経験豊富な社会人だからこそ、社会形成ができる(寺島)
──今回寺島さんはオープニング主題歌を担当されているだけでなく、リムルの転生前であるサラリーマンの三上悟役も演じますが、伏瀬さんは三上をどういうイメージで書かれたのでしょうか?
伏瀬 小説では頼りになる先輩というイメージで書いていました。初めてキャラクターに絵がついたときは、ちょっと野暮ったいキャラ絵だったんですけど、「すごくカッコよくしてください」とお願いしました。コミカライズのときも、「東京BABYLON」(CLAMP)に出てくる桜塚星史郎みたいな感じのカッコいいサラリーマンでお願いしますとリクエストして。
寺島 なるほどなー! それは圧倒的にカッコいいですね。それなのになんで童貞なんでしょう(笑)。
伏瀬 三上は、自分で“ナイスガイ”と言っていますが、嘘ではなく本当にナイスガイなのかよってツッコミ待ちにしたいと思っていて。なのでアニメのキャラクターデザインでもリテイクを繰り返して、かなりカッコいい感じにしていただきました。
寺島 もちろん見た目はカッコいいんですけど、37歳の普通におじさんと言える年齢の人が主人公で転生するって、なかなかなかったですよね。
伏瀬 今ではだいぶ増えましたけどね。確かに当時は珍しかったかもしれません。
寺島 今増えているのも、誰かがやって成功したからという部分が大きいと思うんですよ。新しいことをやろうというのは誰しもが思うことですけど、うまくその設定が活かされるとは限らないじゃないですか。「転スラ」はそれがうまくハマっていますよね。お見事だと思います。
伏瀬 確かに転生する主人公が高校生だったら、たぶんすぐに死んでしまうだろうなという世界観ではありますね。あそこですぐに開き直って現状を把握しようとするのは、37歳のおじさんだからこそできることじゃないかと。連載しているときにもコメントで「この主人公ならもっと無双できたんじゃないですか」とよく言われていて。それに対しては「いや、無双していたらより強い敵にすぐ見つかって、やられて終わっています」というふうに回答していました。
寺島 確かに。自分の置かれている状況に慣れるまで調子に乗らないっていうのが、人生経験を積んだおじさんの発想ですよね(笑)。
伏瀬 異世界で無双する作品が多いのも事実なので、敵を圧倒して倒したりもするんですけど。出てくる敵をすべて潰すのではなく、取り込めるところでは取り込むという臨機応変なサラリーマンならではのところが書けたらいいな、と思って連載していました。
寺島 その「取り込む」というのがリムルのスキル・捕食者ともつながっていて、うまいなと唸らされました。経験豊富な社会人だからこそ、さまざまな種族と対立せずに社会形成ができるんですよね。
伏瀬 そうなんです。社会人になると、自分の敵をどう作らないかが大事になってくるじゃないですか。相手に腹がたってもまずは相手の話を聞く。そのうえで相手が間違っていたら、絶対に勝てる状況を作ってから戦うし、相手の言うことにも理由があるなと思ったら、受け入れるところは受け入れて臨機応変に対応する。「人の話を聞きましょう」という、基本的なことだけれど、それをちゃんとできるような主人公にしたいと思って、年齢を少し高く設定しましたね。
寺島 そこの着眼点がいいですよね。だから読んでいて気持ちがいい。主人公が落ち着いているから、シリアスなシーンも落ち着いて読めるというか。
──それはやはり自分の人生経験も反映されているんでしょうか?
伏瀬 そこはあまり影響していないですね(笑)。
寺島 (笑)。
伏瀬 もちろん、あるにはあるんですよ。言い合いになったときに「自分の言うことは正しい」って主張するとすごく疲れると思うんですね。そうするぐらいならある程度は相手の言う通りにしたほうが楽だよねっていうのは、自分の経験による部分が大きいですね。絶対に譲れない場面以外は妥協するというのは、処世術のひとつかなと思って作品の中でも描写しています。
寺島 いや、その経験はめちゃくちゃ作品に活かされていると思いますよ。
OP、EDをはやくコマ送りで観させてほしい(寺島)
──寺島さんは本作のオープニング主題歌「Nameless Story」で、歌唱だけでなく作詞もご担当されています。楽曲に込めた思いをお伺いしてもよろしいですか?
寺島 僕は前々から主題歌はあくまで作品の一部でしかないと思っているんですね。だからまず作品を読み込んで、どこをピックアップして楽曲のテーマにするのかをとにかく大事にしているんです。今回は、リムルが仲間になったモンスターに名前をつける「名付け」っていうのが一番作品の肝なのかなと思い、まずはそこをピックアップしてタイトルにしました。
──歌詞についてはどうでしょう?
寺島 作品のタイアップで歌詞を書かせていただくときは、まず作品の一部であるということと、アニメが終わってからも1つの音楽として楽しめるということを両立させたいと毎回考えているんです。今回は、主人公が転生して新しい人生が始まるということにかけて、「思春期に少年から大人になる」というのを楽曲の柱に据えました。自分は何者なんだろうという悶々とした、まだ名もなき少年少女が大人になったときに自分の名前をはっきりと自信を持って名乗れるような、そういう歌にしようと。それで「Nameless Story」、名もなき物語をテーマに歌詞を書こうという着地点になりました。
──伏瀬さんは実際に楽曲を聴いていかがですか?
