小島秀夫が語る「アリータ:バトル・エンジェル」|「ターミネーター」「エイリアン2」の戦うヒロインを継承!ジェームズ・キャメロンが描く新たな女性像に熱狂

「アバター」「タイタニック」で世界中を興奮の渦に巻き込んだハリウッドの巨匠ジェームズ・キャメロンが惚れ込み、25年もの構想を経て、木城ゆきとによる日本のSFマンガ「銃夢」をついに実写映画化。そのキャメロンにメガホンを託された「シン・シティ」のロバート・ロドリゲスによる「アリータ:バトル・エンジェル」が、2月22日より全国で公開される。

ナタリーでは本作の公開を記念し、映画、コミックの2ジャンルにて3日連続で特集を展開。第1弾では、「メタルギア」シリーズで世界的な人気を誇るゲームクリエイターの小島秀夫に登場してもらった。キャメロンのファンを公言する小島は、「ターミネーター」「タイタニック」といった過去作を通して「アリータ」を分析。彼がアリータに見た現代的な女性像とは。

取材・文 / 奥富敏晴 撮影 / 佐藤友昭

アリータは感情移入できる“人”

──率直にアリータの大きな目はいかがでしたか? 最初に海外で予告が公開されたときから賛否両論ありました。

「アリータ:バトル・エンジェル」

観る前は少し違和感を覚えていたんですが、途中から彼女がエマ・ストーンに見えましたよ(笑)。

──確かに似てる気がします(笑)。

アリータのフィギュアも欲しくなりました。コミックでも、アニメでも、実写でも、ただのCGでもない新しい存在。映画からはディズニー / ピクサーとマーベル・シネマティック・ユニバースの映画の中間のような印象を受けました。モーターボール(※劇中に登場する格闘球技)の部分含め、ほぼCGじゃないですか。アニメーションに置かれるCGと実写に置かれるCG。でもアリータのビジュアルは、アニメでも実写でもない。だから中間。将来的に映画はそういう形になっていくはず。「アリータ:バトル・エンジェル」(以下、「アリータ」)はその先駆けになると思います。

──アリータは、女優のローサ・サラザールの演技をパフォーマンスキャプチャーして造形されました。

スキャンした女優さんとはほとんど顔違いますよね。あの表現はとても難しいと思います。本人のトレースではないので。女優さんのデータをもとにして新しいキャラを作るわけですから、表情とかの細かい演技は、現場では撮りきれない。だからCGで手付けして調整してるはずです。そもそもジェームズ・キャメロンは新しいテクノロジーを次々と導入し、CGや液体描写、モーフィング、パフォーマンスキャプチャー、3Dなど機材込みで新技術を作り出す人。僕らは彼の作った道を通っているだけなんです。

──序盤にはアリータの人間味を感じさせる描写もありました。

最初はただのスクラップのサイボーグ。それがあくびをしながら目覚めて食事をする一連の流れには驚きました。サイボーグを描くときは、メカメカしいものになりがちなんです。そこにキャラクターが何かを食べるシーンを持ってくるのはうまい。オレンジを食べて「おいしい」と言う。ホットドッグも食べて、チョコも食べる。アリータには食感があって、それを表す表情や言葉もある。感情移入できる“人”として自然に受け入れられる脚本は、さすがだと思いました。

小島秀夫

──CGで何かを食べる描写って難しいんでしょうか?

食べるだけじゃなくても、特に歯が見えたり、口の中が映る場面なんかは難しい。ゲーム作りでも僕たちが苦労している部分で、歯の中にどれだけ影を落とすかとかは、眼と同じくらい難しい。笑ったりするのも、違和感なく見せるのは大変なんです。そしてこの映画は一番難しいことをやっている。

サラ・コナーとリプリーの延長線上にいる女性像

──映画はキャメロンが書いた長大な脚本と600ページに及ぶ資料を、監督のロバート・ロドリゲスが撮影台本にまとめて制作されました。

「銃夢」×ジェームズ・キャメロン×ロバート・ロドリゲス。これを観ない人はいないでしょう。僕は「スパイ・キッズ」をゲーム化しようとしていたくらいですから、ロドリゲスもインディーズ時代の「エル・マリアッチ」から大好きなんですよ。モーターボールのシーンでカメラの前に生首が転がり、生首が苦言!みたいな80年代演出をやるのがロドリゲスですね(笑)。しかし、「アリータ」はキャメロンの映画でしたね。

──なるほど。それはどういった部分でしょう。

アリータのキャラクターと設定がキャメロンらしい。キャメロンの脚本がどこまで残っているかわかりませんが、20世紀に彼が描いた「ターミネーター」のサラ・コナー、「エイリアン2」のリプリーの延長線上にいる女性像だと感じました。

「アリータ:バトル・エンジェル」

──“戦う強い女性”という点は一致しています。

しかしアリータは最初から最強なんです。少女が女性になって、自分の道を切り開き、強い女性として戦う。父親代わりであるイドが、その道に反対しそうですけど最終的にはあっさり受け入れる。アリータは男も女も犬も助けるし、自分の一番の強みである“強さ”を生かそうとするんです。得意とすることを否定せずに全面に出す。まさに21世紀の映画。普通の女性が観ても、アリータに共感できるところがあると思う。

──確かにアリータは自分の強さを最初から受け入れていました。

「アリータ:バトル・エンジェル」

そもそも「アリータ」は、構図としては「鉄腕アトム」や「ピノキオ」と同じなんですよね。子供を失った大人が、それに変わるロボットや操り人形を作る。そういった作品は、主人公が自分は人間なのかどうか悩むのが普通。「アリータ」もそこから始まるけれど、もとから兵器だから少し違う。

──アリータは火星連邦共和国“URM”のテクノロジーで300年前に作られた最終兵器という設定です。

普通のドラマなら彼女が兵器の頃の記憶を失っているんだから、イドもそっちの道に行かせようとしないですよね。でも「アリータ」は違う。普通は一度戦うと、人を殺してしまった、どうしたらいいんだ、なぜ自分は人を殺すのかと苦悩するんです。でもアリータは自分の強さやパワーにそこまで葛藤はなく、勢いよく敵を殺していく。途中からスイッチが入ったみたいに戦うし、自ら新しいボディを取りに行く(笑)。自分を否定したり、卑下したりしない、吹っ切れたドラマは気持ちがいい。