1月4日、5日に千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールで「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」が開催される。この公演をもってでんぱ組.incは“エンディング”を迎え、16年間の活動に終止符を打つ。
音楽ナタリーではこれを受け、オリジナルメンバーである古川未鈴とプロデューサーのもふくちゃん(福嶋麻衣子)の2人へのロングインタビューを実施。でんぱ組.incの歩んできた道のりをたどりながら、彼女たちがアイドルシーンや音楽文化に遺した偉大な足跡を振り返る。
取材・文 / 大山卓也撮影 / チェリーマン
エンディングを決めた理由
──ストレートに聞いてしまいますが、このタイミングででんぱ組.incを終わらせることにしたのはなぜなんですか?
もふくちゃん うーん、きっかけはいろいろあったんですけどね。メンバーと話してるときに「いつ卒業する?」「どこまでやる?」みたいな話が出ることは何年も前からやっぱりあって、いろいろ話をしていく中でその選択肢がちょっとずつ現実的になってきた。それで何人かのメンバーが例えばこの先2、3年でバラバラと辞めていく可能性があるとして、そのたびに新メンバーを入れながら続けていく元気がね、自分を含めたみんなにあるかって言われたらなかったんですよね。
古川未鈴 自分のことを言えば、やっぱり子育てしながら活動を続けるのは思ってた以上にハードだったなっていうのがあって。結婚して子供産んでもやれるアイドルのあり方みたいなのはひとつ残せたかな、叶えられたかなと思ったし、3年くらいやって「そろそろなのかも」みたいな気持ちは正直ありましたね。
もふく うん、みりんちゃんの中にそういう気持ちがあるっていうのも私の中では大きかったかな。
──モーニング娘。やAKB48のようにメンバーがどんどん入れ替わりながら続いていくグループもありますよね。でんぱ組.incもそうやって続けていこうとは思わなかった?
もふく 本当は10人体制にするときにそういう形をイメージしてたんです(参照:10人組になったでんぱ組.incに聞く、新体制初シングルの秘話や変わりゆくメンバーの関係性)。だけどそうはならなかった。やっぱりでんぱ組.incって特殊なんですよね。虹コン(虹のコンキスタドール)とかは入れ替わりがストーリーとして成り立っていくグループだけど、それはもともとそういうプロジェクトとして作ってるからで、でもでんぱ組.incはすべての物事が“人間”に紐付きすぎてて、なんか簡単に入れ替えたりできなかった。「この時期は誰々ちゃんがセンターでこの編成も面白いね」みたいな楽しみ方が虹コンだったらできるんです。それがでんぱ組.incはできない。
──それで言うと、例えばみりんさんが辞めたときにグループが成立するのか? それは本当にでんぱ組.incと呼べるのか?と考えると、なんだか“テセウスの船”みたいな話ですね。
みりん 私自身は、私がいなくなってもでんぱ組.incに続いててほしかったんですけどね。「みりんがいないと」みたいに言ってもらえるのはうれしいけど、いつか全員知らない子たちだけのでんぱ組.incが「Future Diver」やってるのを見たいなって思ってたから。
──エンディングを迎えることについてメンバーの反応はどうでしたか?
みりん もちろん続けたいと思ってる子もいたし、だからみんなですごく話して、話しながら私も泣いちゃって、たぶん過去5年分ぐらい泣いたんです。自分でも区切りを考えてたのに、いざ終わるとなるとやっぱりショックが大きくて。だって私の人生にはでんぱ組.incしかなかったから。そのときに「みりんさん大丈夫ですよ」って、りとくん(天沢璃人)が私をなぐさめてくれたというとんでもない場面もあったりして(笑)。
──今は気持ちの整理はできました?
みりん いざエンディングを発表したら思ったよりも清々しい気持ちになれて、また新しいスタートを切れてる、走り出せてるっていうのは思います。最後にみんなの力をもう1回振り絞ろうみたいな、なんかそんな感じになってますね。
もふく でんぱ組.incは活動歴が長い子と浅い子が入り乱れてて、上と下で年齢もかなり違うから、その状況で走ってること自体がプロジェクトとしてはけっこう難しかったんですよ。例えば超細かい話ですけど、ライブを全部撮影可にしてTikTokでバズらせようみたいな文化が今あるじゃないですか。それに対して“いにしえ”のメンバーは「そんなの無理だよ!」って思ってて、新しい子たちは「それやったら絶対ウケるしなんでやんないの?」って思ってる。そのとき私がその真ん中に石を置いちゃうなって思ったんですよね。でもそれって誰にとっても面白くないものになるでしょ?
