映画ナタリー Power Push - 辛酸なめ子が語る「少女」

歪な闇と死生観を抱え生きる17歳の少女たち

本田翼&山本美月インタビュー

「少女」で、由紀と敦子の気持ちの流れを繊細に演じた本田翼と山本美月。「まったく違ったイメージを持つ役者さんに演じてもらえたら面白い」との三島有紀子の思いから出演が決まった2人は、自身と対照的な難役を務め、何を感じたのだろうか。ここでは、負の感情=闇とひたすら向き合い続けた2人のコメントを紹介する。

本田翼
山本美月
Q1. 脚本(原作)を読んだ感想はいかがでしたか?

本田翼 この子(由紀)を演じるのかと驚きました。青春や友情に目を当て、高校生の難しい感情が繊細に描かれていると思いました。

山本美月 元々、湊かなえさんの書くミステリーが大好きだったので、うれしく思いました。脚本は残酷な中にも、どこか心地よさがあって、敦子という役をやりきることができれば、女優としての幅が広がると感じました。

Q2. お二人は、ご自身が演じたキャラクターをどのように作り上げましたか?
監督の三島有紀子(左)と本田翼(右)。

本田 すごく悩んだし、監督とも役について話し合いました。由紀は心の中にフラストレーション=怒りを持ってるけど、その理由や何に不満があるのかがわからない。でも、同じような感覚は高校時代の私にもあったので、その経験から由紀を理解し、入っていくことができました。

山本 私にも由紀のような友達がいたことを監督に話すと「そのときの気持ちを思い出して演じてほしい」と言われました。敦子にならなきゃとの思いに自分自身が追い詰められたこともありました。そんなときにスタッフさんが気遣って監督と2人にしてくれて。悩んだけどスッキリしたし、そこでようやく敦子になれたように思います。

左から佐藤玲、監督の三島有紀子、山本美月。
Q3. 役作りで苦労した点はありましたか?

本田 監督から「理不尽に思った過去を思い出して演じてほしい」と言われたんです。笑顔を封印して、イライラすることを見つけて、常に怒りを持って撮影に臨みました。心も追い詰められてたし、すごく苦しい時間でした。

山本 孝夫さんのアパートで「ヨルの綱渡り」を読むシーンがあるんですけど、私にとって大事な場面だと思い、いろいろ考えて緊張しながらも撮影に臨んだんです。最初のトライで台本通りに泣けたけど、監督からは「記号としての涙はいらない」と言われて。そのとき、台本にとらわれすぎてた自分にハッとしました。涙どうこうではなく、感情が出ていないって。

Q4. 完成した「少女」を観た感想を聞かせてください

本田 ドキドキと鼓動が早くなって、どんどん引きこまれて、あっという間に観終わった感じです。ミステリー要素以外にも、青春、家族、友情など、いろんなものが詰まっていました。

山本 すごくきれいな画でした。駅のホームに立つシーンなんて、後ろにきれいな花が咲いてて。夕日の光もふんわりときれいで、愛情にあふれた作品だと感じました。最後はゾッとする怖さですけど(笑)。

Q5. 監督の三島有紀子さんの印象についてはいかがでしたか?

本田 とてもパワフルで繊細で、こだわりのある人という印象です。かわいらしいところもあるけど、現場ではとても厳しくて(笑)。監督は、由紀の気持ちなど説明するとき、私に催眠術をかけるように問いかけてくるんです。心を見透かされているような感覚でした。

山本 とても温かい人でした。私のそばで、私の内側に、敦子に向かって話しかけるかのように接してくれるんです。私の中にスッと入ってきて、まるで催眠術にかかっているような感覚でした。監督がまるで由紀のようで、絶対的な存在でもあり、一緒にいることで心が落ち着きました。

Q6. お互いの印象について教えてください

本田 (山本さんは)敦子みたいな部分があると思う。たまに弱音を吐くけど、とても芯が強いんです。泣いたりいじめられたりと、精神的に追い詰められるシーンが多いのに、疲れを見せなかったんですよ。

山本 (本田さんは)とても正直な人で、そういうところが大好き。自分が疑問に感じていることだったり、感覚も合い、一緒にいて居心地がよかったです。愛おしい存在に思えました。

Q7. 本作のテーマの1つ“友情”の定義はなんだと思いますか?

