「SERVAMP-サーヴァンプ-」|連載10周年記念!著者・田中ストライクに10年分の思いを聞いたロングインタビュー

「SERVAMP-サーヴァンプ-」が、6月に連載10周年を迎えた。すべての吸血鬼たちの真祖にして、七つの大罪を司る7人兄弟──それが“サーヴァンプ”。怠惰のサーヴァンプであるクロを拾い、契約によって彼の主人(イヴ)となってしまった高校生・城田真昼が、吸血鬼同士の兄弟戦争に巻き込まれていくバトルファンタジーで、田中ストライクが月刊コミックジーン(KADOKAWA)にて雑誌創刊時より連載している人気作だ。

コミックナタリーでは連載10周年を記念し、「サーヴァンプ」の特集を展開。10年の歩みを振り返る田中ストライクへのロングインタビューのほか、読者から募った質問に答えるQ&A、TVアニメ版のキャスト9人から届いたメッセージも紹介している。

なおKADOKAWAでは9月9日まで「サーヴァンプ」の単行本1~14巻を無料公開中(参照:【電子書籍】「SERVAMP-サーヴァンプ-」大量無料公開中!! | 月刊コミックジーン 編集部ブログ)。同作を知ったばかりの人も、TVアニメ版は観ていたという人も、もちろん単行本を全部持っている人も、この機会に読み直してみては。

取材・文 / 鈴木俊介

「SERVAMP-サーヴァンプ-」連載10周年記念 田中ストライク ロングインタビュー

吸血鬼の魅力は、1人では生きられないところ

──「サーヴァンプ」連載10周年おめでとうございます! まずは10周年を迎えての率直なお気持ちから聞かせていただけますか。

ありがとうございます! こんなにも長く作品を応援していただけて、感謝の気持ちでいっぱいです。正直なところ、ここまで連載を続けられるとは思っていませんでした。出版社の皆さまやメディアミックスに関わってくださったすべての方々、そして何より、ここまで読み続けて応援してくれた読者の皆さまのおかげです。

──今回のインタビューは、「サーヴァンプ」のこれまでを振り返る形でお話を伺わせていただければと思います。最初に「サーヴァンプ」が誕生した背景、作品の着想のきっかけについて教えてください。

第1話の扉ページ。真昼が猫だと思ってクロを拾ったことから、壮大な物語が動き出す。

「新しく雑誌を作るから、その創刊号の連載コンペに参加しないか」と声をかけていただいたのがきっかけでした。まだコミックジーンという雑誌名も決まっていなかった頃です。最初は探偵モノ、いわゆるホームズとワトソン的な、探偵と助手を中心とした依頼形式のお話を描きたいと思っていました。このとき編集部から、読者層の中心として「バトルマンガやファンタジーマンガが好きな10代の女の子」をイメージしてほしいと言われていたので、吸血鬼のバトルマンガもいいかなあと思い、“探偵”と一緒に“吸血鬼”の企画も提出したんです。そうしたら、探偵モノはすでに連載が決まっている別の作品とジャンルが被ってしまうという話になって。編集さんと相談して、ジャンルが被っていない企画のほうが通りやすいだろうと、吸血鬼モノを進めていくことにしました。

──そこで探偵モノに進んでいたら、「サーヴァンプ」が生まれなかった可能性もあったんですね。“主従モノ”というアイデアも最初からあったのでしょうか?

主従というより、2人組のバディものがやりたくて、それっぽいものをいろいろと考えていたような気がします。アイデアとして一番最初からあったのは、たぶん「黒猫に変身する吸血鬼」じゃないかなと思います。猫は絶対、かわいいですから(笑)。そういえば、初期のタイトル候補は「SERVAMP(サーヴァンプ)」か「VAMPET(ヴァンペット)」でした。もし「ヴァンペット」だったら、もっとペットコメディっぽくなってたのかもしれません(笑)。

──同じ吸血鬼モノでも、かなり雰囲気が変わりそうです。

第1話より。クロの正体を知って「何なんだよお前!?」と驚く真昼に、クロは「…心優しい、引きこもり吸血鬼…?」と答える。

吸血鬼を描くと決めてから、そこに楽しんでもらえそうな要素をどんどん詰め込んで……。今振り返れば、なんでもかんでもコテコテに盛りすぎでコンセプトもよくわからなくなってるので、スッキリさせろと自分に言いたいですが(笑)、当時はまずやれること全部やってみようみたいな感じだったんだと思います。とにかくまずは連載枠を獲得できるように、自分の描きたいものというよりは新創刊のジーンという雑誌に編集部が求めているものを作ろうと、一生懸命だったように思います。

──そうして見事、連載を勝ち取ったと。田中ストライクさんは吸血鬼の魅力はどんなところだと思いますか。

吸血鬼の魅力……個人的には、誰か他者を必要とする、1人では生きられない生き物であるところかなと思って描いています。人の血を飲むことが生きるのに必要だけれど、それを得るには人を傷つけて血を流させるしかないという、そういう宿命というか矛盾のようなものが魅力なのかなあと思います。あと、地味に弱点が多いところとか(笑)。

──確かに弱点は多いですよね(笑)。反対に、吸血鬼を描く難しさはどんなところ?

