言葉にできないことを音にしてくださった(今泉)
──今、音の話が出ましたが、細野晴臣さんが手がけた劇伴はいかがでしたか?
許 特に、かなえと堀が車に乗っているシーンの音楽が好きでした。あとは水中の不穏さを感じる音楽も印象的でした。音楽を通して自分の感情も思い出せるし、共感できるなと思いながら聴きました。
──今泉さんは、細野さんとどのようなやり取りをされたのでしょうか?
今泉 最初に会ったときに「自分は明るいところに明るい曲を、とか、寂しいから寂しい曲を、という付け方は普段からしないんです」という話をして。そしたら「そうだよね」と賛同してくださいました。僕は映画を作るときに、1回音楽なしで成り立つものを作ろうという意識があるんです。映像だけでは成り立っていなくて、その分を音楽で補ってもらうというのは音楽にも失礼な気がするので。細野さんの付けてくださった劇伴は、ずっと音楽が流れているわけではないけど、本当に欲しいところには音楽が付いていて。この映画のテーマの1つは“嘘と本当について”ですが、心の奥底の気持ちや、言葉にできないことを音にしてくださったと感じました。
──本作の登場人物の中で特に気になる方を教えてください。
許 全員気になります(笑)。
今泉 もし演じるなら、誰をやりたいですか?
許 かなえさんです。
今泉 かなえなんですね。男性じゃなく。
許 はい。僕も以前、同じような経験をしたことがあったので共感しながら観ていました。
今泉 そうだったんですね。
許 この映画を観て「もしかしたら自分も、その人のことを本当には知ろうとしてなかったのかな」と思うようになりました。
今泉 難しいですよね。友人であっても、恋人、家族であっても全部をわかるわけではないから。僕には子供が3人いるんですけど、親ってどうしても子供に対してどういう仕事に就いてほしいとか、どういう人と恋愛してほしいとか考えちゃうじゃないですか。もちろんそれは大切に思っているからですけど。でも僕は子供もどこか他人だと思うようにしていて。自分の子供と言えど、好きなものも違うし生き方も違う。だから子供との距離はちゃんと取るようにしています。例えば、今の小学生ってびっくりするくらいYouTubeを観るんですよ。親としてはちょっと心配になるんですけど、「そんなの観ないで」とは言わず「時間決めなよ」くらいにする。僕らの頃のファミコンみたいなものです。そうやって、家族でも恋人でも友人でも、好きなものや考え方が違うということを認め合えたらいいのかなと思いますね。
いい距離感でいることが大事(許)
──豊凡さんはグループで活動していますが、メンバー同士でわかりあうために意識していることなどはありますか?
許 意見が違ったとしても、お互い理解しようとしています。11人もいるので、意見がぶつかることもありますが、まずは、その人がどういう理由でそう思ったのかを知ろうとするようにしています。
今泉 もちろんグループの皆さん、一生懸命にやっていると思うんですけど、モチベーションに温度差があったり、できることとできないことの能力差があったりするじゃないですか。歌やダンスがすごく上手な人からしたら「なんでそんなこともできないの?」と思ったり、「全員、自分と同じくらいのモチベーションを持ってくれよ」と思ったり。そんなときは話し合ったり、モチベーションを引き上げようとしたりはするんですか?
許 最初はメンバーに対して「メンバーなんだからこうあるべき」と思っていた部分もありましたが、今ではメンバーを信頼しているからこそ、いい距離感でいることが大事だと感じます。
今泉 確かに、それが逆に個人の能力を閉ざす可能性もあったりしますしね。映画を作っているときと似ていますね。
答えがこの映画の中にあるかもしれない(許)
──本作は、結末が原作とは異なります。結末についてはどう思われましたか?
許 原作の最後って結局……。
今泉 堀がバスに乗るか乗らないかを、みんなが見つめている。
許 そうですよね。映画のラストは、堀さんに温かさを感じました。
今泉 もちろん原作のラストは素晴らしいんですけど、このあとを描くとしたらどうなるんだろうと思って足してみました。今言ってくれた温かさじゃないけど、どこか希望……というのも違うんですけど……本当のことを言うことでもしかしたら傷付くかもしれないけど、それでも2人が向き合う時間を見てみたいなって。
──豊凡さんのように、この結末に温かさを感じる人も多いと思いますが、今泉さんとしては観終わったあとに温かさや希望を感じてほしいと思って選んだ結末ではない?
今泉 映画を作るうえで「観終わったあとにこういう気持ちになってほしい」というものはあんまりなくて。もちろん作品によってはみんなの感情がひとつになるよさもありますけど、僕は観終わったときの観客の感情はバラバラになったらいいと思っているんです。「温かい話だったね」と思う人もいれば、「つらい終わり方だ」と思う人がいてもいい。今回で言うと、原作のラストそのままにする案もありました。だけどせっかく2人を描くのなら、そのあとも日々が続いていくというものにしたかった。常々僕は、映画の終わりが彼らの日々の終わりだとはあまり思っていなくて。始まりも終わりも、その前後を感じられるように作りたいと思っているので。
──そんな映画「アンダーカレント」、豊凡さんは特にどういった方に薦めたいですか?
許 人間関係に悩んでいる人や「自分はこの環境においてどういう存在なんだろう」とちょっとした疑問を抱いている人にはぜひ観てほしいなと思います。もしかしたらその答えがこの映画の中にあるかもしれないので。
──ちなみに先ほど、「この中だったらどの役を演じたいですか?」という会話もありましたが、豊凡さんは今泉さんの作品に出演したいというような願望は?
今泉 お芝居はやっていないんですか?
許 興味はあります。現場の空気感を味わってみたいです。
今泉 アーティスト活動のプラスにもなるでしょうしね。
──いつか今泉さんの作品で豊凡さんの姿を見られることを期待しています。
今泉・許 よろしくお願いします!
プロフィール
今泉力哉(イマイズミリキヤ)
1981年2月1日生まれ、福島県出身。2010年に「たまの映画」で商業映画監督デビューし、「サッドティー」「愛がなんだ」「街の上で」「窓辺にて」「ちひろさん」などを手がけた。今後の監督作として、マンガ「からかい上手の高木さん」を実写化することが発表されている。
許豊凡(シュウフェンファン)
1998年6月12日生まれ、中国出身。2021年にオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」に出演し、同番組から誕生したグローバルボーイズグループ・INIのメンバーとしてデビューした。2022年に「コンビニ★ヒーローズ ~あなたのSOSいただきました!!~」でドラマ初出演。2023年10月11日にはINIの5TH SINGLE「TAG ME」が発売される。