斉藤壮馬はwebtoonにハマれるのか?ヨコ読みマンガ愛好家がタテ読みマンガを読んでみたら…LINEマンガで大検証

近年、タテ読みフルカラー形式で描かれる“webtoon”にも力を入れているLINEマンガ。そんなLINEマンガが9周年を記念し、マンガがお得に読めるキャンペーンを開催している。このキャンペーンでは「再婚承認を要求します」「必ずハッピーエンド」「ラブミーテンダーにさようなら」「星を飲み込んだ君へ」「入学傭兵」「チート・ギャンブルー謀略博戯ー」といったwebtoonの無料公開範囲を期間限定で拡大。そのほか一部作品の全話無料公開や、総額1億コインが当たる抽選会も行っている。

コミックナタリーではLINEマンガの9周年キャンペーンに合わせ、webtoonの魅力を多くの人に広めるべく特集を実施。「ヨコ読みマンガ愛好家はタテ読みマンガにもハマれるのか?」と銘打ち、マンガ好きで知られる声優の斉藤壮馬に協力してもらい検証を行った。編集部が事前にピックアップした13作品すべてに目を通してきたという斉藤が、webtoonの長所・短所について忌憚なく語り尽くす。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ

「こういうジャンルだから好き」という発想はない

──本題に入る前に、まず斉藤さんがどのようにマンガと触れ合ってきたのかを伺えればと思います。そもそもマンガを好きになったきっかけはどういうものだったんでしょうか。

おそらく両親の影響が大きいと思います。父は「あしたのジョー」(講談社)などを好んで読んでいましたし、母は萩尾望都さんあたりの年代の作家さんが好きで。そういう家庭だったので、子供の頃から本やマンガを読んだりアニメを観たり、カルチャー全般に触れるのが普通という空気の中で育ってきた感じですね。

──何か明確なきっかけがあったというより、気付いたら当たり前のものとしてそこにあったと。ある意味サラブレッドなわけですね。

確かに(笑)。自然とマンガを読むのが好きになっていました。しかも、うちの家族はそれぞれに好きなジャンルが違っていたので、かなり幅広いジャンルに幼少期から触れてきていたと思います。妹が2人いたおかげで、りぼん(集英社)、ちゃお(小学館)、なかよし(講談社)あたりは常に最新号が当たり前のように家にありましたし。

──斉藤さんは週刊少年ジャンプ(集英社)や週刊少年サンデー(小学館)、週刊少年マガジン(講談社)などを買っていた感じですか?

最初は僕がそのあたりを買っていたんですけど、ある程度の年齢になってからは青年マンガというか、雑誌で言えば月刊アフタヌーン(講談社)や月刊漫画ガロ(青林堂)のようなものが好きになっていって。それからは少し歳の離れた下の妹が王道少年マンガ系を押さえてくれるようになりました(笑)。上の妹が少女マンガ系、下の妹が少年マンガ系、僕がサブカル系、みたいに担当が分かれているような感じでしたね。

──素晴らしいご家庭ですね。

ちょうどみんなの「これが一番好き」が被っていなかったのはラッキーだったなと思いますね。しかも、家族の誰かが読んで面白かったおすすめのマンガを廊下などの共用スペースに置いておき、それを別の誰かが回収して読み、また別のマンガを置いておくみたいなことも日常的に行われていたんですよ。ある種のコミュニケーションツールじゃないですけど、小説、映画、音楽などいろんなエンタメがある中で、たぶん家族のみんなが一番触れているコンテンツがマンガだったと思います。

──斉藤家の一番の共通言語というか。

だったような気はしますね。

──斉藤さんはあまりジャンル的な嗜好の偏りがなさそうなタイプに見えるんですが、そうやって幼少期からいろんな作品を並列に見ることに慣れていたからなのかなと考えると納得がいきます。

ああ、確かに「こういうジャンルだから好き」「このジャンルだから読まない」みたいな発想はあまりないかもしれないです。

斉藤壮馬

斉藤壮馬

──今現在はどんな感じでマンガを楽しんでいますか?