本田 私、連絡をマメに取らないタイプなんです(笑)。だから、半年ぶりに会ってもそう感じさせない人、時間とか関係なく、いつも通りの自分でいさせてくれる人。それが友達かなと思います。

山本 うーん、難しいですね(笑)。相手も友達だと思ってくれてたら。でも友達だと思っていても裏切られたりもしますしね。一緒にいて楽しいとか、プラスの方向に気持ちが揺れる人であれば友達だと思います。

Q8. 今振り返ると、“17歳”の頃のご自身はどんな“少女”でしたか?

本田 結構とがってたんですよ(笑)。一匹狼というか、友達とわいわいする感じじゃなかったんです。図書館で1人、「スラムダンク」を読んでたり、放課後はすぐバイトへ行ったりして。友達は地元の子がいればいいかなって。どこか由紀と共通点があるような気がします。

山本 大好きだったお友達のことで頭がいっぱいで、周りが見えてなかったですね。あと、毎日同じ時間に起きて、授業を受けて、部活をして……。そのサイクルを楽しめてなかったし、少し退屈に感じることもありました。今思えば、そんなことはなかなか体験できないことなので、もっと大切にすればよかったな。

Q9. お二人にとって、「少女」はどんな作品になりましたか?
「少女」より。

本田 私にとっては新しい一歩、新しい一面を見せられた作品になりました。何かに不満を抱えてる由紀。みんな通ったことがある道なんですよね。周りには言いづらくて恥ずかしいとか。でも今は「あのときがあったから」と思える。だからきっと、皆さんにも共感してもらえると思います。

山本 とても充実感がありました。現場も一体感があって、つらかったけど幸せだったなと。そして最後に、敦子は由紀とつながれてとても温かい気持ちになれました。絶対いい映画になったと実感しています。敦子さまさまですね。

「少女」より。
Contents Index
「少女」作品紹介
辛酸なめ子インタビュー
本田翼&山本美月インタビュー

「少女」2016年10月8日より全国にて公開

「少女」

「ねえ、死体って見たことある?」。女子校に通う高校2年生の桜井由紀と草野敦子は幼なじみで親友。ある日、転校生のある一言を機に、由紀は人が死ぬ瞬間を見たいという欲望に駆られる。夏休み、由紀は“死”の瞬間を目撃したい思いから小児科病棟でボランティア活動を始める。一方、ある出来事がきっかけで自信を失い、いじめに苦しんでいた敦子もまた、人が死ぬ瞬間を見れば生きる勇気が持てるのではと、養護老人ホームのスタッフとして働くことになる。

スタッフ

監督・脚本:三島有紀子
脚本:松井香奈
原作:湊かなえ「少女」(双葉文庫)
主題歌:GLIM SPANKY「闇に目を凝らせば」

キャスト

桜井由紀:本田翼
草野敦子:山本美月
牧瀬光:真剣佑
滝沢紫織:佐藤玲
小倉一樹:児嶋一哉(アンジャッシュ)
高雄孝夫:稲垣吾郎

本田翼(ホンダツバサ)

1992年6月27日、東京都生まれ。2006年にモデルとしてデビュー。2012年に「恋愛ニート~忘れた恋のはじめ方」でドラマ初出演を果たすと、「GTO」「とんび」などで注目を集め、2015年に「恋仲」で“月9”初ヒロインを務めた。映画では、2012年に「FASHION STORY-Model-」で初主演を飾り、その後も「江ノ島プリズム」「すべては君に逢えたから」「アオハライド」などに出演。待機作には、2016年12月23日公開「土竜の唄 香港狂騒曲」、2017年公開「鋼の錬金術師」がある。

山本美月(ヤマモトミヅキ)

1991年7月18日、福岡県生まれ。2009年に雑誌CanCamの専属モデルとして活動をスタート。2011年にドラマ「幸せになろうよ」に出演し、女優活動を始める。翌年には映画「桐島、部活やめるってよ」でスクリーンデビューを果たした。主な主演・出演映画には「女子ーズ」「近キョリ恋愛」「小野寺の弟・小野寺の姉」「東京PRウーマン」「貞子vs伽椰子」などがある。ドラマでは「HOPE~期待ゼロの新入社員~」「バスケも恋も、していたい」でヒロインを演じた。2017年には主演作「ピーチガール」の公開を控えている。