映画ナタリー Power Push - 辛酸なめ子が語る「少女」
歪な闇と死生観を抱え生きる17歳の少女たち
お互いの性体験を話せるのが“友情”の証
──「少女」では女子同士の友情のありようが大きなモチーフになっています。なめ子さんにとって“友情”の定義とは?
お互いの黒歴史をすべて受け入れられる存在、じゃないでしょうか。
──「あんたあのとき、黒魔術にハマってたよねー」と言えるような?
はい。あとは、お互いの性体験について情報交換し合える仲。
──女子校で性体験の話はオープンなんですか?
見栄を張る人とカマトトぶる人と、両方いますね。盛っちゃう人は「イラン人とやった」とか言ってて、それを聞いてショックで泣き出しちゃう人もいましたよ。
──ずいぶんとウブなんですね。
「あの人、実は中学のときに体験済みらしいよ」「そういえば、いつも肌が火照ってたね」とか。いずれにしろ、クラスメートが処女かどうかを気にしている人は多かったと思います。正直に申告するかどうかは別として。ただ、私の頃は時代的にまだ経験してない人が多かったかもしれません。LINEのようなツールもないので、映画のように情報が一気に拡散することもなかったです。
──なめ子さんの頃は、携帯のない時代ですからね。
当時は手紙です。下駄箱に入れたり、教室で回したり。教室で回すと、真面目な人にすごくにらまれるんですよ。書いてあることは人間関係の悩み。今だとLINEとかでやるんでしょうけど、手紙のほうが後々まで残って楽しいと思います。昔、友達が書いた下ネタ満載の手紙とか、探せば家にあるかもしれません。
──(笑)。では改めて、由紀と敦子と同じ17歳の頃、なめ子さんはどんな高校生でしたか。
由紀が書いたような闇っぽい小説を書くのにも憧れたんですけど、そこまでの文章力はありませんでした。ですから、そのとき好きだった男闘呼組の岡本健一が実は私のことを歌ってる、実は岡本くんと私が幼なじみだった、という内容の小説を書いていました。
──それはギリギリですね。
門外不出です。あとは由紀と同じく男性教師をにらんだり、口答えしたり、早弁も少々。受験のストレスがたまっていた時期には、丸めた新聞紙で友達と殴り合ったりしていましたよ、屋上で。
男性をさげすむ気持ちは30歳くらいまで治らない
──「少女」では女子校の陰湿な部分が目立っていましたが、もちろんよい部分もありますよね。
女子校ではのびのびと自分の個性を追求できますし、女性同士の人間関係をうまく構築して、その中でサバイバルする能力も養われます。女性に対して敵対心を抱かないので、社会に出てから同性と仲良くなりやすいんじゃないでしょうか。ただ、男性全般をさげすむ気持ちが卒業後もしばらく続いてしまうのは、避けられません。私もしばらく男性は性欲まみれだと思い込んでいて、下ネタの話をするのが礼儀だと思っていて、そういう話ばかりしていたらどんどん引かれていきました。
──その気持ちはどれくらい続くんですか?
あくまでも私の場合ですが、30歳くらいになって徐々に治ってきましたね。今は男性は優しくて繊細だと思って尊敬の念を持っています。
──それは……だいぶ引っ張りますね。
大学でリア充な人はすぐ治るかもしれませんけど。とにかく共学の女子と違って、男性に愛想を振りまけないんですよ。
──男子が女子校出身者の気持ちを理解するのに、「少女」は参考になりますか?
いろんな男性の愚かさを描いている映画でもあるので、それらを反面教師にしていただけると、女子校出身者にだけでなく、モテるんじゃないでしょうか。
──ちなみに、なめ子さんは由紀と牧瀬のように、学外の男子とのやり取りはありましたか?
合コンは何度かありました。でも結局、女子だけで部活の話で盛り上がってしまって。男子としては最悪ですよね。女子のルックスがいまいちだと男子があまりにも露骨な態度で、皆で「失礼な男だ」とか言って途中で帰っちゃったこともあります。こういうとき、女子は結束力が強いんです。
──女子校をネタにすると、話が尽きませんね。
女子校出身者がこの映画を観ると、学生時代を次々と思い出せるんですよ。最後も美しいので、思い出をちゃんと美化できます。ただ繰り返しますが、男性教師へのにらみ顔は本田さんだから許せる。一般の女子高生はもっと不細工なので、そのへんは現実をちゃんと認識しなければなと。私も、先生や親を不細工ににらみ倒していた昔の自分を思い出しましたから。
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- Contents Index
- 「少女」作品紹介
- 辛酸なめ子インタビュー
- 本田翼&山本美月インタビュー
「少女」2016年10月8日より全国にて公開
「ねえ、死体って見たことある?」。女子校に通う高校2年生の桜井由紀と草野敦子は幼なじみで親友。ある日、転校生のある一言を機に、由紀は人が死ぬ瞬間を見たいという欲望に駆られる。夏休み、由紀は“死”の瞬間を目撃したい思いから小児科病棟でボランティア活動を始める。一方、ある出来事がきっかけで自信を失い、いじめに苦しんでいた敦子もまた、人が死ぬ瞬間を見れば生きる勇気が持てるのではと、養護老人ホームのスタッフとして働くことになる。
スタッフ
監督・脚本:三島有紀子
脚本:松井香奈
原作:湊かなえ「少女」(双葉文庫)
主題歌:GLIM SPANKY「闇に目を凝らせば」
キャスト
桜井由紀:本田翼
草野敦子:山本美月
牧瀬光:真剣佑
滝沢紫織:佐藤玲
小倉一樹:児嶋一哉(アンジャッシュ)
高雄孝夫:稲垣吾郎
© 2016「少女」製作委員会
辛酸なめ子(シンサンナメコ)
1974年8月29日、東京都生まれ。女子学院中学高校へ進学した後、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。メディア・アクティビスト。週刊文春デジタルにて、「ヨコモレ通信」を連載中。著書には、女子校の洗礼を受けた女性たちの知られざる生態をつまびらかにした「女子校育ち」がある。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」「絶対霊度」「なめ単」「諸行無常のワイドショー」。