伏瀬 頭の中でずっと繰り返されますね。
寺島 やった! 楽曲の力ですね。
伏瀬 サビの部分とかがずっと頭の中で繰り返されています。TRUEさんのエンディング主題歌「Another colony」もいい曲なんですけど、どちらがオープニングでも不思議じゃないなってくらいオープニングもエンディングもパワーのある楽曲で。
寺島 「Another colony」もオープニング感あるんですよね。
伏瀬 TRUEさんもエンディング主題歌の感想として、「強い楽曲」というふうに表現してくださっていて。両方いい曲なので頭の中で、ぐるぐる2つの曲がせめぎ合っている感じなんですよね。原稿を書くときは、あまり音楽をかけないのですが、この間息抜きに少しだけ聴こうとしたら30分ぐらい経過していました。それぐらい聴き入ってしまう。
寺島 本当にありがたいですね。今回の「Nameless Story」について言うと、CDにカップリングとして収録される3曲目もぜひ聴いてもらいたいんです。僕はタイアップがあるときは、その作品をテーマにした曲だけでカップリングも埋めようと決めて作詞をするんですね。3曲目はあるキャラクターのことを書いていて、すごくいいものに仕上がったので、そちらにも注目してもらえたらうれしいです。
──作中でも重要なポジションのキャラクターであるこの人物をテーマにするというのは、ファンの寺島さんならではですね。ちなみにおふたりはオープニング映像をご覧になられましたか?(取材は9月中旬に行われた)
伏瀬 まだ完成したものは、観させていただいてないんです。
寺島 そう、僕も観てないんですよ!
伏瀬 でも現状のものでも相当いい出来になっています。オープニング詐欺って言われそうなくらいすごいシーンもあって。
寺島 (笑)。
伏瀬 本編には絶対出ないだろっていうようなリムルの激しい戦闘シーンとか(笑)。曲だけでも素晴らしいんですけど、映像と合わさったものを観るのが今から楽しみですね。
──このインタビューが掲載される頃にはもう放送も始まっているので、読者の皆さんはオープニング映像をすでに堪能されているかと思います。
寺島 いやー、羨ましいですね! 僕はアニメのオープニング、エンディングが大好きなんですよ。どんな作品でも何回も繰り返し観てしまうくらい。だから「転スラ」はもう待ちきれないですね、はやくコマ送りで観させてほしい(笑)。
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シズさんの演技はアニメで観たら絶対泣いてしまう(伏瀬)
「転生したらスライムだった件」
- 放送情報
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TOKYO MX:毎週月曜24:00~
BS11:毎週月曜24:00~
tvk:毎週月曜25:00~
MBS:毎週火曜27:30~
- スタッフ
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原作:川上泰樹・伏瀬・みっつばー『転生したらスライムだった件』(講談社「月刊少年シリウス」連載)
監督:菊地康仁
副監督:中山敦史
シリーズ構成:筆安一幸
キャラクターデザイン:江畑諒真
モンスターデザイン:岸田隆宏
音楽:Elements Garden
アニメーション制作:エイトビット
- TVアニメ「転生したらスライムだった件」公式サイト
- 【公式】TVアニメ『転生したらスライムだった件』 (@ten_sura_anime) | Twitter
- TVアニメ「転生したらスライムだった件」アカウント公式 (@tensura_official) | Instagram
©川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会
- 「転生したらスライムだった件①」
- 2019年1月29日発売 / バンダイナムコアーツ
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特装限定版 [Blu-ray]
19440円 / BCXA-1411 -
通常版 [DVD]
5832円 / BCBA-4931
- Blu-ray特装限定版特典
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- 原作者・伏瀬書き下ろし小説を収録した特製ブックレット(約50P)
- アプリゲーム限定シリアルコード
- キャラクターデザイン江畑諒真描き下ろし収納BOX
- マンガ版原作者・川上泰樹描き下ろしデジジャケット(両面描き下ろし)
- 映像特典:PV・CM集
- 音声特典:オーディオコメンタリー
- DVD通常版特典
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- アプリゲーム限定シリアルコード
- 寺島拓篤「Nameless Story」
- 発売中 / バンダイナムコアーツ
-
初回限定盤 [CD+DVD]
1944円 / LACM-34798 -
通常盤 [CD]
1404円 / LACM-14798
- 伏瀬(フセ)
- 2013年に「転生したらスライムだった件」を小説投稿サイト・小説家になろうに投稿。2014年には書籍1巻がマイクロマガジン社より刊行され、2015年には月刊少年シリウス(講談社)にて同作のコミカライズ連載がスタート。そのマンガ版を原作としたTVアニメが2018年10月より放送されている。
- 寺島拓篤(テラシマタクマ)
- 12月20日生まれ。石川県出身。アクセルワン所属の声優・歌手。主な出演作は、「創聖のアクエリオン」(アポロ役)、「セイクリッドセブン」(丹童子アルマ役)、「うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVE1000%」(一十木音也役)、「火ノ丸相撲」(辻桐仁役)など。TVアニメ「転生したらスライムだった件」オープニング主題歌を収録した8枚目のシングル「Nameless Story」が現在発売中。