映画史・時代劇研究家、春日太一が解説する「アウトレイジ 最終章」|転換から回帰へ、北野武による革命的シリーズの終着点

北野武が監督を務める「アウトレイジ」シリーズのフィナーレ「アウトレイジ 最終章」のBlu-ray / DVDが、本日4月24日に発売された。

このたびナタリーでは、映画とお笑いの2ジャンルで特集を実施。映画ナタリーでは、映画史・時代劇研究家である春日太一へのインタビューをセッティングし、観客だけではなく俳優たちをも魅了する「アウトレイジ」シリーズの魅力を解説してもらった。

取材 / 岡大 文 / 平野彰 インタビュー撮影 / 入江達也

「仁義なき戦い」以前以降から「アウトレイジ」以前以降へ

──今回は「アウトレイジ 最終章」のソフト発売に合わせた特集なのですが、シリーズの1作目から春日さんに解説していただければと思っています。「アウトレイジ」は2010年の公開時に鑑賞されたんでしょうか。

そうですね。どういう感じになるんだろうと思っていました。

──というと?

春日太一

北野映画はこのちょっと前ぐらいまで、すごく芸術性の強い方向へ行っている印象がありましたから、意外性を感じましたね。それに、それまでも「ソナチネ」や「BROTHER」などヤクザを題材にした映画もありましたが、キャスティングを見るとまったくそれらと色合いが変わっている。そこに興味を持って観に行ったという記憶があります。

──実際にご覧になってみて、いかがでしたか。

それまでの北野映画は従来の日本映画に対する批評性が強かったと思うんです。日本映画のオーソドックスな文法をやりたくないというところがありました。例えば、感情を込めて芝居をすることだったり、物語を劇的に盛り上げることだったり、そういう泥臭い感じを徹底的に排除していました。「キタノブルー」という言葉もありますけど、本当にクールなタッチで撮られていた。でも「アウトレイジ」では、それまでの監督作では淡々と見せていた物語や人物描写を激しく動かしている。そこが大きな変化です。そしてそれらを、これまでの北野監督ならではのスタイリッシュな感覚をもって切り取っている。ヤクザ映画というジャンルを見事に現代的にリブートしたという印象です。ヤクザ映画の歴史を語るとき「仁義なき戦い」以前以降という言い方があったのですが、そこに「アウトレイジ」以前以降という転換点が新たに加わったと思います。

──「アウトレイジ」をご覧になったとき、「仁義なき戦い」はやはり頭をよぎりましたか?

誰がどこで裏切っているのかなど、1回観ただけでは人間関係が錯綜していてわかりにくいけど、だからこそ混沌として面白い──そういう部分は「仁義なき戦い」をどうしても連想させますよね。ただ、「仁義なき戦い」は戦後日本の焼け跡から始まるメンタリティを深作欣二監督が泥臭くエネルギッシュに撮った映画ですが、北野監督はエネルギッシュな部分は残しつつ泥臭さをスタイリッシュに変えています。

能から歌舞伎へ、北野映画の大胆な転換

──キャストを見てそれまでの北野映画とは違うと感じられたとおっしゃっていましたが、どのような部分が決定的に違うと思われましたか?

「アウトレイジ」 ©2010『アウトレイジ』製作委員会

北野監督はご自身の演出をよく「能だ」と言ってきました。能は表情は変わらなくとも能面への光の当て方や動きで感情や物語が見えてくる。それと同じように、北野映画は基本的に人物たちの表情をあまり変化させることなく、編集技法によって感情や物語を伝えていました。つまり、「静」の演出です。そこが「アウトレイジ」では石橋蓮司だったり三浦友和だったり椎名桔平だったり、芝居をきっちり作ってくる役者たちを起用して、彼らに存分に芝居をさせている。それまでの北野監督の映画とは全然違うものを彼らは持ち込んできて、北野監督はそれをちゃんと受け止める。今までは芝居をさせないということが北野映画の美学だったと思うのですが、「アウトレイジ」ではあえて芝居をさせている。「静」から「動」へと演出方法を変えています。従来の北野映画が能だったとすると、「アウトレイジ」は歌舞伎と言えます。今までは映像の切り取り方によってお客さんに物語や感情を感じさせるという演出でした。役者の芝居を徹底して規定してコントロールしてきました。それが今度は役者に委ねて、その役者たちの芝居がぶつかっていくところを見せる。このやり方は歌舞伎的です。能から歌舞伎へ、北野監督は自らの演出方法を大胆に転換させました。

