コミックナタリー Power Push - なかよし60周年記念特集 でんぱ組.inc成瀬瑛美×女子マンガ研究家 小田真琴

少女に夢と希望を与え続けてきたなかよしの60年を復刻版で振り返る


熱狂的ファンがいる、早稲田ちえ「―女神―」(1995年)

早稲田ちえ「―女神―」なかよし60周年記念版。単行本には表題作のほか「情熱の嵐」と「ヤング OH! OH!」が収録された。

小田 作家読みといえば、次にご紹介する早稲田ちえ先生は、かなり熱烈なファンがいらっしゃる方です。1995年に発表された「―女神―」は読んだことありますか?

成瀬 実はないんです。初めて見たとき「大人っぽすぎるな」と思ってしまって、少しおマセな子が読むイメージでした。

小田 そうですね、早稲田先生の作品は、当時のなかよしの中ではだいぶ大人っぽいほうだと思います。「NERVOUS VENUS」という未完の作品があるんですが、今でも多くのファンに続きを熱望されています。早稲田先生はずっと作品を発表していなかったんですが、2014年に、仲良しの海野つなみ先生のヒット作「逃げるは恥だが役に立つ」4巻のあとがきに寄稿された(参照:早稲田ちえも寄稿!逃げ恥4巻で海野サイン会)んです。「お元気でしたか!」と興奮しました。今回の復刻版では、初版の特典に描き下ろしペーパーが付いているんですが、欲しい人いっぱいいると思いますよ。

「NERVOUS VENUS」はAmie(講談社)にて連載された未完の作品。

成瀬 この特典ペーパーは、本当にうれしい企画ですよね。いまのタッチで描かれたわぴこちゃんとか感涙です……。

小田 いやあ、特典ペーパーは本当にうれしいですね。「―女神―」のストーリーを簡単に話すと、男の子2人が主人公です。ちょっと悪っぽい玲司と、のんきな基一。女の子はもう完全に脇役です。

成瀬 なかよしにあまりない展開ですね。

小田 決定的なところまではいきませんが、BL要素が散りばめられています。この復刻版には3作品が収録されていますが、全体的に大人っぽいですね。当時のなかよし読者からすると、自分より年上の世界を覗き見る感じだったのではないでしょうか。そしてハマる人はずっぽりハマる。

成瀬 表紙もなかよしっぽくないですよね。

小田 そういえば、表紙の玲司は誰とキスしてるんだろう。

成瀬 あら、これは……ワクワクしてきましたぞ!

小田 すごく想像力を喚起するお話なんですよ。マンガを読み込んできたお姉さん向けのマンガなので、絶対読んだほうがいいです。


ヒーローもヒロインもトラブルメーカーも文句なしに愛せる「だぁ! だぁ! だぁ!」(1998~2002年)

川村美香「だぁ! だぁ! だぁ!」なかよし60周年記念版1巻。ひょんなことから同居することになった未夢と彷徨のもとに、突如宇宙人の赤ちゃん・ルゥが飛来する。子育てとラブコメを描いた作品だ。

成瀬 これは読んでおかなきゃダメだな……。次は川村美香先生の「だぁ! だぁ! だぁ!」。「―女神―」の後に見るとだいぶテイストが違いますね(笑)。

小田 ええ、そうなんですが実は……。ここからの2000年代の作品は、30代後半男の僕には入り込みづらくて……。ぜひ成瀬さんにレクチャーしていただきたいです。

成瀬 わかりました! 「だぁ! だぁ! だぁ!」は1998年から2002年まで連載された作品で、すごく人気でした。宇宙人の赤ちゃん・ルゥがドタバタ劇を巻き起こすんですが、この子に嫌なところが全然ないので憎めずに読めるんですよ。トラブルメーカーになるキャラは、やっぱりどこかイラってきちゃう部分があると思うんですが、ルゥは本当に愛らしい(笑)。

小田 なかよし読者の母性本能をくすぐるキャラクターなんですね。

成瀬 まさにそうですね。髪の毛のポヤポヤした感じとかすごくかわいいですし。あとなんと言ってもヒーローの西遠寺彷徨がカッコいい! クールだけど、決めるときには決めるタイプなんです。

