映画ナタリー Power Push - 鈴木敏夫が語る「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」

ジブリを飛び立った「モンスト」脚本家に鈴木敏夫が愛の激励

スマートフォン用アプリ「モンスターストライク」が、YouTubeで配信された短編アニメを経て劇場アニメ化。「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」として、12月10日に全国で封切られる。

脚本の筆を執ったのは、スタジオジブリ出身という経歴を持つ気鋭の脚本家・岸本卓。テレビアニメ「ハイキュー!!」「僕だけがいない街」など数々のヒット作を手がけ、本作で長編デビューを果たした岸本は、いったいどんな人物なのか? 彼をアニメーション界に誘い込んだ張本人である、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫に映画ナタリーが直撃した。

取材 / 岡大 文 / 金須晶子 撮影 / 佐藤友昭

やっぱりジブリにいたんですね

──「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」の脚本を手がけた岸本卓さんは、2005年から約4年半の間スタジオジブリに在籍されていたんですよね。今回この企画に出てくださったのは、やはり岸本さんがポイントだったのでしょうか。

鈴木敏夫

しょうがないよ、あいつの長編デビュー作でしょ? 本当は受けたくなかったんですよ?(笑) 実は「モンスト」っていうのも今回初めて知ったわけでね。ただこれを断ると、あとでナヨに……ナヨって岸本くんのことですけど、何言われるかわかんないから(笑)。

──ジブリを退社されたあとも、岸本さんとは交流が?

基本的にはないですね。でも街でばったり会うんですよ。お互いの仕事場が近いから。それで言うと、僕のまわりでやっていた団塊ジュニアたちは、みんなジブリを出て独り立ちしていきましたね。石井(朋彦)っていうのはアニメーションのプロデューサーとしてがんばっておりまして。あと西村(義明)も。みんな40前後だし、ちょうどそういう年齢になったということですよ。それぞれ自己主張があってね。特にナヨは発信力があって、何を言えば人が興味を持ってくれるかよく知ってる。だからもし僕が取材を断ったりしたら悪口を巧妙に発信すると思うんですよ(笑)。それを避けて通るためには、ちゃんとあいつの応援もしておかないと。まあ、そんなことを思った次第ですね。

──よくわかりました(笑)。そんな岸本さんの長編デビュー作をご覧になっていかがでしたか。

一番最初の感想は……やっぱりナヨってジブリにいたんですねえ。

──端々に影響を感じられますか。

「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」より。

ジブリ作品の影響というか、残滓がいろんなところに出てくるから、もう笑っちゃったんですよ。彼のインタビュー読んだらね、「子供のとき初めて観た映画は『グーニーズ』。その影響が……」なんて言ってるでしょ? でも映画に出てくる赤いドラゴン、あれなんて「ゲド戦記」じゃないですか! 僕が作った「ゲド戦記」のコピーに、「かつて人と竜はひとつだった。」っていうのがありまして。そしたら、セリフにそういうのが出てくるんですよ。この野郎!ってね。あ、この野郎なんて言っちゃいけない(笑)。

──(笑)。ほかにもありましたか?

ドラゴンと仲良しだったのに、いつからか人間はドラゴンを信じなくなる? あれも「ゲド戦記」。「ゲド戦記」は、さんざっぱらあいつと一緒にやりましたからね。でもインタビューを見ても「ゲド戦記」のゲの字も出てこない(笑)。あと沈んだ村が出てくるでしょ? 昔ジブリである作品を企画したんですけど、彼もメンバーの1人で、そういう村を見に行ってるんですよ。ジブリのお金で取材して、このシナリオにちゃっかり入れてる(笑)。「俺の村はもう水に沈んでる」ってセリフが出てきた瞬間、この野郎!って。ああ、またこの野郎って言っちゃった(笑)。それとね……。

──まだあるんですか!