今はもっぱらデータですね。もちろんモノとして持っておきたいパターンもあるんで、例えば画集などは紙で買うことが多いですけど、そういった特別な理由がない限りはほぼほぼ電子書籍で読んでいます。

──やはりそうなってきますよね。

仕事柄、例えばマンガ原作のアニメーションなどでキャラクターを演じる際に「原作でどういう表情が描かれているのか」を確認したいケースなども多いので、そういうときにデジタルであればそれを自由に拡大して細かいところまで確認できますし、なおかつ場所も取らないから常に全部のデータを持っておけるんです。公私ともに電子書籍にはお世話になっていますね。

──電子書籍を使い始めたのがいつ頃だったかは覚えてらっしゃいますか?

いつからかなあ? どちらかというとアナログに生きてきたタイプなので、そんなに人より早かったわけではないと思いますけど……でもいつの間にか、少なくともマンガに関してはすっかり電子メインになっています。特にここ1年くらいは、ほとんど紙で買った記憶がないですね。

──電子への移行期間で、何かネックに感じたことなどはありました?

めちゃくちゃありました! 例えば、3巻まで紙で買っていた作品の4巻が発売されるときに「さて、どっちで買います?」みたいな……。

──あー、めっちゃわかります(笑)。

あれ難しいですよね! 一応、「紙で買い始めた作品は紙で買いそろえたい」という考え方のもと数年間しのいできたんですけど、最近はメイン環境が電子になっていることもあって、新刊は電子で買いたくなってしまうというか。そうなると、一旦4巻以降を電子で買っていって、完結してから「やっぱり1~3巻も電子で買い直すか」みたいに、最終的にはどっちも買っちゃったりしますね。

──データ上で一覧したときに、4巻からしか表示されないのも気持ち悪いですしね。

そうなんですよー。今は最初から電子で買うことが増えたのでその問題はほとんどなくなりましたけど、移行期間中はそこに一番苦労しましたね。まあ、それで少しでも作家さんに還元できるのであれば本望です。

改めてマンガというものに出会えた

──電子書籍がメインになったとはいえ、いわゆるヨコ読みマンガ、つまり紙での出力を前提とした従来通りの形式のマンガを中心に読まれているんですよね。

そうですね。

──webtoonと呼ばれるタテ読みのマンガについては、今回の企画以前に触れる機会はありましたか?

何作かは読んだ経験もあるにはあるんですけど、正直そんなに本格的には触れてきていないんです。だから今回このお話をいただいたときも、最初は「さほど触れてきていないから、あんまり無責任なことも言えないしな……」と迷ったんですよ。ただ、企画自体が「ヨコ読みマンガ好きはタテ読みマンガにハマるのか?」という趣旨だと聞いて、であれば僕でも言えることはあるかもしれないなと思いまして。

──ありがとうございます。

これまであまり「自分がハマれるものなのか、そうでないのか」という観点でタテ読みマンガに向き合ったことがなかったので、すごくいい機会をいただいたなと。こちらこそありがとうございます。

斉藤壮馬

斉藤壮馬

──実際にタテ読みマンガに触れてみて、率直にどんなことを感じました?

まず、“ページ”の概念がないというところがひとつ大きく違うところだなと思いました。ある意味、巻物みたいというか……技術が進歩したことで生まれた最新のマンガ形式が、人類史上最も古い本の形とも言われる巻物の形式に立ち返っているというのは、なんだか面白い現象だなと。浅い考えで申し訳ないんですけど。

──いえ、ものすごく的確なご指摘だと思います。

例えば雑誌の連載であればページ数が決まっているわけですけど、そういう物理的な制約にとらわれず、その物語にとって最も適切な長さで描くことができるんじゃないかという気がします。あと、この形だと“間”をある程度コントロールできますよね。例えば、白ページや黒ページを長く挟んだっていいわけですし。それとか、すごく壮大な時間軸をひと続きの画で表現している作品なんかも見かけたんですけど、そういう“縦スクロールでなければ不可能な演出”がすごくたくさんありそうに思います。

