけどね(笑)。

中川 でもそのあとに「さっきは生意気なこと言ってすみませんでした」とも言ってくれて。素敵な人だなと思いました。

子供は性を意識していないから、風景になじむことができる(中川)

──撮影にあたって中川さんは、松本さんに「人間を含む風景が主人公」「少女ではなく子供として演じてほしい」と伝えたと伺いました。

中川 はい、澪の身体を含んだ景色そのものを主人公として描きたかったんです。子供として演じてほしいと言ったのは、僕が、人間は自分の性を意識するところから自意識が始まると感じているからです。子供は自らの性を意識していないから、風景になじむことができるのではないでしょうか。

──松本さんは中川さんからの言葉を受けて、どんなことを考えましたか?

松本 子供として演じるというのはすんなり「ああ、なるほど」と思えました。居場所がテーマになっている作品だと思うので、作ろう作ろうとはせず、澪がいる湖や旅館に近付いて撮影に臨んで。空気感になじむと言いますか。その土地で暮らしている人たちはどんなことを考えているんだろう、というのは意識しました。

中川 きっと理屈でお芝居されているわけではないですよね。

松本 そうですね、澪でいるときは「こう演技しなくちゃ」とかは考えていないです。すごく寒いときに撮ったんですけど、湖に入っても全然寒くなくて。むしろ温かく感じました。

中川 すごい。僕は寒くて震えてました(笑)。

松本 まひしてくるというか、いい言い方をすれば一体化していました。境目がなくなっていく感覚も、頭でいろいろ考えていたら味わえなかったと思います。セリフが少なかったのも大きいかもしれません。

中川 いい役者さんとは、自分をこう見せようと考えるのではなく、そこにある温度を感じたり、音を聞いたりすることができる人だと思います。松本さんは、まずご自身がかけがえのないその瞬間のその場所にいる、ということを感知する力が優れているのではないでしょうか。

「わたしは光をにぎっている」

──澪のしぐさで言うと、肩から掛けているバッグのひもを触ったり、両手をもぞもぞさせるのが印象的でした。あれは台本に書いてあったわけではなく、松本さんの中から自然に出てきたものですか?

松本 はい、たぶん澪は落ち着かないときにそういうしぐさをするんだと思います。そこに自分の居場所を感じていないことを表しているのかな。

中川 足でも落ち着かない様子を表現していましたね。スーパーで怒られているとき、1、2歩後ずさりするんです。身体全体で感情を語るということは、ロングショットの多い今回の映画ではとても重要でした。