「用意、スタート!」の掛け声でゲームを始めていくようなテンション感
──壮絶な物語の中で、アオイヤマダさん演じる三ツ葉と過ごすシーンは観ているこちらも安心できる時間でした。
ヤマダちゃんは不思議な魅力を持った人です。月並みな言葉ですけど、“特別”ってこういうことを言うんだろうなと。
──「ただただチワワを見る時間~」と歌う場面では2人の相性のよさも感じましたが。
一緒のクラスにいて「交わるか?」と言われたら、きっとそうじゃないような雰囲気はお互いに感じていたと思うんです。でも実はすごくお互いのことが好き、みたいな。一緒の楽屋で待っているときも何も話さず、ヤマダちゃんは好きな音楽を聴いて、時折ストレッチをしていて。私が寝転んで天井を見上げながら「めっちゃいい曲だね」って言うと「でしょ?」って返ってくる。そのくらいの会話しかしていないんですが、なぜか心地よさがあったんです。それはすごく特別な距離感だったような気がしています。
──まさにじゅじゅと三ツ葉のようですね。
お芝居についての会話はほとんどなかったのですが、その空気感が演じるうえでも参考になりました。ヤマダちゃんには過去に一度だけダンスを教えていただいたことがあって。そのときからずっと魅了されっぱなしだったので、今回ご一緒できてとてもうれしかったです。
──ほかにも個性的なキャラクターがたくさん登場しますが、大きな広場でみんなで盛り上がるシーンは特に印象に残っています。地べたに直接座っていながら、天国にいるような浮遊感もあったり。
あのときもずっとたわいのない話ばかりをしていて、ただただ楽しんでいたような感じなんですよね。みんなと過ごした撮影期間は、まさにトー横の中の一番平和な時間で、その地続きのような空間が待機中のバスの中にもあったり。芝居の中で話すというよりは、そんな何気ない会話がだんだんと芝居を形作っていたような感覚でした。
──素敵です。台本のセリフを発するというより、日常のシーンを切り取ったような。
そうですね。監督から「用意、スタート!」の声が掛かったら、みんなでゲームを始めていくような、そんな気持ちいいテンション感でずっとしゃべっていたんです。とても軽やかな現場だったなと思っています。
──そうして生まれた本作が、海外で評価されたというのにもグッときますね。森さんは国際映画祭に参加するのが初めてだったそうですが、そこで新しい景色も見れたのではないでしょうか。
サンダンス映画祭がソルトレイクシティで開催される最後の回ということもあり、とにかく熱量がすごかったですね。映画に対する熱を肌で感じられたのもよかったですし、長久監督がとても支持されている様子を見て尊敬も増しました。また海外の人はすごく正直で、笑い声や「おおっ」というリアクション1つとっても“生(なま)”の感じがすごく出ている。“人間そのものがどう感じるのか”といったバロメーターを見させていただいているようで、また別作品でも行けるようにがんばりたいという思いになりました。またあの反応を見てみたいです。
誰かが「こう撮りたい」と思う方向へ簡単に導かれていきたい
──昨年は「国宝」やドラマ「ひらやすみ」など話題作に多く出演されて、今年はさっそく「炎上」でまた役の幅を広げられたなと感じます。森さんにとって本作はどのような存在になりますか?
……どんな存在なんでしょうね(笑)。実はこうした取材で「映画単独初主演ですね」と言われたときに初めて「そうだったんだ!」と気付いたくらいで、それほど作品1つひとつとフラットに向き合っているんです。自分のキャリアという目線で役や作品を考えることがあまりなくて。
──では時間が経ったときに過去の役だったり、「あの作品は……」と振り返ることはあまりしない?
そうですね。どちらかと言えば“前に前に”突き進むタイプです。
──勝手なイメージですが、森さんらしいなと(笑)。
ありがとうございます(笑)。また本作に関しては、これからどう広がっていくのか、どのように観客に観られていくのかがまったく想像できていない面もあって。でも今の時点でじゅじゅにはすごく感謝をしています。
──そんな“前に前に”突き進んでいく森さんは、今年2026年に芸能活動10周年を迎えますね。
そうです! ありがとうございます。
──これまでのご自身をどのように思われますか?「振り返ることはあまりしない」とおっしゃる中で恐縮ですが。
いやいや、考えるのは楽しいですよ! こんな機会でもないと自分に向き合うことはあまりないので(笑)。そうですね……今までは周囲のサポートをありがたいと思いつつも、期待に応えるというよりは「自分のために」という思いで仕事に臨むことが多かったと思います。そういう部分が自分を作ってきたし、やりたい表現につながっていたのではないかなと。あまり「多くの人にこれを見せたい!」という欲がない分、幅広い役とも向き合えましたし。そんな意識をこれからも持ち続けて、応援してくれる人に素敵なものを届けられたらいいですね。
──今後の10年も非常に楽しみです。いい意味で想像がつかないというか。
10年前も自分が今こんなふうになっていることは想像つかなかったし(笑)、理想も正直あまりないので。でも心のどこかにずっとあるのは、信頼してもらえるようなお芝居をする人になりたいという思いです。「この人が出ていたら面白いだろうな」とか、自分の好きなマンガやアニメのキャラクターを「この人が演じるなら安心して待っていられるわ」と、そう思っていただけるような俳優になりたいなと思っています。
──もう十分なれていると思いますよ。ちなみに理想や欲がないというのは仕事を始めた当初から?
お芝居を始めてから持ったことがないですね。むしろ“持たない”というのがこだわりみたいなところもあるのかな。今のこの自分を誰かが「こう撮りたい」と思う方向へ、簡単に導かれていきたいという思いがあります。そこで「自分はこういうものが好きだったんだな」という発見をしたい。そのためにはあらゆる人に興味を持ってもらう必要があるから、常に面白い人でいなきゃいけないんですけどね。
──そういう意味では、長久監督との出会いもよい経験になったのでは?
そうですね。本作で監督が私を見つけてくれたのはすごくラッキーなことだったし、本当に感謝しています。
プロフィール
森七菜(モリナナ)
2001年8月31日生まれ、大分県出身。2016年に芸能界デビューを果たし、2019年公開の新海誠監督作「天気の子」ではヒロイン・天野陽菜役で注目を集める。翌2020年の岩井俊二監督作「ラストレター」で第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得。連続テレビ小説「エール」にも参加したほか、「この恋あたためますか」で連続ドラマ初主演を飾った。そのほかの出演作に「ライアー×ライアー」「銀河鉄道の父」「君は放課後インソムニア」「四月になれば彼女は」やドラマ「真夏のシンデレラ」、Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」など。2025年には「ファーストキス 1ST KISS」「フロントライン」「秒速5センチメートル」に参加し、ドラマ「ひらやすみ」での演技も話題に。「国宝」では第49回日本アカデミー賞優秀助演女優賞に輝いた。



