映画ナタリー Power Push - 辛酸なめ子が語る「少女」
歪な闇と死生観を抱え生きる17歳の少女たち
序列上位の人から誘われても、お金がなければ遊べない
──例えば中高一貫の女子校では、中1で決定された序列内のポジションは、高校卒業までずっと変わらないんですか?
あまりにもキャラが濃い人は変わりませんが、それ以外の人はちょっとオシャレになって洗練されれば、ランクアップすると思いますよ。
──なめ子さんの教室内でのポジションは?
私は真ん中へんくらいでした。たまに上位の人から遊びに誘われるんですけど、お小遣いが少なくて、あまりついて行けませんでしたね。上位の家が裕福でオシャレな人たちは、中高生でも表参道のカフェに行ったりするんです。私はそこでのお茶代500~600円すら出せなかったので、水だけ飲んでいました。
──財力も序列を決めるポイントなんですね。
ええ。うちは私服の学校だったので、服にどの程度お金をかけてるかが、教室でわかっちゃうんですよ。いつも同じ服を着てる人は「不潔」なんて言われてました。ちなみに、そう言われてた人は、お弁当用の箸を持って帰らず、舐めて洗ってるらしいと……。
──ひどいうわさですね。
いえ、彼女は本当に舐めてました。
──……それはともかく、女子校でいじめに遭ったら、どうサバイブしていけばよいのでしょう。
校外に友達をたくさん作るのは、1つの方法です。音楽が趣味ならライブに行くとか、レコード屋に行くとかして、年上の友人を作る。女子校は本当に狭い世界なので、外の世界に友達がいると一目置かれます。「あの子は別の世界を持ってるんだな」と。
──劇中の桜川女学院に、もしなめ子さんが通っていたら?
いじめに遭っている敦子の周囲で「ウケるー」とか言っている、一番卑怯な人になっているでしょうね、たぶん(笑)。
女子同士が完全な依存関係になっていることも……
──転校生の紫織は、かなりかき回す存在でしたね。
女子校のクラスは人間関係が大切ですから、転校生は教室内をじっくり観察して、どこに入っていくかを考えなきゃいけないんですよ。紫織は、由紀と敦子が「一見して仲が良いけど、なんとなくギクシャクしている」のを察して近付いた策士です。そういう意味で、紫織は登場時から信用できませんでしたね、私は!
──自分の場所をどこに設定するかを、かなり考えなきゃいけない。転校生に限らず、女子校で毎日を生き抜くのは大変ですね。
思春期の女子は皆そうかもしれないですけど、1人でいるところを誰かに見られたくないんですよ。1人で行動していると恥ずかしい。だから誰かしらとつるむ。高3くらいになると精神的に大人になりますから、1人でもいいやと言えるんですが。私も、クラス替えのたびにどこかのグループに所属していました。
──由紀と敦子はどのグループにも属さず、ほとんど恋人関係のような友情を育んでいきました。女子校にこういう関係性は多いんですか?
多いです。女子同士で完全な依存関係になっていたり、カッコいい先輩に憧れていたりというのは日常茶飯事。同性にモテる男っぽい人を巡って、誰かが誰かにビンタしたらしい……なんて話も聞きました。
──「この泥棒猫!」的な(笑)。完全に痴話喧嘩ですね。
劇中でも由紀が敦子を守ろうとしていましたし、やはり女の子が2人だと、どちらかが守る側、どちらかが守られる側の役割になるんでしょうね。
“高2病”の症状は、この年代ならでは
──由紀と敦子は「人の死を見たい」という思いに駆られます。そういう文学的衝動みたいなものは、女子校の生徒に生まれがちなのでしょうか。
死まではいかないですけど、コックリさんにハマっている人はいましたよ。腕が動いて止まらなくなった!とパニックになってましたね。霊を呼び出しているわけですから、これも死の一部ではないでしょうか。あとは、「誰それが黒魔術にハマってるらしい」なんてうわさも飛び交ってました。
──黒魔術、ですか。
いろんな意味で、あの時期の女子は闇の部分に惹かれちゃうんでしょうね。ちなみにその人は、なぜか40代の女性科学教師に恋してました。
──大人になってから振り返ると、相当な黒歴史ですね。
由紀が「ヨルの綱渡り」なんていう純文学系の創作小説を書いてしまう“高2病”みたいな症状も、この年代ならでは。大人になって「あれは黒歴史だったよね」と仲間内で笑い合ってるならまだいいんですが、あまりに強烈すぎると触れられもしなかったりして、きついです。
──文化系の趣味にどっぷりという人は多かったんですか。
テーブルトークRPGにハマってる子もいましたよ。RPGといってもテレビゲームではなくて、紙と鉛筆とサイコロと会話だけで進めるやつです。かなりマニアックな趣味ですよね。
次のページ » お互いの性体験を話せるのが“友情”の証
- Contents Index
- 「少女」作品紹介
- 辛酸なめ子インタビュー
- 本田翼&山本美月インタビュー
「少女」2016年10月8日より全国にて公開
「ねえ、死体って見たことある?」。女子校に通う高校2年生の桜井由紀と草野敦子は幼なじみで親友。ある日、転校生のある一言を機に、由紀は人が死ぬ瞬間を見たいという欲望に駆られる。夏休み、由紀は“死”の瞬間を目撃したい思いから小児科病棟でボランティア活動を始める。一方、ある出来事がきっかけで自信を失い、いじめに苦しんでいた敦子もまた、人が死ぬ瞬間を見れば生きる勇気が持てるのではと、養護老人ホームのスタッフとして働くことになる。
スタッフ
監督・脚本:三島有紀子
脚本:松井香奈
原作:湊かなえ「少女」(双葉文庫)
主題歌:GLIM SPANKY「闇に目を凝らせば」
キャスト
桜井由紀:本田翼
草野敦子:山本美月
牧瀬光:真剣佑
滝沢紫織:佐藤玲
小倉一樹:児嶋一哉(アンジャッシュ)
高雄孝夫:稲垣吾郎
© 2016「少女」製作委員会
辛酸なめ子(シンサンナメコ)
1974年8月29日、東京都生まれ。女子学院中学高校へ進学した後、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。メディア・アクティビスト。週刊文春デジタルにて、「ヨコモレ通信」を連載中。著書には、女子校の洗礼を受けた女性たちの知られざる生態をつまびらかにした「女子校育ち」がある。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」「絶対霊度」「なめ単」「諸行無常のワイドショー」。