映画ナタリー Power Push - 辛酸なめ子が語る「少女」

歪な闇と死生観を抱え生きる17歳の少女たち

インタビュー 辛酸なめ子が語る「少女」

「少女」には、女子校という閉鎖空間で繰り広げられるさまざまな闇や葛藤が描かれている。そこで、中高一貫の女子校出身のメディア・アクティビスト、辛酸なめ子にインタビューを実施。本作の感想や、女子校教室内の驚くべき実態を聞いてみた。

高校生の女子は、訳もなく男性教師をにらみつける

──女子校出身者として、「少女」をご覧になっていかがでしたか?

辛酸なめ子

伏線の張り方が素晴らしいですね。意外な登場人物同士がどんどんつながっていくのに驚きました。ただ、男性が観ちゃって大丈夫なのかな、という心配もしました。女子の怖さ、悪い知能の高さみたいなものが凝縮されていますから。男性には直視できない部分もあるんじゃないですかね。

──由紀役・本田翼さんの形相も迫力がありましたね。

本田さんが邪悪な表情をしているのにすごく美しいのは、素材がいいからですよね。確かに、女子校で先生をにらみつける生徒はいますけど、あんなに美しくありません(笑)。

──男性教師はそんなに疎まれるものなんですか?

「少女」より。

女子高生というのは、訳もなく男性教師をにらみつけるんですよ。劇中で、父親と同じ洗濯機で下着を洗いたくないというくだりが出てきますけど、特に30~40代の男性は彼女たちの父親にも近いですし、ギラギラしているから気持ち悪くてたまらない。特に家で父親が尊敬されてないと、そのままおじさん全般がキモいと感じるようになってしまうんです。例外的に、無害なおじいちゃん先生はかわいがられますが。

──嫌われるポイントはどこでしょう。

容姿もあるんですが、妙な自意識がにじみ出ていると嫌われます。まさに本作でアンジャッシュの児嶋さんが演じた小倉先生がそう。昔、体育祭でそういう男性教師と二人三脚をやることになってしまった友達が、「死にたい」と言っていました(笑)。

──女子校の生徒は、男性を全体的に軽視する傾向にあるのでしょうか?

文化祭の準備や力仕事にしても全部女子でやりますから、男に頼る気質が育たないんです。女子校は先生も女性が多いですし、自然と男性の存在感がなくなり、頼りない存在になってしまう。劇中、敦子は剣道をやっていましたから、「男がいなくても私は強い」という気持ちが育まれたかもしれませんね。

エスカレーター式のお嬢様学校はいじめが起こりがち

──その敦子は、剣道の試合に負けたことがいじめられるきっかけになってしまいます。

あそこまで罵倒されることはなかなかないと思いますが、女子校では「誰かが合唱の練習に来なかったせいで、そのクラスが負けた」ということになると、「あの人が真面目にやってないから」って泣く人が出てきたりはしますね。

──女子校にはいじめが多いのでしょうか?

小学校からエスカレーター式のお嬢様学校だと、人間関係がリセットされないので、煮詰まって人間関係がハードに。一方、進学校系はあまりないと思います。いじめより喧嘩とかでしょうか。

──劇中のいじめの方法は本当に陰惨でした。

取材で聞いた話だと、スカートがプリーツに沿ってハサミで縦に切られ、腰ミノ状態になっていたケースもありました。

──女子って怖いですね……。

先生に対するいじめもあります。慶應女子(慶應義塾女子高等学校)に通っていた知り合いから聞いた話では、男性教師が早稲田出身だったので、教壇で母校の校歌を歌えと強要したそうです。

──慶應だけに、早稲田に対抗心がある(笑)。

よくあるのが、先生が教室に入ってきたら全員が後ろを向いているとか、タイミングを合わせて一斉に筆箱を落とすとか。女子の残酷さみたいなものがほとばしる時期なんでしょうね、高校時代って。

──なめ子さんの通っていた学校で、生徒同士のいじめはありましたか?

辛酸なめ子

私の周りで直接的ないじめはなかったんですが、人間関係に悩んでいる人が、生徒同士の人物相関図みたいなのを書いて、廊下に貼り出したことがありました。ざわめきが起こっていましたね。

──彼女はどうしても可視化したかったんでしょうか。

訴えかけたいことがあったんでしょうね。そういうこともあって、どんな派閥があって、今どこがもめている、みたいなことはよく耳に入ってきました。女子校の生徒は皆、人間関係や、かわいさの序列、1人ひとりのセンスやオーラみたいなものを、なんとなく把握しているものなんです。

Contents Index
「少女」作品紹介
辛酸なめ子インタビュー
本田翼&山本美月インタビュー

「少女」2016年10月8日より全国にて公開

「少女」

「ねえ、死体って見たことある?」。女子校に通う高校2年生の桜井由紀と草野敦子は幼なじみで親友。ある日、転校生のある一言を機に、由紀は人が死ぬ瞬間を見たいという欲望に駆られる。夏休み、由紀は“死”の瞬間を目撃したい思いから小児科病棟でボランティア活動を始める。一方、ある出来事がきっかけで自信を失い、いじめに苦しんでいた敦子もまた、人が死ぬ瞬間を見れば生きる勇気が持てるのではと、養護老人ホームのスタッフとして働くことになる。

スタッフ

監督・脚本:三島有紀子
脚本:松井香奈
原作:湊かなえ「少女」(双葉文庫)
主題歌:GLIM SPANKY「闇に目を凝らせば」

キャスト

桜井由紀:本田翼
草野敦子:山本美月
牧瀬光:真剣佑
滝沢紫織:佐藤玲
小倉一樹:児嶋一哉(アンジャッシュ)
高雄孝夫:稲垣吾郎

辛酸なめ子(シンサンナメコ)

1974年8月29日、東京都生まれ。女子学院中学高校へ進学した後、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。メディア・アクティビスト。週刊文春デジタルにて、「ヨコモレ通信」を連載中。著書には、女子校の洗礼を受けた女性たちの知られざる生態をつまびらかにした「女子校育ち」がある。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」「絶対霊度」「なめ単」「諸行無常のワイドショー」。