台湾映画・ドラマが本気で世界市場に打って出る!進化したアジアのコンテンツビジネスの祭典を現地取材|「返校」ジョン・スー&「HIStory3」ウェイン・ソンのインタビューから探る日台コラボの未来

ウェイン・ソンが語る
ラブストーリーを演じるうえで大切なこと

ウェイン・ソン(宋偉恩)

ウェイン・ソン(宋偉恩)

ここはキスすべきだとリアルな感情が訴えかけてきた

──TCCFではさまざまなコンテンツ業界のプロフェッショナルが、自身の経験をシェアしています。ウェイン・ソンさんも韓国BLドラマ「セマンティックエラー」のマスタークラスで、監督のキム・スジョンさん、プロデューサーのイ・ハウンさんとトークをされました。いかがでしたか?

ドラマを制作するにあたって、いろいろ下調べを行ったり、市場について事前に調査していたり、想像以上に理性的に作品作りをしているなと思いました。というのは真面目な話で(笑)。何より、僕は作品の一ファンとして、監督とプロデューサーにお会いできて本当に興奮しています! 「セマンティックエラー」は台湾でこれ以上のものはないという意味で“天井に達するBL作品”と表現されているんです。お二人とのお話はあっという間に終わってしまいました。

──イベントでも「セマンティックエラー」がお好きなのが伝わってきました。

僕もいろいろBL作品に出演してきたんですが、メインキャラクターであるジェヨンとサンウに関しては、すべてと言っていいほど僕の学習対象。たくさんのことを学べるキャラクターで魅力を感じます。

「HIStory3 那一天~あの日」ビジュアル

「HIStory3 那一天~あの日」ビジュアル

──台湾のBL作品も年々世界で存在感を増しています。ウェイン・ソンさんが主演された「HIStory3 那一天~あの日」も支持を集める作品の1つです。日本からの応援の声をどのように感じていますか?

ドラマを通して僕を知ってくれて、好きになってくれた何人かの日本のファンの方とは台湾でも日本でもお会いしました。コロナ禍を経て、日本で3年ぶりぐらいに再会できたときには、思わず強く抱きしめちゃったんです。3年経っても僕のことを引き続き応援してくれているのがすごくうれしいです。

──「HIStory3 那一天~あの日」が海を越えて愛されている理由はどこにあると考えていますか?

「セマンティックエラー」の監督たちが「BLが好きな人だけに向けた作品ではない」と話していましたが、「HIStory3 那一天~あの日」も同じくBL好きの人だけに向けた作品ではありません。ラブストーリーであり、青春ドラマでもあり、登場人物が周りを大切にする姿が描かれています。そういった部分が多くの人の共感を生んだと思います。

──ラブストーリーを演じるうえで、大切にしていることは?

“化学反応”と表現する人もいますが、感情の流れを大切にしています。一番大切なのは、キャラクター間のキャッチボール、リアルでエモーショナルな交流だと思っています。演じるにあたって呼吸の仕方を変えたり、まなざしに気を配ったり、表情を通して感情を表現したりしても、視聴者には“演技”というのは見抜かれてしまいます。なので、僕が大切にしているのは、相手をしっかり見つめて、リアルな感情の交流をすること。BLに限らず、すべてのラブストーリーにおいて、大事にしている部分です。

「HIStory3 那一天~あの日」場面写真

「HIStory3 那一天~あの日」場面写真

──「HIStory3 那一天~あの日」の撮影を振り返って、リアルな感情が動いた印象深いシーンはありますか?

屋上で月を見るシーンは思い出深いですね。感動的で、泣きたくなるシーンでした。実は台本にはキスするということは書かれていなかったんです。事前リハーサルでもキスはなし。でも本番前に、僕からキスしたほうがよいのでは?と監督に提案しました。それはリハーサルの最中に、ここはキスすべきだとリアルな感情が訴えかけてきたからなんです。もちろんキスシーンは理性的に構築されるべきだと思いますし、通常の撮影ではそうされています。でも、あのとき、僕のリアルな感情が動いた。とても印象に残っています。

TCCFは作り手にとって水と太陽

──TCCFは台湾の魅力的なコンテンツや俳優さんを世界に発信する場です。2年連続で取材させていただいているのですが、より進化していると感じました。

TCCFは作り手にとって肥料であり、水と太陽なのかなと思っています。いろいろな種があって、それが発芽して、美しい花になることもあれば、みんなのおなかをいっぱいにする稲になったりすることもある。さまざまな夢を追いかけているクリエイターや俳優の後押しをするイベントですね。

ウェイン・ソン(宋偉恩)

ウェイン・ソン(宋偉恩)

──ウェイン・ソンさんから見て、台湾の俳優さんならではの魅力はどこにあると感じていますか?