──そして「アウトレイジ ビヨンド」からは西田敏行さんたちが出演されますね。

「アウトレイジ ビヨンド」 ©2012『アウトレイジ ビヨンド』製作委員会

西田敏行、塩見三省、神山繁。「アウトレイジ」以前の北野映画からすると対極の演技アプローチをしている新劇出身の役者たちが1作目以上に存分な芝居をしています。そして、それがとても楽しい。北野映画の「歌舞伎」化はここで完成したように思えます。

──2作目が公開されると知ったときにはどのような期待を持たれましたか?

1作目の段階で「アウトレイジ」というブランドはすでにできていましたから、今度は西田敏行や神山繁という名うての名優たちが北野監督に対してどんな芝居をプレゼンテーションしていくのか楽しみでした。それから三浦友和ですね。彼の演じた加藤が、2作目ではどういう形で出てくるんだろう、と。1作目がああいう形で終わりましたから、2作目では加藤がフィーチャーされてくることは予想していました。どういう扱われ方をして、三浦友和はどうアプローチしてくるのか期待していましたね。

「アウトレイジ 最終章」
2018年4月24日(火)発売 / バンダイナムコアーツ
「アウトレイジ 最終章」スペシャルエディション Blu-ray

スペシャルエディション
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7560円 / BCXJ-1361

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4104円 / BCBJ-4905

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ストーリー

元はヤクザの組長だった大友は、日本東西の二大勢力であった山王会と花菱会の巨大抗争のあと韓国に渡り、歓楽街を裏で仕切っていた。日本と韓国を股にかけるフィクサー張のもとで働き、部下の市川らとともに海辺で釣りをするなど、のんびりとした時を過ごしている大友。そんなある日、取引のため韓国に滞在していた花菱会の幹部・花田から、買った女が気に入らないとクレームが舞い込む。女を殴ったことで逆に大友から脅され大金を請求された花田は、事態を軽く見て側近たちに後始末を任せて帰国する。しかし花田の部下は金を払わず、大友が身を寄せる張会長のところの若い衆を殺害。激怒した大友は日本に戻ろうとするが、張の制止もあり、どうするか悩んでいた。一方、日本では過去の抗争で山王会を実質配下に収めた花菱会の中で権力闘争が密かに進行。前会長の娘婿で元証券マンの新会長・野村と、古参の幹部で若頭の西野が敵意を向け合い、それぞれに策略を巡らせていた。西野は張グループを敵に回した花田を利用し、覇権争いは張の襲撃にまで発展していく。危険が及ぶ張の身を案じた大友は、張への恩義に報いるため、そして山王会と花菱会の抗争の余波で殺された弟分・木村の仇を取るため日本に戻ることを決めるが……。

スタッフ

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一

キャスト

大友:ビートたけし
西野:西田敏行
市川:大森南朋
花田:ピエール瀧
繁田:松重豊
野村:大杉漣
中田:塩見三省
李:白竜

白山:名高達男
五味:光石研
丸山:原田泰造
吉岡:池内博之
崔:津田寛治
張:金田時男
平山:中村育二
森島:岸部一徳

※「アウトレイジ 最終章」はR15+作品

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春日太一(カスガタイチ)
1977年9月9日生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。主な著書に「美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道」「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」「鬼才 五社英雄の生涯」「役者は一日にしてならず」「ドラマ『鬼平犯科帳』ができるまで」などがある。週刊ポストでベテラン俳優へのインタビュー、週刊文春で旧作邦画のレビューをそれぞれ連載中。