「ダンケルク」特集 クリストファー・ノーラン インタビュー|陸海空のタイムサスペンス! 史上最大の救出作戦を描く狙いとは?

本当の敵は迫り来る時間

──層が違うストーリーラインを並行して進めるのは「メメント」「プレステージ」「インセプション」「インターステラー」でもやっていましたね。

「ダンケルク」より。

「ダンケルク」で難しかったのは、陸海空のレイヤーのそれぞれのタイムスパンが違うことです。陸の歩兵たちは砂浜で1週間過ごしますが、海軍の救出作戦は丸一日の出来事です。そして戦闘機の活躍は最後の1時間になります。それぞれに時間の縮尺が違うこの3層をつないで、サスペンスが雪だるま式にふくらんでいくようにしたのです。

──「『ダンケルク』は戦争映画というよりサスペンス映画である」という旨の発言をされていましたね。

私自身が戦争で戦った経験がないので、胸を張って戦争映画だと言いたくない、という気持ちもありますが、「ダンケルク」について自信を持って言えるのは、これが「時間との戦い」だということです。サバイバルの物語です。戦闘についての映画ではないので、実際にダンケルクの兵士にとってそうであったように、敵であるドイツ兵の姿はほとんど見えません。この映画の本当の敵は迫り来る時間なのです。だから戦争映画よりも多く参考にしたのはアルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス演出です。それにアンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督の「恐怖の報酬」(1953年)ですね。

──油田火災を爆風消火するため、一触即発のニトログリセリンを満載したトラックを運転してジャングルを抜けるサスペンス映画の傑作ですね。時間といえば、「ダンケルク」の上映時間は約2時間で、これはノーラン作品としては最短です。

「ダンケルク」メイキングカット

映画は兵士がすでにダンケルクに追い詰められた状況から始まります。そこに至る経過はばっさり切りました。リアルタイムに近い戦場体験にしたかったからです。シナリオは76ページしかありません(通常1ページ約1分)。これは私のいつものシナリオの半分です。ストーリーもシンプルにして、ピュアな視覚体験を重視しました。

──ノーラン監督は今までフィルムによる撮影、特にIMAXにこだわってきましたが。

今回もできる限りIMAXで撮影しました。無理なときは65mm、つまり「アラビアのロレンス」(1962年)を撮影するのに使われたフィルムを使いました。現在はデジタルで撮影された映画が主流になりましたが、画質や色調のきめ細かさではまだフィルムがベストだと考えるからです。

戦闘機を何度も飛ばして綿密にリハーサル

──ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズのキャスティングが話題ですが。

彼は今まで映画で演技経験がない。だからこそ、彼を選びました。私は兵士役にはできるだけ経験の浅い俳優を使いたかったのです。実際のダンケルクでは、何もわからない18、19歳の若者が生死の境目に放り込まれたからです。また、顔を知られていない俳優のほうが、観客に劇映画ではなく現実として感じてもらえます。ハリウッド映画では30歳前後のスターが兵卒を演じますが、私はあれが嫌なんです。だから、20歳前後の若者を広く公募しました。ただ、陸海空のそれぞれのレイヤーではアンカーになるようにベテランの俳優たちを使っていますが。

──ノーラン監督はCG嫌いで有名ですね。「インターステラー」でも宇宙船のモデルを制作して実際にそれを撮影しています。今回の英国の戦闘機スピットファイアとドイツのメッサーシュミットの空中戦も一切、CGなしですか?

「ダンケルク」海外版ビジュアル
「ダンケルク」海外版ビジュアル

スピットファイアは実物を借りてきました。メッサーシュミットのほうは、スペインのフランコ政権がメッサーシュミットからのライセンスで生産したイスパノです。これは1960年代まで現役で、「空軍大戦略」などの映画に使われています。私たちはイスパノを改造してメッサーシュミットに近付けました。

──英国軍の駆逐艦は?

フランスの駆逐艦マイレ・ブレゼを借りました。退役して博物館として展示されているものです。フランスの史跡ですから丁寧に扱いましたよ。

──スピットファイアには乗りました?

もちろん! 複座の練習機に乗せてもらいました。夢のような体験でしたよ! 私だけじゃなく、撮影監督とプロダクションデザイナーもそれぞれ乗りました。観客にスピットファイアに乗ることを体感させるために何が必要なのか知るために。

──実際の撮影はどうしたんですか? 

戦闘機には俳優とパイロットだけが乗りました。コックピットの前後にカメラを固定して、パイロットのクロースアップとパイロットからの視点を撮りました。ただ、監督の私や撮影監督は同乗できないので、何度も何度もビデオカメラを積んだ戦闘機を飛ばして綿密にリハーサルしました。俳優の演技は地上で演出してね。

──戦闘機の墜落シーンもCGを使ってないんですよね? じゃあ、本物のメッサーを?

めっそうもない(笑)。墜落用の機体を作って落としたんですよ。

──ダンケルク撤退は、軍だけでなく、民間の船舶、小さな漁船までが兵士救出のためにドーバー海峡を渡ったという愛国的な神話になっています。今回の撮影で、実際にダンケルクへ兵士を救出に行ったボートを使ったという噂ですが。

そうなんです。ダンケルクで使われたボートを保存する協会があって、5年に一度、6月4日にみんなで集まって海峡越えを再現しているんですよ。私たちは彼らに協力を依頼して、本物のボートに登場してもらいました。つまり実際に起こった場所で実際に使われた船で撮影したわけです。

  • コミックナタリー Power Push 「ダンケルク」 花沢健吾 インタビュー
  • 映画ナタリー Power Push 「ダンケルク」 市川紗椰 インタビュー
「ダンケルク」
2017年9月9日(土)全国公開
「ダンケルク」

1940年、海の町ダンケルク。フランス軍はイギリス軍とともにドイツ軍に圧倒され、英仏連合軍40万の兵士は、ドーバー海峡を望むこの地に追い詰められた。陸海空からの敵襲に、計り知れず撤退を決断する。民間船も救助に乗り出し、エアフォースが空からの援護に駆る。爆撃される陸・海・空、3つの時間。走るか、潜むか。前か、後ろか。1秒ごとに神経が研ぎ澄まされていく。果たして若き兵士トミーは、絶体絶命の地ダンケルクから生き抜くことができるのか!?

「史上最大の撤退作戦」と呼ばれたダンケルク作戦に、常に本物を目指すクリストファー・ノーランが挑んだ。デジタルもCGも極力使わず、本物のスピットファイア戦闘機を飛ばしてノーランが狙ったのは「観客をダンケルクの戦場に引きずり込み、360°全方位から迫る究極の映像体験」!

スタッフ / キャスト

監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
音楽:ハンス・ジマー
出演:トム・ハーディ、マーク・ライランス、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、ハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクション)、フィン・ホワイトヘッド

「#ダンケルク体験」キャンペーン

クリストファー・ノーラン
1970年7月30日生まれ、イギリス出身。映画監督。1998年に「フォロウィング」でデビューして以降、「メメント」「インソムニア」など話題作を立て続けに発表した。2010年公開の「インセプション」は、第83回アカデミー賞にて撮影賞をはじめとする4つの賞を獲得。

2017年9月7日更新