「モンスト」は“コピーのコピーのコピーの世代”

──そこまで言ってしまって大丈夫でしょうか……。

鈴木敏夫

いやでも率直に言いますと、内容において、そして技術において、現代のアニメーションがどういうところにあるのかを勉強するいい機会になりました! 庵野秀明の名ゼリフがありまして。「僕らはコピーのコピーの世代だ」と言っていたんです。宮さん(宮崎駿)たちはコピーの世代だけど、「僕らはコピーにコピーを重ねてる」って。要するにもとがあって、形を変えてまたそれをやるということ。今回「モンスト」を観て思ったのは、「コピーのコピーのコピー」なんだなって。これはナヨだけじゃなくて、いろんな人の作品から感じることです。

──また1つ新しい世代が誕生したと。

これは僕の持論ですが、映画だけじゃなくて、小説も音楽も、現代はアレンジの時代だと思ってるんですよ。自分が見たり聞いたり体験してきたことから、いいところをコラージュして1つのものを作る。あるいは自分がいいと思ったものを並べてコラージュする。でもそれは当たり前のことですよね。僕はかれこれ40年近くアニメーションの仕事に携わってきて、ジブリの責任者としてもやってきたので、こういう形でジブリのものが残ってくんだなあと思いましたね。

CONTENTS INDEX
特集トップ・作品紹介
ジャングルポケット 斉藤慎二
ヨーロッパ企画 上田誠&角田貴志
スタジオジブリ 鈴木敏夫
超特急 リョウガ&ユーキ
大久保篤
映画「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」2016年12月10日(土)公開
「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」

小学4年生の焔レンは、3人のチームメイトとともにゲーム「モンスト」の開発に協力していた。ある日レンたちは研究所の地下で、現実世界にいるはずのないドラゴンを目撃する。弱っているドラゴンをもとの世界に戻すため、“ゲート”を目指し旅に出ることになった4人。その目的地は、かつてレンの父が失踪した場所でもあった。身勝手なレンはチームの輪を乱し仲間と衝突するが、徐々に自分が1人で生きているわけではないことに気付いていく。

スタッフ

監督:江崎慎平
脚本:岸本卓
ストーリー構成:イシイジロウ、加藤陽一
キャラクターデザイン原案:岩元辰郎
モンスターデザイン原案:近藤雅之
キャラクターデザイン・総作画監督:金子志津枝
美術監督:加藤浩、坂上裕文
色彩設計:大西峰代
チーフCGIディレクター:福島涼太
CG演出:川原智弘
音響監督:明田川仁
音楽:MONACA
撮影監督:野村竜矢
編集:長谷川舞
制作:ライデンフィルム、ウルトラスーパーピクチャーズ、XFLAG PICTURES
製作:XFLAG
配給:ワーナー・ブラザース映画

キャスト

焔レン:坂本真綾(小学生時代)/ 小林裕介(中学生時代)
水澤葵:Lynn
神倶土春馬:村中知
若葉皆実:木村珠莉
影月明:河西健吾
石橋健太郎:北大路欣也
オルタナティブドラゴン:福島潤
アーサー:水樹奈々
ゲノム:山寺宏一
エポカ:水瀬いのり

主題歌

ナオト・インティライミ「夢のありか」

鈴木敏夫(スズキトシオ)

1948年、愛知県生まれ。慶応義塾大学卒業後、徳間書店に入社。週刊アサヒ芸能などを経て、1978年、アニメ雑誌・月刊アニメージュの創刊に携わる。同誌の編集を行いながら、高畑勲らとともに1984年公開の劇場版アニメ「風の谷のナウシカ」を製作。1985年、スタジオジブリの設立に参加し、以後「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」を製作する。1989年からはスタジオジブリ専従となり、「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「風立ちぬ」などをプロデュース。アニメ作品のほかに庵野秀明の監督作「式日」、樋口真嗣の監督作「巨神兵東京に現わる」といった実写作品も手がけている。2016年9月、プロデューサーを務めたスタジオジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」が劇場公開された。


2016年12月15日更新