僕が代表して何かコメントすることは難しいんですが、僕自身の周り、仲のいい俳優友達を見ていると、地に足が着いた人が多いんです。台湾はほかの国や地域と比べて人口が少ないのである程度の知名度とファンの人数がいないと、俳優が一定の生活水準に達することが難しい。演劇が好きで、仕事に情熱を持って、ちょっとずつ這い上がってきた仲間たちが多い。演劇とバイトの両立の中で、バイトリーダーに怒られたり、まだ家賃すら払えてなかったり、今這い上がっている最中の仲間もいます。みんなに共通するのは、目の底に光る何かがあること。1人ひとりが感動的なストーリーを持っているのが魅力だと思います。

──俳優に必要な要素をどう考えてますか?

自信を持つこと。ビジュアルや声といった要素も大切だと思います。そして、自分をしっかり認識している役者はすごく魅力的です。俳優は全体を俯瞰して、キャラクターを分析したりしますが、実際に演じるときに、そういったものを全部捨てられることが、僕の考える魅力的な俳優のパフォーマンスです。

──TCCFには日本のエンタテインメント業界の人間も参加していますし、今後参加したいと思っている人も多くいると思います。一緒に仕事をしてみたい日本人はいますか?

台湾の俳優がバラエティスキルを学ぶ「台湾男子 front line」という番組に毎月参加していて、日本の文化や日本語に触れているんです。でも、しっかり文化や語学を学びたいので、半年から1年ぐらい長期滞在してみたいなという気持ちがあります。でもお金がないのでおなかが空いちゃうかも(笑)。

(一同) (笑)

一緒にお仕事をしたい方でいえば、藤原竜也さんですね。大学時代に藤原さんが出演している「ハムレット」の台湾公演を観に行ったことがあって、とてもよかった。ぜひ、ご一緒してみたいです。またTCCFで一緒にお話をした「セマンティックエラー」のキム・スジョン監督ともぜひお仕事をしてみたいです。

──日本のファンも今後の活躍を楽しみにしています。

来年の年末までお仕事がいっぱいなんです。今まではあれもやりたい、これもやりたいという感じだったんですが、今は1つひとつのチャンスをしっかり演じ切っていきたいと思っています。まだ多くは語れないんですが、ある作品が決まれば、今まで見たことがない斬新な見た目になる予定です(笑)。僕自身もすごく楽しみにしているので、期待していてください。

──最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

また皆さんに会えるのがすごく楽しみです! みんなが健やかに健康でいられることを心から願っています!

プロフィール

ウェイン・ソン(宋偉恩)

1994年12月20日生まれ、台湾・台中市出身。国立台湾芸術大学を卒業。主な出演作に主演を務めた「HIStory3 那一天~あの日」や、「飛魚高校生」「反逆の季節」「ディア・プリンス~私が恋した年下彼氏~」「おんなの幸せマニュアル 俗女養成記」「奇蹟」などがある。2020年には日本のドラマ「Life 線上の僕ら」にも参加した。

TCCF、クリエイターインタビューから見えてきたもの

映画ナタリーでは2年連続で、「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」を現地取材。昨年「クリエイターを支援する“台湾の本気”がすごい」と紹介したが、今年はさらに本気度が増していることを実感した。ジョン・スーが「ここ数年でコンテンツ産業の可能性が一気に膨らんだ」と語っているが、台湾政府、TAICCAの支援と無関係ではないだろう。

今回のTCCFでは、ジョン・スー、ウェイン・ソンのほかに、「模仿犯」「悪との距離」などをプロデュースしたフィル・タン(湯昇榮)にも話を聞くことができた。

アイドルドラマが主流だった時代を経て、ここ5、6年でガラッと状況が変わったというフィル・タンの話に、大きくうなずく台湾ドラマファンも多いのではないだろうか?

ジャンル問わず良質な作品が多数生み出されている台湾。TCCFの進化とともに、より台湾コンテンツが世界市場で存在感を増していくことを期待したい。