映画史・時代劇研究家、春日太一が解説する「アウトレイジ 最終章」|転換から回帰へ、北野武による革命的シリーズの終着点

三浦友和は今一番うまい役者の1人

──期待以上のものを観たという感覚はありましたか?

「アウトレイジ ビヨンド」 ©2012『アウトレイジ ビヨンド』製作委員会

三浦友和、素晴らしかったですね。今一番うまい役者の1人だと思います。どんな芝居もできる。「アウトレイジ」は彼の役者人生の中でも大きな試金石になったんじゃないかと思います。1作目の最後では「まさか三浦友和がこんなことをするなんて」という、どんでん返し感がありましたがそれを踏まえての「ビヨンド」ではどう来るのか。1作目であれだけのことをやったわけだから圧倒的に強いキャラクターで来ることは確かだとは思いましたが、それだけで終わらずに、どんどん情けなくなっていく。北野監督の巧みなキャラクター造形ですが、この落差を演じるときに多くの役者はこわもての部分と情けない部分をはっきりと色分けしてしまいます。そこを三浦友和は黒がグレーになり白になっていくという微妙なグラデーションの差をジワジワと見せていくんですよね。だからこそ1作目と対極的な末路の描写が効いてくる。「ビヨンド」は「三浦友和の映画」と言えるほど、際立っていたと思います。

──西野を演じた西田さんをはじめとする、関西の花菱勢はいかがでしたか?

これも見事でした。西田敏行は一般的には「釣りバカ日誌」でのほのぼのとしたコミカルなイメージが付きすぎてますけど、基本的にはシリアスな演技がうまい人ですし、怖さとか凄味とかの表現も巧みです。そしてなんといっても神山繁。この人は何色にでも染まれる俳優。だからこそ正体不明な感じがあって腹の底が見えないんですよね。花菱会のトップ・布施会長役でしたが、神山繁はなんとも飄々と演じていました。そのために、布施の本心は絶えず見えない。そんな人間が上にいるわけですから、花菱会は大きく見えてくるんですよね。それが凄味を利かせた西田敏行との取り合わせにより、本当に恐ろしい組織に思える。そこは西田敏行の横にいる塩見三省の効果も大きいです。黙ってそこにいるだけで怖く見えますから。彼も自分の立ち位置をよくわかっていて、黙るところと怒鳴るところのバランスが抜群にいい。この3人の芝居を見ていると、さすがの加藤も花菱会には歯が立たないという設定に説得力がありました。

セリフのやり取りで見せるやり方は役者がうまいからできる

──「ビヨンド」のときに北野監督がおっしゃっていたのが、「1作目で暴力描写が世間にすごく注目されたので、2作目では暴力そのものは見せずに気が付いたら死体が転がっているというような見せ方をした。そして言葉の暴力を描いた」ということです。

そうですね、関西弁を使ったセリフのやり取りとか。

──1作目で暴力描写を評価されたのに、2作目でがらっとテイストを変えてきたというところはどう思われますか?

「アウトレイジ ビヨンド」 ©2012『アウトレイジ ビヨンド』製作委員会

そもそもシリーズものの映画を撮ってこなかった監督ですからね。それだけに、やるんだったら、それまでとは別のことをやりたいという意識があったとは思います。1作目で激しい暴力描写はやり尽くしていますから、次もまた暴力をやるとなると、その描写がインフレ状態になりかねません。そうなると、リアリティがなくなります。だから、その路線を継続するのは難しい。それよりも1作目で石橋蓮司みたいなうまい役者と初めて組んだことで、そういった役者の芝居を撮っていくことの面白みを知ったように思います。それを生かす意味でも2作目を会話劇にしたのではないでしょうか。セリフのやり取りで見せていくやり方は役者がうまいからこそできますから。

初期北野映画に立ち返った「最終章」

──「最終章」のソフトのスペシャルエディションに収録されている特典映像の中で、北野監督は「3作とも色の違う映画にしたかった」とおっしゃっています。

3作目を作ると知ったときは驚きました。1作目と2作目でアイデアの弾は出尽くしたと思っていましたから。でも、観てみると「なるほど、こう来たか」と思いました。

「アウトレイジ 最終章」

──どういうことでしょう?

北野監督ご本人が作家としてやりたい演出スタイルはやはり「ソナチネ」や「3-4x10月」のような初期作品の「静」だと思います。「最終章」ではそこに立ち返っているように見えました。例えば冒頭の釣りのシーンの牧歌的な空気の中に暴力性がにじみ出ている感じは「ソナチネ」的ですよね。それから、象徴的なのは終盤にある、あるキャラクターが殺されるシーンです。1作目と2作目なら、派手なやり方で殺したと思います。カメラも寄って、役者に大きく芝居させながら。でも、このシーンでは引き画のまま日常の延長のように淡々と殺させています。このクールさは初期北野映画の作りです。ラストシーンも含め、本来の自分の映画に戻っていこうという意図を感じました。

「アウトレイジ 最終章」
2018年4月24日(火)発売 / バンダイナムコアーツ
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7560円 / BCXJ-1361

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ストーリー

元はヤクザの組長だった大友は、日本東西の二大勢力であった山王会と花菱会の巨大抗争のあと韓国に渡り、歓楽街を裏で仕切っていた。日本と韓国を股にかけるフィクサー張のもとで働き、部下の市川らとともに海辺で釣りをするなど、のんびりとした時を過ごしている大友。そんなある日、取引のため韓国に滞在していた花菱会の幹部・花田から、買った女が気に入らないとクレームが舞い込む。女を殴ったことで逆に大友から脅され大金を請求された花田は、事態を軽く見て側近たちに後始末を任せて帰国する。しかし花田の部下は金を払わず、大友が身を寄せる張会長のところの若い衆を殺害。激怒した大友は日本に戻ろうとするが、張の制止もあり、どうするか悩んでいた。一方、日本では過去の抗争で山王会を実質配下に収めた花菱会の中で権力闘争が密かに進行。前会長の娘婿で元証券マンの新会長・野村と、古参の幹部で若頭の西野が敵意を向け合い、それぞれに策略を巡らせていた。西野は張グループを敵に回した花田を利用し、覇権争いは張の襲撃にまで発展していく。危険が及ぶ張の身を案じた大友は、張への恩義に報いるため、そして山王会と花菱会の抗争の余波で殺された弟分・木村の仇を取るため日本に戻ることを決めるが……。

スタッフ

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一

キャスト

大友:ビートたけし
西野:西田敏行
市川:大森南朋
花田:ピエール瀧
繁田:松重豊
野村:大杉漣
中田:塩見三省
李:白竜

白山:名高達男
五味:光石研
丸山:原田泰造
吉岡:池内博之
崔:津田寛治
張:金田時男
平山:中村育二
森島:岸部一徳

※「アウトレイジ 最終章」はR15+作品

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春日太一(カスガタイチ)
1977年9月9日生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。主な著書に「美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道」「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」「鬼才 五社英雄の生涯」「役者は一日にしてならず」「ドラマ『鬼平犯科帳』ができるまで」などがある。週刊ポストでベテラン俳優へのインタビュー、週刊文春で旧作邦画のレビューをそれぞれ連載中。