昼間の屋外を舞台にしにくいところ……とかでしょうか。灰に、というか「サーヴァンプ」の場合は動物になっちゃうので。たまにカラーイラストなどで普通に青空を描いてしまって、「あっ……」と後で思うときがあります(笑)。あれは屋内のセットということで……。

価値観のぶつかり合いこそが“2人組”の面白さ

──主人公ペアの真昼とクロは、どんな部分からイメージを膨らませ、キャラクターを組み立てていったんでしょうか。

クロ(左)と真昼(右)の初期草案。

編集部から「主人公の動機や葛藤の中心にあるものは恋愛以外にしてほしい」ということを言われていたので、主人公を考えるうえでここは意識しました。あっ、でもこれはあくまで10年前の雑誌創刊当時のことなので、今のコミックジーンにおいては全然関係ない話です、念のため。真昼はいわゆる“主人公らしさ”のあるキャラクターを描こうと意識していたと思います。まっすぐで、人を信じる心があり、完璧な人間では全然ないけど、少しだけ勇気がある。読んだときに「自分と同じなんだけど、ちょっと憧れる」と思ってもらえるキャラになっていたらいいなあと思っています。真昼は読者の視点に近くなれるように、ある意味で没個性的というか、ツッコミ役程度の邪魔にならないキャラクターを最初は想定していました。でも、今では全然変わったと思います。「サーヴァンプ」は少年の成長の物語だと思っているので、真昼の変化も感じていってもらえたらうれしいです。

──クロは……この初期案を拝見すると、だいぶ印象が違いますね。

最初はもっとイケメンらしいイケメンを目指していたんですよね……。でも描きにくいのでやめてよかったです(笑)。猫と見せかけて実はライオンという設定は決めてあったので、ビジュアルはそのあたりの動物をモチーフにデザインしました。フードについた猫耳のようなファーはタテガミで、猫クロの尻尾の先がちょっと変わった形なのもライオンを意識してます。クロは真昼と一緒に主人公となるキャラクターなので、いわゆる吸血鬼の“王道”のイメージから外れすぎないように気を付けなければと思ってます。気を抜くと吸血鬼マンガというより猫マンガになってるので(笑)。

──「サーヴァンプ」は“七つの大罪”もテーマの1つですが、主人公をどの“罪”にするかは悩まれましたか?

「黒猫に変身する吸血鬼」のアイデアが先にあったので、猫という動物のイメージに近いもの……と考えて、すぐ怠惰に決まったように思います。七つの大罪は、ファンタジー作品では割とメジャーなモチーフだと思うので、その罪“らしさ”と“意外さ”のバランスは意識しました。らしく作りすぎるとよくある感じになってしまうし、逆に奇をてらいすぎてどの罪なのかわからなくなってしまうのもよくないと思うので。

──先ほど、クロが怠惰なので真昼はそれを引っ張れる人に……というお話がありましたが、やはりサーヴァンプとイヴはセットで考えることが多いのでしょうか。

桜哉(左)と椿(右)の初期草案。

そうですね、サーヴァンプとイヴは基本的にセットで考えてます。イヴは、基本的にはその“罪”の反対の存在のように見える人、そのサーヴァンプとぶつかり合いそうなキャラクター。各ペアが持っているテーマに対して、サーヴァンプとイヴが真逆の価値観を持っていることを意識しています。クロが何事にも「向き合えねー」奴なので、真昼はその逆で「向き合おう」とする人であるとか。何かの事件や困難に直面したとき、2人がそれぞれ真逆の行動を取ろうとするような、そういうバランスになるといいなと思っています。価値観のまったく違う2人が一緒に何かを成し遂げなければならない、その価値観のぶつかり合いが“2人組”の面白さだと思うので。ビジュアル的には、各組ごとにモチーフとなるものをいくつか決めていて、そこから連想する形で膨らませています。ペアの2人が並んだときのシルエットの感じは特に大切にしていて、2人のシルエットに共通点や対称性があることを意識しています。