映画ナタリー Power Push - Netflix「火花」
白石和彌×沖田修一インタビュー ハリウッドとも戦える小さな世界の豊かさ
空気の張り詰め方や汗の匂いがうらやましい(沖田)
──お互いの担当回の感想を伺えればと思います。まず白石監督の演出回はいかがでした?
沖田 全体を通しても好きなシーンは白石監督の回に多くて。4話の最後で、ビルの隙間から花火が見えて、その花火に徳永が手を伸ばすシーンにグッときました。なんとも言えない気持ちになって、1人でぶらぶらと歩くしか気分が収まらないみたいなときの雰囲気があって。あれって原作にあったんでしたっけ。
白石 ないですね。
沖田 そっか……すげえな。ほかのたくさんの芸人さんとしのぎを削っていく中で、ああいう気持ちになることって絶対あると思うし、それが捉えられていましたね。「火花」は青春グラフィティでもあるので、そういう気持ちを詩的に切り取っていていいなあと。観たときは「ああやられたー、ああプレッシャー」って思いましたね(笑)。
──「火花」はほぼ順撮りで、粗く編集された前話を観たりもしながら撮影していたんですよね。「凶悪」など、白石さんのほかの監督作と通じるものはありましたか?
沖田 はい。題材が「火花」でもやっぱり白石さんだなと思いましたね。構成作家さんの前でネタをやるシーンが3話にあるんですけど、あほんだらが「寝てますやん!」って作家さんにツッコんで、林さんが慌ててオーディション会場に入ってくるところがすごい怖くて。なんとも言えない空気の張り詰め方というか、汗の匂いというか、その感じがすごく伝わり、「この画だー、作家だー」ってうらやましくなりました。
又吉さんのように優しい眼差し(白石)
──白石監督はいかがでした?
白石 一事が万事、沖田色が支配していてさすがだなと思ったし、6話冒頭のコピー機と染谷(将太)くんのカットバックとか、何を考えているんだろうって唖然としました(笑)。あとバッティングセンターのシーンね。あれは本当になんというか……だって台本にはいないでしょ? あの親子。
──あの徳永と神谷に絡んでくる親子ですよね。いないんですか!?
沖田 いないですよ。
白石 どういう発想でああいうのが生まれるんですか?
沖田 いたらいいなって(笑)。
白石 ははは。そうなんだろうな……すごいな。それはそれとして、僕はわざと漫才のシーンをほぼほぼ切ったんですけど、沖田監督はそれをすごく丁寧に撮っていて、「俺、ちゃんと漫才撮らなきゃいけなかったんじゃないか」と今でも反省しています。ダメな芸人さんにも、又吉さんのように優しい眼差しを向けていて、僕のほうはその点において残酷だったかなと思います。あと漫才ライブ中の、てんとう虫が笑ってるカットって撮影にどれぐらい時間かかってるんですか?
沖田 あの場面はよく観ると後ろのほうにエキストラの方々がいて、100人ぐらい待たせてけっこう長いこと撮ってるんですよ。エキストラの人たちも「あれ何撮ってんの?」って雰囲気でしたね(笑)。
白石 でもそういうシーンを入れてくるバランス、置き方が秀逸なんですよね。
自分が楽しんでやらないと伝わらない(沖田)
──では、演出するうえでご自身が意識した点を教えていただけますか。
白石 残酷物語になっていく全10話の中で、僕の担当話って振り返ってみると「あの頃一番楽しかったよね」って回なんですよ。だから、とにかく僕が先のことを考えないではっちゃけるほど、廣木総監督が演出した9、10話を観たあとになんとも言えない気分になるだろうなって考えていましたね。
──林さんが布団ごと持ち上げられ、クルクル回されるシーンの幸福そうな主観ショットを観て「本当に白石監督が演出しているのか?」と思いました。
白石 (笑)。あんなシーン、僕もう撮れないじゃないですか……撮れるかな?(笑)
沖田 撮れるんじゃないですか? だって演出の幅を広げるって(笑)。
白石 なかなかこんな画撮れないと思ってやってるんで、撮影行為自体が楽しかった。その感じが画面に出ればいいなという気持ちでやってました。
沖田 僕は普段、自分本位な感じになっちゃうんで、それを気を付けようと。10話の内の一部ってことを意識しましたね。あと白石さんと一緒で僕も振り返ったときによかったなと感じる思い出の回で、だから自分が楽しんでやらないと伝わらないなと思ってましたね。
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- Netflixオリジナルドラマ「火花」
第153回芥川賞を受賞したピース又吉の中編小説「火花」を全10話でドラマ化。漫才の世界に身を投じた若者たちが現実と夢の狭間で苦しみながらも、自分らしく生きる様を描く。
スタッフ
総監督:廣木隆一
監督:廣木隆一(1話、9話、10話) / 毛利安孝(2話) / 白石和彌(3話、4話) / 沖田修一(5話、6話) / 久万真路(7話、8話)
原作:又吉直樹「火花」(文藝春秋刊)
主題歌:OKAMOTO'S「BROTHER」
挿入歌:SPICY CHOCOLATE「二人で feat. 西内まりや&YU-A」
キャスト
林遣都 / 波岡一喜 / 門脇麦 / 好井まさお(井下好井) / 村田秀亮(とろサーモン) / 菜 葉 菜 / 山本彩(NMB48)/ 渡辺大知(黒猫チェルシー) / 高橋メアリージュン / 渡辺哲 / 忍成修吾 / 徳井優 / 温水洋一 / 嶋田久作 / 大久保たもつ(ザ☆忍者) / 橋本稜(スクールゾーン) / 俵山峻(スクールゾーン) / 西村真二(ラフレクラン) / きょん(ラフレクラン) / 染谷将太 / 田口トモロヲ / 小林薫
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Netflixとは
世界最大級のオンラインストリーミングサービス。190カ国以上で8100万人を超える会員を抱え、オリジナルシリーズを含めたドラマや映画、ドキュメンタリーを数多く配信している。
白石和彌(シライシカズヤ)
1974年12月17日生まれ、北海道出身。若松孝二に師事し、フリーの演出部として行定勲、犬童一心らの監督作にスタッフとして参加する。2010年「ロストパラダイス・イン・トーキョー」で長編監督デビュー。2013年、長編第2作「凶悪」が評価され、新藤兼人賞2013の金賞をはじめ多数の賞に輝く。監督最新作「日本で一番悪い奴ら」が6月25日に封切られる。
沖田修一(オキタシュウイチ)
1977年8月4日生まれ、埼玉県出身。日本大学芸術学部卒業後、自主短編映画「鍋と友達」で第7回水戸短編映像祭グランプリを獲得する。2006年「このすばらしきせかい」で長編監督デビューを飾り、以降「南極料理人」「キツツキと雨」などを監督。長編第4作「横道世之介」で第56回ブルーリボン賞の作品賞ほか多くの賞を受賞する。現在、松田龍平が主演を務める「モヒカン故郷に帰る」が公開中。