〇〇の異常な愛情 Vol. 9 [バックナンバー]
稲垣紀子、富久夫妻の場合:南インド料理店を営み、インド映画の推し活をしていた2人は如何にして映画を配給するに至ったのか
2022年12月23日 19:00 48
何かに並外れた愛情を注ぐ人や、著名人の意外な趣味にスポットを当てる連載「〇〇の異常な愛情」。第9回となる今回は、南インド料理店・なんどりを営む稲垣富久さん、なんどりの映画部門を担当する紀子さん夫婦にインタビューを実施した。
インド映画の熱狂的なファンである紀子さんは、DVD販売等の映画部門を2020年に法人化。配給権を獲得した「
取材・
映画が自分の人生を変えた
──20年以上のインド映画ファンとのことで驚きました。インド映画に興味を持ったきっかけを教えてください。
稲垣紀子 1998年公開の「
──それは公開から間もない頃ですか?
稲垣紀子 公開から3カ月が経ったタイミングでした。渋谷のシネマライズで単館上映していて、今は「
──「ムトゥ 踊るマハラジャ」のどのようなところに衝撃を受けたのでしょうか。
稲垣紀子 喜怒哀楽が激しくて、笑顔が強烈だったんですね。日本人は私も含めて、笑いたくてもちょっと我慢したり、苦笑いなど繊細な笑いが多いと思うんです。インド映画はめちゃくちゃストレートだったのがよかったんです。特に私の場合は、引きこもりだったのでそこに対するパンチ力がすごくて(笑)。自分が引きこもっているのもバカバカしいと思えるくらいパワーがあったんですよ。主演の
──インド映画のおかげで、前向きになったのですね。富久さんはいかがですか?
稲垣富久 僕は料理のほうから入りました。もともとは会社員で、毎週土曜日にいろいろな地域のエスニック料理を友達と食べに行っていたんですよ。その中で最終的にインド料理に一番ハマって。当時30歳くらいだったので、外食だとお金がかかるし、そんなに好きなら自分で作ったほうがいいんじゃないかと思い立ちました。そんなとき、神保町で本屋をのぞいたら「まさに自分が読みたいものだ」という本に出会ったんです。北インド料理と南インド料理のレシピが載っていて、南インド料理に興味があったので作ってみたら「自分でもできるんだ」と感動しちゃって。毎日作って、本格的にハマりました。
──お二人ともそれぞれ、映画・料理からインドに関心を持ったとのことですが、どのように出会ったのですか?
稲垣富久 趣味でやっているときから、南インド料理をもっと普及させたいと思い、同志の人と公民館を借りて料理を作っていたんです。Yahoo!の掲示板とかで参加者を募集したら(紀子さんが)参加してくれました。
稲垣紀子 「ムトゥ 踊るマハラジャ」で出てきた食べ物を作っていたので、興味を持ったんです。
コンセプトは「南インド料理とインド映画」
──お二人の出会いも「ムトゥ 踊るマハラジャ」がきっかけなのですね! ご結婚後、2013年にオープンしたなんどりでは、インド映画の“推し活”もしているとか。
稲垣富久 「南インド料理とインド映画」というコンセプトは最初からありましたね。
稲垣紀子 なんどりは小さいので(富久さんの)ワンオペでやっているようなお店なんです。私は会社員だったんですけど、せっかく店舗があるのでインド映画を置いておいたら買う人もいるんじゃないかなって。インド、マレーシア、シンガポールに1年に1~2回旅行に行って、そのときに自分が欲しいインド映画のDVDを2、3枚余分に買ってきていたんです。すぐには売れませんが、買った当時は価値がなくても数年経ったら二度と手に入らないものも多いので、一定の意義があると思っていました。また映画に出てくる料理を彼(富久さん)が再現することもあります。
──紀子さんはインド映画のソフトへ日本語字幕を付けることに協力もしているそうですが、どのような経緯で携わるようになったのでしょうか?
稲垣紀子 2012年くらいまではインドでも映画のDVDが発売されていましたが、パタッと出なくなったんですよ。というのもインドは著作権の意識が希薄なのか、海賊版がすごく横行していて、リリースされたと思ったらすぐに海賊版のDVDが出回ってしまう。そのため正規の業者さんが潰れてしまうんです。マレーシアやシンガポールは、タミル系インド人の移住者が多く、独自にインド映画のDVDがリリースされていましたが、2015年頃にはインドと同じ状態になりました。私は正規版にこだわり、マレーシアの正規メーカーの店に正規品を買いに行っていたんです。すると、そこのスタッフと思われる人がTwitterから「日本でも売りたい」と連絡をくれました。そこで「日本では最低でも英語字幕が付いてないと売れないし、できることなら日本語字幕を付けたほうが売れますよ」と話をしたら「ちょっとやってみてくれないか」と言われて。ボランティアなので、ソフトの売り上げを自分のバイト代にしようと決めまして。日本語を付けたソフトを1作品につき100枚売ることを目標にし、達成しました。
──字幕を付けるということは、紀子さんはタミル語ができるのでしょうか?
稲垣紀子 英語字幕が付いているものもあるので、その場合はGoogle翻訳をしたあとに日本語としておかしい部分を直します。ただ、カタコトのタミル語はわかります。例えば作中で悪役をやっつけるときの決めゼリフは、同じような単語が使われていたりするので、けっこうな数の作品を観ていると、なんとなくわかってきます。スクールも通っていましたが。
稲垣富久 僕もスクールに通っていました。わずかですが日本にもタミル語を教えている先生がいます。
広めたいというより、まず“自分が観たい”
──なるほど……! いちインド映画ファンから、ソフトを販売する“発信側”になったのは、インド映画を日本に広めたい気持ちがあったからですか?
稲垣紀子 インド映画ファンとしては、ソフトというマテリアルを出し続けてほしい。広めたいというより、まず“自分が観たい”ってことなんですよ。それまでの活動は「興味がある方はどうぞ」くらいでしたが、100人でも200人でもDVDを待ち望むファン層を作らないと、DVD業者さんが廃業してしまうという危機感から動きました。もともとはそういう意味での推し活です(笑)。
──なんどりを訪ねるお客さんの反応はいかがですか?
稲垣富久 最近は「響け!情熱のムリダンガム」を観て興味を持ってくれる人がいますけど、基本的にはインド映画を観る人とインド料理が好きな人って、棲み分けされてる感じがしますね。映画を観てから料理に興味を持つ人はいますが。
稲垣紀子 うちのお店に来ていただいたら、彼(富久さん)も映画や料理について解説してくれますよ。
この映画1本で人生が変わる人がいる気がした
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京都みなみ会館 @minamikaikan
絶賛公開中の『響け! 情熱のムリダンガム』、本日𝟭.𝟭𝟱㊐は本作の配給を担当された南インド料理店なんどりの稲垣紀子さんによるゲストトーク開催です。https://t.co/hzoQlyb0fx
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