映画ナタリー Power Push - Netflix「火花」
白石和彌×沖田修一インタビュー ハリウッドとも戦える小さな世界の豊かさ
コーデュロイパンツに触れる林遣都の官能的な指先(沖田)
──沖田監督が演出された5話で、林さんがコーデュロイパンツを三度見したあと、そっと触るシーンがハイライトだと思ったんですが。
白石 普通、あの機微は出せないですよね。
沖田 あのシーン、林さんがすごい面白くて。「本当に素材がコーデュロイなのか気になります」って言って、触って確かめたいって(笑)。
──林さん発信なんですか!?
沖田 あの指の官能的な感じも含めて(笑)。
──その林さん、そして波岡さんの演技はいかがでした?
沖田 僕の回のときには、役や関係性がすでにできあがっていたので、全自動みたいな感じでしたね。だから細かい部分しか指示してないです。
白石 僕のときも同じですよ。新しい登場人物が出てくるとき、どうしようかってのはありましたけど、それもそんなに苦労はしなかったですね。あと、林遣都は天才ですよ。リアクションで相手の芝居をコントロールしている感じがあって。
──その感じは、神谷に対する徳永の立ち位置と重なりますね。
白石 そうですね。あと座長なんですけど、それがいい意味で出てなくて。座長の部分は波岡さんがうまくフォローしていて。そのバランスもすごくよかった。
門脇さんのシーンはだいたい全部楽しかった(沖田)
──門脇麦さん演じる神谷の恋人・真樹は、お二人の監督回以外にはほとんど登場しません。門脇さんとのお仕事はいかがでした?
白石 立ち位置についてはしっかり話しましたね。原作だとすごく理想的な女性じゃないですか。もう少し等身大にしたいなって気持ちがあって。それを微妙な芝居で作りたいと考えていて、神谷との目配せとか、鍋をしてるとき(首を少し横に傾けながら)「大丈夫?」ってのぞき込む感じとか、変顔とか妙にこだわっちゃいましたね。
沖田 僕は別れ際をやったんですけど、“別れ……切ないね”みたいな感じではなく、そういうときに限ってドアを閉めるときに力が入っちゃうみたいな演出をしたくて(笑)。そういうことばかり考えてたんですけど、門脇さんはそれを楽しんでやってくれて。そんな役者さん全然いないから、面白いなって思いましたね。というか門脇さんのシーンはほぼ全部楽しかったです。
ピンク映画、Vシネに続くモデルケース(白石)
──「火花」は現在、世界190カ国で配信されています。そのことについてどう思われますか?
白石 Netflixオリジナル、そして最強のキラーコンテンツ「火花」ということでぜひとも超大成功させたいです。80年代におけるピンク映画、90年代におけるVシネマのようなモデルケースになってほしいと強く、心から思いますね。
──モデルケースというのは?
白石 僕の回には吉祥寺から上石神井まで歩くだけのシーンが10分もあるんですよ。こんなドラマありますか? これがハリウッドとも戦える豊かさでもあると思うんです。それは布団を回すシーンにも、バッティングセンターで延々としゃべる場面にも言えることですが、これが新しい立ち位置として成功してほしい! ひたすらそれしかないし、そうすることによって、若手が出てきづらかったり、マンガ原作ばかりになってしまったりという現状を打破する起爆剤になれば。
沖田 白石監督が言ってくれたように、日本という小さな場所で養われてきた演出方法を膨らませているんですが、ほかの国の人たちもそういった演出が好きだと経験として感じています。そして配信によって、それを楽しんでくれる人が増えればうれしい。
白石 イスラム圏の人が観て、漫才に興味を持ったりしてね(笑)。
沖田 お笑い芸人になるために日本に来たり(笑)。
白石 そうなったら最高だよね。
挫折しても失敗してもすべてが終わるわけではない(白石)
──最後にこれから作品を観るユーザーに一言お願いします。
白石 人生が詰まった話です。お笑いとか漫才の世界は、もちろん特殊なものではあるんですが、自分とリンクできるところも多い。僕も撮りながらこれは自分の話だと思ったし、挫折しても失敗してもすべてが終わるわけではなく、そこから始まることもある。本当に又吉さんの優しさがあふれた素敵な物語で、学べることがたくさんあります。楽しみながら、笑いながら、泣きながら観てほしいなと思っています。
沖田 どうしよう、全部言われちゃったなあ(笑)。ユーザー……そっかユーザーですよね。なんか不思議な感覚だな。「火花」が配信という形でどう広がっていくのか楽しみです。自分たちが思いもよらなかった楽しみ方があるんだと思いますし、この作品のファンになってもらえたら。
白石 「火花」が成功したら、この5人……いや沖田さんと一緒に作品撮りたいな。「ゴジラ」とかどうですか? 俺、特撮やりますよ(笑)。
沖田 演出の幅広げるってそういう意味だったんですか(笑)。
- Netflixオリジナルドラマ「火花」
第153回芥川賞を受賞したピース又吉の中編小説「火花」を全10話でドラマ化。漫才の世界に身を投じた若者たちが現実と夢の狭間で苦しみながらも、自分らしく生きる様を描く。
スタッフ
総監督:廣木隆一
監督:廣木隆一(1話、9話、10話) / 毛利安孝(2話) / 白石和彌(3話、4話) / 沖田修一(5話、6話) / 久万真路(7話、8話)
原作:又吉直樹「火花」(文藝春秋刊)
主題歌:OKAMOTO'S「BROTHER」
挿入歌:SPICY CHOCOLATE「二人で feat. 西内まりや&YU-A」
キャスト
林遣都 / 波岡一喜 / 門脇麦 / 好井まさお(井下好井) / 村田秀亮(とろサーモン) / 菜 葉 菜 / 山本彩(NMB48)/ 渡辺大知(黒猫チェルシー) / 高橋メアリージュン / 渡辺哲 / 忍成修吾 / 徳井優 / 温水洋一 / 嶋田久作 / 大久保たもつ(ザ☆忍者) / 橋本稜(スクールゾーン) / 俵山峻(スクールゾーン) / 西村真二(ラフレクラン) / きょん(ラフレクラン) / 染谷将太 / 田口トモロヲ / 小林薫
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Netflixとは
世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190カ国以上で8100万人を超える会員を抱え、オリジナルシリーズを含めたドラマや映画、ドキュメンタリーを数多く配信している。
白石和彌(シライシカズヤ)
1974年12月17日生まれ、北海道出身。若松孝二に師事し、フリーの演出部として行定勲、犬童一心らの監督作にスタッフとして参加する。2010年「ロストパラダイス・イン・トーキョー」で長編監督デビュー。2013年、長編第2作「凶悪」が評価され、新藤兼人賞2013の金賞をはじめ多数の賞に輝く。監督最新作「日本で一番悪い奴ら」が6月25日に封切られる。
沖田修一(オキタシュウイチ)
1977年8月4日生まれ、埼玉県出身。日本大学芸術学部卒業後、自主短編映画「鍋と友達」で第7回水戸短編映像祭グランプリを獲得する。2006年「このすばらしきせかい」で長編監督デビューを飾り、以降「南極料理人」「キツツキと雨」などを監督。長編第4作「横道世之介」で第56回ブルーリボン賞の作品賞ほか多くの賞を受賞する。現在、松田龍平が主演を務める「モヒカン故郷に帰る」が公開中。