──それはもふくちゃんらしくないですね。
もふく うん、本当はメンバーの言うことガン無視して、全員が嫌がってても私がやりたいことをやりまくるぐらいじゃなきゃいけない。でも自分ももうそこまでとがってないし、歳を重ねてうまいことまとめる技術も身に付いてきてるからやっぱり真ん中に石を置いちゃう。そういうことがいっぱいあって、それでいいのかな、それってでんぱ組.incなのかなと思うことがだんだん増えてきて、もう何をどうしてもこの溝は埋まらないし埋めることがいいことだとも思わないし、このままだとでんぱ組.incがおかしくなってしまうから、そうなる前に解散したほうがいいんじゃないかってことなんですよね。
──でも素直な気持ちとして、でんぱ組.incのライブが観られなくなるのは寂しいですけどね。
もふく それは私も思うけど、でんぱ組.incの歌はディアステージの子たちが引き継いで歌ってくれるんじゃないかな?
みりん 私はたまに歌って踊りたいからそういうのに混ざらせてもらう。ドリームモーニング娘。みたいな? ああいうのやりたくて(笑)。
もふく ちゃんと解散すればどこかでまた一夜限りの再結成とか、そんなのいくらでもできるからね。誰かと誰かが不仲でやめるとか、トイズファクトリーとディアステージがビジネス的に揉めたとかそういう話じゃないから、みんながやりたいと思ったら好きなタイミングでまたやれる。このまま変なバランスのままずっと走ってたらきっとどこかで壊れてた気がする。今はそういうのがないからやめどきとしては一番いいと思うんだよね。
──壊れるんじゃなくちゃんと終われる。
もふく うん、みんながちゃんと話し合って納得できてエンディングって形を選べたから、それはホントによかったです。
シリーズ最新作「W.W.D ENDING」
──幕張のラストライブでは「W.W.D ENDING」という新曲が披露されるそうですね。
みりん 「W.W.D」という曲は私たち自身もファンのみんなも思いが詰まりすぎてて、ちょっとどうしていいかわからないというか、今でもみんなから「聴きたいよ」って声ももらうし、思い出のまま取っておこうみたいな気持ちもあるし、いろんな意味でめっちゃ重たい曲なんですよね。歌いたい気持ちはあるけど「でもなー!」みたいな。
──シリーズ作品は「W.W.D」「W.W.D II」「WWDBEST」と3曲ありますが、どれも初期6人時代(2011~2017年)の楽曲です。
もふく 昔のメンバーの名前が入ってるし、いろんな人の思い入れもあって今までなかなかライブでやれなかった。でも「W.W.D」シリーズのあの感じは今の7人のメンバーにも歌わせてあげたくて、それで最後に新曲として作ることにしたんです。メロディや歌詞は過去作からのサンプリングもありつつ、ああだこうだヒャダインさんと話していい感じに仕上げてもらいました。
みりん 今の7人で「W.W.D」を歌う意味っていうのがすごくあると思ってて、めちゃめちゃいろんなことを言われながら、苦しい思いもしながら走ってきたこの7人が最後にまた「W.W.D」を歌えるのがすごくいいなって。だってぜいたくじゃないですか? 歌う機会は2日しかないし歌詞にメンバーの名前も入ってるからほかの人には絶対歌えない。本当に「作ってくれてありがとうございます」という気持ちですね。
もふく 名前が入ってることで、ある意味覚悟みたいな感じが伝わるかなと思って。でもそういう暑苦しい歌はもう流行んないですけどね。今いっぱいいろんなアイドルがいて毎月何十曲もリリースある中で、やっぱでんぱ組.incの曲だけ全然違うもん。もう誰もこんなことやってないから。
みりん えっ、それは古いってこと?
もふく ほら、今の子たちってもうちょっと嘘の世界のほうが好きじゃないですか。でんぱ組.incの曲はリアルな魂の叫びだから(笑)。平成世代はやっぱり“自分探し”とか“内面の吐露”とかになりがちで、だからこの「W.W.D ENDING」も自分語りの走馬灯。でんぱ組.incらしい曲になったと思います。
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電波ソングが土着の歌