「入学傭兵」より。 ©YC・rak hyun/LINE Digital Frontier

「入学傭兵」より。 ©YC・rak hyun/LINE Digital Frontier

──今後もいろんな作家さんがさまざまな工夫をしていくことで、どんどん面白い表現が生まれるかもしれませんね。

これからのクリエイターはマンガに対して、僕らのようなヨコ読みに親しんで育ってきた世代とはまったく違う捉え方をしていくのかもしれないですね。未知の発想に出会えそうな表現形式だな、というのはすごく思いましたし、マンガの歴史の中に生まれた完全に新しいフォーマットになるんじゃないかと。

──なるほど。

改めてマンガというものに出会えたかのような、新鮮な気持ちで読みましたね。それと実は僕、ちょっとした空き時間に本やマンガを読むということが苦手だったんですけど、なぜかwebtoonではそれができたんですよ。紙の本だと途中で読むのをやめられないから、目的の駅に着いても電車を降りられなかったり(笑)、寝る前にちょっと読もうと思ってもひたすら読み続けたりしてしまうんです。だけど、それがスマートフォンになるとパッとやめられるんですよね。それが自分でも不思議で、面白いなと思いました。

斉藤壮馬

斉藤壮馬

──実はそれ、僕もまったく同じで。なので難しい質問であることは承知のうえなんですけど、なぜ紙だとやめられないのにスマホだとやめられるんだと思いますか?

単純に、紙の本は読み始めたら続きが気になってしまって、ページをめくる手が止められないんですよ。それがスマホの場合はある種“情報”的な側面が強いと言いますか、表現が難しいですけども……例えばLINEマンガで言うと、1話読み終えたときに出てくる「次の話を読む」というボタンが区切りを付けてくれる感じがするというか。それがなんか面白いですね。

──実存感がないのがいいんですかね?

たぶんそうだと思いますね。紙の場合、まだ続きがあることが視覚上明確にわかってしまいますから。情報は目に見えないので、うまく切り離せるのかもしれないです。

──逆に、タテ読みのデメリットについては何か感じましたか?

そうですね……ページの概念がないことで、ドーンと一枚画で見せるような演出は難しいのかなと思いました。紙のマンガでページをめくった先に“決め”の画があったりする衝撃は、スクロールで徐々に見えてきてしまうタテ読みだと生まれにくいかもしれないですよね。ユーザーがどこでスクロールを止めるかによってその画の見える範囲も変わってきちゃいますし。

「チーズ・イン・ザ・トラップ」を読む斉藤壮馬。

「チーズ・イン・ザ・トラップ」を読む斉藤壮馬。

──確かにおっしゃる通りですね。

流れを見せるには非常に向いているフォーマットだと思うんですけど、“点の動作”というか、止め画の表現には今のところあまり向かないのかもしれないなと思いましたね。

──作品内容の向き不向きについてはどうでしょう。「こういう作品がwebtoonに向いているだろう」というのは何かあります?

これは単なる印象のお話でしかないんですが、今回読ませていただいたwebtoon作品はきれいな画……というか端正な画の作品が多い気がしたんです。それはもしかしたら、スッキリした画のほうがこの形式に向いているということなのかなと。

斉藤壮馬

斉藤壮馬

──なるほど。“描き込む系”の作家さんが得意とするような画だと、確かにスマホ画面でスクロールしながら見るにはちょっと情報量が多すぎると感じてしまうかもしれませんね。

情報量を減らしたほうがスピード感も損なわれないと思いますし。セリフについても同じですよね。なんでもかんでもセリフやモノローグで説明するタイプの作品よりは、余白で表現するもののほうが現状のwebtoonには向いているのかなという気がします。