インドの歴史ドラマ「マニカルニカ~剣をとった王妃~」が3月25日よりチャンネル銀河で日本初放送される。19世紀、イギリス支配下のインドで自由を求めて闘った王妃ラクシュミー・バーイー。マニカルニカという名の少女が、王妃となり、革命家へと成長を遂げていく姿が全110話にわたってドラマチックに描かれる。
本特集ではエッセイストの犬山紙子がドラマの序盤を鑑賞。差別や権力に屈しない“戦うヒロイン”から受け取ったメッセージとは? また後半では本作をもっと理解すべく、「バーフバリ」シリーズなどでも知られる字幕翻訳者・藤井美佳にラクシュミー・バーイーに関する解説を依頼した。
取材・文 / 金須晶子
犬山紙子インタビュー
わきまえないどころじゃないヒロイン
──近年インド作品と言えば、日本では「バーフバリ」シリーズのヒットをきっかけに興味を持たれた人も多いかと思います。犬山さんもご覧になっていましたよね?
「バーフバリ」は信頼できる映画好きの人たちが「めっちゃ面白い!」と薦めていて。だったら観に行こうかな?ぐらいの軽い気持ちだったんですけど、観たあとの衝撃がすごかったです。もう全部が“足し算”で、なんだかよくわからないけどすごいものを観てしまったと。「バーフバリ」ではヒロインも戦うし、強いんですよ。
──全編クライマックスかのようなパワフルな作品でしたよね。このたび日本初放送される「マニカルニカ~剣をとった王妃~」は、実在した王妃の一生を全110話にわたって描いた大作ドラマです。犬山さんには序盤の1話から3話までをご覧いただきました。いかがでしたか?
お城も装飾品も衣装もゴージャスで、目で見るだけで十分楽しかったです。もちろん豪華さも見どころなんですけど、やっぱり主人公のマニカルニカ(マヌ)の存在が大きかったです。「女性は男性社会の中でわきまえなければいけない」という圧に対し“わきまえない女”という姿勢が最近示されるようになりましたが、マヌはわきまえないどころじゃないヒロイン。相手がどんなに強い立場の人だったとしても、自分の中の正義を絶対に貫く。もう、登場シーンからかっこいいですからね。炎を思わせるような真っ赤な衣装で馬に乗って堂々と現れて……最初の10分でマヌに心をつかまれると思います。
──東インド会社の統治下にあったインドにおいて、マヌは次から次へと勇敢な言動で英国軍に抵抗していきます。マヌの言動が予測不能で、1話約30分の中にハラハラドキドキが詰め込まれていますよね。
はじめに英国側から「インドは我々の領地だ」と言われたとき、マヌが歯向かうところまでは予想できたんです。でも、そのあとの展開が想像の斜め上の連続で。夜中に敵陣に忍び込んでイギリスとインドの旗を勝手にすり替えたり……とにかくマヌは勇敢なんですよね。かっこいいと思いつつ、マヌの友人たちに感情移入しちゃって「危ないよ! もうやめときなよ!」「見つかっちゃう!」と一緒にハラハラしたり(笑)。でもマヌだったらこの局面も乗り越えるはずと応援したり、心が忙しかったです。
“マヌ語録”を出版してほしいぐらい
──既存の価値観をガンガン壊していくマヌ(=ラクシュミー・バーイー)は、インド国民にとって英雄のような存在で、これまでに幾度も映画やドラマの題材となってきた人物です。
日本でも彼女のようなヒロイン像は求められていると思います。私自身、守られるだけの存在ではなく、信念を持った強い女性の作品を観たい気持ちが強くあります。個人的に、面白そうな作品かどうか判断するポイントとして「女性が色恋だけのために登場せず、魅力的な個として存在している」という項目があるんですけど、このドラマの女性たちはまさにそうでした。
──犬山さんは「バーフバリ」の戦う女性だったり、アイドルだったり、芯の強い女性に惹かれるのでしょうか。マヌのようなヒロイン像はいかがでしたか?
本当に心つかまれました。もちろん強くない女の子がいてもいいですし、恋愛が軸になるからって面白くないわけでは決してなくて。ただ多様性という観点で考えると、これまで強いヒロインが描かれる割合は少なかったと思うんです。強くても最後は男性に助けてもらうだったりとか……。だからこそマヌのようなヒロインを渇望していたというか。自分自身も強くありたいけど、なかなか難しくて、そんなときに自分の気持ちを託したくなるようなヒロインに惹かれます。“マヌ語録”を出版してほしいぐらい素敵なセリフもたくさんありました! 例えば「我らの行いは我らが決めます」とか、当たり前のことなのに強く響くんですよね。自分の行いは自分で決める。当たり前のはずのことが、なぜこんなにも響いてしまうんだろうと切なくもなったり。
──マヌ語録、いいですね。もう少しストーリーが進むと、親友を助けるために行動を起こしたマヌが、「古来のしきたりを否定するとは何事か」と憤慨する人に対して「しきたりは人が作ったものなんだから変えられるでしょう?」と言い返す場面がありまして。
えー! 好き!
──(笑)。シビれますよね。
なんと言うか、日常生活でも、今すごく言い返したい! でもできない……みたいな場面がありますよね。つらい気持ちになったとき、心の中に小さいマヌがいれば、実際に言い返せなくてもよりどころになってくれそうだなって。
──序盤のマヌは10代半ばぐらいの年齢ですが、彼女のように主張できる人は実際そういないですよね。それどころか「周りに合わせなきゃ」といった気持ちが強い年代だと思います。犬山さんは昔の自分と比べて今はいかがですか?
10代の頃は、もちろん自分の意見を堂々と言えるわけでもなく。今も気持ちをすべて伝えられるわけではないですけど、あの頃に比べたらできるようになったかなと思います。昔は、自分の気持ちを主張するのはイタいみたいな空気があったんです。斜に構えるスタンスで自分を守っているようで、でもそれって自分を傷付けていたんだなと、今になって思います。それに気付いてからは、自分なりに調べてみたり、考えをアウトプットするようにして、少しずつ自分の意見を言えるようになってきたかなと思います。まだまだ過渡期ですけどね。
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“めちゃ強女性”な悪役もいい