小田 正統派のヒーロー。やっぱりヒーローは大事ですね。

成瀬 大事です! ヒロインの未夢も、すごく前向きにがんばる子なんです。ヒーローもヒロインもトラブルメーカーも文句なしに愛せて、ドタバタ感も楽しい。低年齢の子から大人にまで、幅広い層にオススメの作品です。ただ、30代の男性だと……。

小田 あはは。うーん、自分との共通点というと……僕が子育て中ってことくらい(笑)。

成瀬 子育てマニュアル的に読みましょう(笑)。


5人の個性的ヒロインを楽しめる「東京ミュウミュウ」(2000~2003年)

征海未亜「東京ミュウミュウ」なかよし60周年記念版1巻。シナリオは吉田玲子が手がけた。レッド・データ・アニマルの遺伝子と合体したことで、正義の味方に変身できるようになったいちごたち5人の活躍を描く。

小田 わかりました(笑)。では最後の「東京ミュウミュウ」はどう読めばいいでしょうか。

成瀬 「東京ミュウミュウ」はヒロインが5人いて、全員タイプが違うんです。セーラー戦士みたいに気が合う友達という感じではなくて、本当にツンツンしている子がいたり、いじめられっ子だったり、ぶっ飛びすぎて仲良くなりづらいなという子がいたり……。個性が全然違う子たちが、1つのグループになって少しずつ理解し合っていくというところが楽しめます。

小田 緩やかな連帯……。会社みたいなものでしょうか? ビジネス書として読めるかな。「気が合わなくても仕事はできる!」みたいな(笑)。

成瀬 気は合わなくはないんですが(笑)、そういう読み方もできると思います。「東京ミュウミュウ」は仲良しグループすぎないんですよね。

小田 タイトルに「東京」と入っていますからね(笑)。

まだまだ語り足りない様子の2人。

成瀬 このタイトルは純粋に憧れていました。「東京」って付くから、近代的・都会的なイメージで。あと女子視点で見ると、衣装がすごくかわいいです。コスプレしたいし、グッズも集めたいですね。

小田 環境問題という要素を入れていますが、ディテールはやはり少女マンガですよね。僕はお仕事マンガとして読ませていただきます(笑)。

成瀬 ぜひ! あ、これで10作品終わりましたね。まだまだ話したい作品がいっぱいあります。なかよしはヤバイ。

  • 2000年代のなかよしでは、環境問題や子育てを描くなどこれまでの枠にとらわれない作品が生まれた

小田 ではぜひ最後になかよしに対する思いを。

成瀬 変身ヒロインモノにハマるきっかけをくれた雑誌ですね。めちゃくちゃ感謝しているんですが、なかよしのせいでオタクになってしまったという思いも……(笑)。いえ、やっぱり感謝しております!!

「なかよし」12月号 発売中 580円 / 講談社
「なかよし」12月号
ラインナップ

遠山えま「青葉くんに聞きたいこと」「かみかみかえし」、山田デイジー「初恋はじめました。」、フクシマハルカ「伯爵さまは甘い夜がお好き」、鳥海ペドロ「黒豹と16歳」、美麻りん「嘘つき王子とニセモノ彼女」、星野リリィ「きぐるみ防衛隊」、松本ひで吉「さばげぶっ!」、瀬田ハルヒ「出口ゼロ」、中江みかよ「小学生のヒミツともだち」、桜沢きゆ「先パイ、教えてください」、桜倉メグ「探偵チームKZ事件ノート 消えた自転車は知っている」、吉田はるゆき「ピンポンドライブ」、渡辺留衣「FAIRY TAIL ブルー・ミストラル」、長谷垣なるみ「花と忍び」、あべゆりこ「わんころべえ」、ハタノヒヨコ「Stella~ナナと魔法の英単語~」、上北ふたご「GO!プリンセスプリキュア」

付録:香りクリーム&ジュエルケース、プレゼントメモ、なかよし×マイメロディ ラブシール

成瀬瑛美(ナルセエイミ)

6人組アイドルグループでんぱ組.incのイエロー担当。“ハイテンションA-POPガールえいたそ”の愛称で親しまれている。

小田真琴(オダマコト)

1977年生まれ。少女マンガとお菓子をこよなく愛する女子マンガ研究家。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割が少女マンガで埋め尽くされている。