コミックナタリー Power Push - 月刊flowers
萩尾望都からのビデオレター到着! 編集長が語る最強ラインナップの秘密
我ら球団「神保町フラワーズ」
──岩本ナオさんの「町でうわさの天狗の子」が第55回小学館漫画賞少女向け部門を受賞、その他の作品も各賞やオススメ本のランキングにノミネートと、ノリにノッているflowersの魅力を今日は編集長自ら語っていただこうかと。
さっき萩尾望都先生の動画コメントを横で聞いていたら的確な意見ばかりで、言おうと思ってたこともほとんど言われてしまいましたし、ほかに何を喋ればいいのか、途方に暮れてます(笑)。
──それだけマンガ家と編集者の思い描いているflowersのイメージが一致してるということじゃないでしょうか。具体的にどんな部分が重なっていましたか?
flowersという雑誌の懐の深さについて、ですね。少女マンガというのはジャンルに対する縛りがきつくて、恋愛もの以外を描く場が非常に限られているんです。作家が野心的な作品を描こうとしても、現実的にはなかなか描けない。flowersも少女誌なので恋愛は重要な軸と考えていますが、それだけが大事というのは違う。人生を描くとき、恋愛も外せない一要素という考え方をしています。
──確かにflowersは、SFから時代劇まで掲載作品のジャンルが幅広いですね。読者層というのは何歳くらいを想定しているのでしょうか。
何歳というより、簡単に言ってしまうと、マンガ好きな読者に向けて作っています。アンケートを見ると下は12歳くらい、上は70歳までいるんですが、不思議なことにどの年齢層でも作品に対する感想は共通している。マンガ好きな読者というのは年代を問わないんだなあ、と。
──年代を問わないといえば、flowersのラインナップは萩尾先生のようなベテランと新人が軒を連ねるのも魅力です。その辺りのバランスは、どのようにコントロールされてるのでしょうか。
ベテランと若手が相互に刺激しあう関係は意識してますよ。ベテランが充実していれば、若手が手を抜けるわけない。ベテランも若手ががんばっていたらプレッシャーですから気合が入る。お互いの中で相互に圧力が生じ、最終的に読者に見える形で届くというのが理想です。
──マンガ家同士が切磋琢磨して、クオリティを向上させているということでしょうか。
担当編集者があれこれ言わなくても、例えばきちんと絵を描くなんて言わずもがなですよね。それはプロの作家だったら前提というか、暗黙の了解。言ってみれば厳しいプロ野球の球団みたいなものではないでしょうか。
──球団……。言ってみれば「神保町フラワーズ」ですか。
そうですね(笑)。いい球団というのは、みんなががんばってるんだから自分もがんばらなきゃって練習に励むし、そんな一人ひとりの努力が成績として実を結ぶでしょ。そうやって培われたものが30年、40年と受け継がれていく。個々のマンガは独立した作品だけど、雑誌っていうのは気分的に団体戦かもしれませんね。さらに言えばflowersは読者アンケートでも鋭い指摘が多くて、気を抜いて作れないなあといつも緊張しています。そういった良質な読者に支えられているのもflowersの強みだと思います。
もうちょっと、の積み重ねが武者流
──2002年に創刊されたflowersですが、武者さんが編集長に就任なさったのが2007年の夏。flowersの編集長になって、まずは何を行いましたか?
当時はゲスト読み切りが多くて、前号と次号で半分くらい作家が入れ替わったりしていました。これじゃまずいと思って、レギュラーを増やしましたね。ラインナップが安定しないとカラーを保てないし、チームとしてのまとまり感が出ない。季刊とかだったら、また話は違うと思うんですけど。
──少女マンガは少年マンガに比べると連載期間も短いですよね。
10巻を超えるものは稀ですね。せっかく考えたキャラクターや設定をすぐに終わらせるのはもったいないので、今はレギュラーでかつ長く続くマンガを増やそうと思っています。
──長期連載の良さってなんでしょう。
作品に厚みが出ますよね。キャラクター、世界観がしっかり根付く。連載している間って作家はずっと連載のことを考えてなくちゃいけないので、自然と精神力、体力が鍛えられます。若手には早く力をつけてもらいたいので、「町でうわさの天狗の子」なんかはできるだけ長く連載してもらえればと考えていました。
──確かに「天狗」は、長く続いたことでどんどん面白くなっていると思います。
岩本さんはこれまで、読み切りや短い連載が多かったんです。短編には短編の良さがあるけど、短い時間軸でしか切り取れないのでキャラクターやドラマの変化が小さいんですよね。そもそも変化するまえに終わっちゃったりとか。初めての長期連載ということで岩本さんもかなり大変だと思うんですが、より大きな作家になってもらいたいので、ここはがんばってほしいです。先頃「雨無村役場産業課兼観光係」も3巻かけて完結させました。作家としてひと回り大きくなったと思いますね。
──まとめると、武者さんが編集長になって行ったことはレギュラーの増加、連載の長期化、若手の育成ということでしょうか。
ええ。現場レベルで言うと、作家の方々にも編集部のスタッフにも、みんなに少しずつ無理をしてもらってます。「ちょっと長く描こうよ」「ちょっと欲張ろうよ」って言って。絶対無理ってハードルじゃなく、ちょっとだけっていうのが大事。ちょっとをちょっとずつ広げて、自然と全体を広げていこうと思っているんです。
第55回小学館漫画賞を受賞した岩本ナオ「町でうわさの天狗の子」に、「このマンガがすごい! 2009」オンナ編1位に選ばれた小玉ユキ「坂道のアポロン」など話題の新進作家が続々。さらに吉田秋生「海街diary」や萩尾望都「シリーズここではない★どこか」、田村由美「7SEEDS」などベテラン勢も充実し、もはや独走態勢のラインナップから目が離せない!
4月号ラインナップ
西炯子「ふわふわポリス 比留ヶ谷駅前交番始末記」/田村由美「7SEEDS」/小玉ユキ「坂道のアポロン」/ヒガアロハ「しろくまカフェ」/赤石路代「暁のARIA」/岩本ナオ「町でうわさの天狗の子」 /井上ナヲ「紺碧の空の先に何があるか」/渡辺多恵子「風光る」/奈知未佐子「キードッグ」/大野潤子「トウカ草紙」/絹田村子「さんすくみ」/さいとうちほ「アイスフォレスト」/清原なつの「山姫様と旅する王子」/奈々巻かなこ「港町猫町」/音森春瑚「たんぼの花嫁」/グレゴリ青山「マダムGの館」/うつろあきこ「宇宙屋台へおいでませ」
月刊flowers
2002年4月27日創刊。1980年から22年に亘って続いた少女マンガ誌「プチフラワー」の後継誌として誕生。萩尾望都を筆頭に、吉田秋生「海街diary」、田村由美「7SEEDS」、渡辺多恵子「風光る」、波津彬子、赤石路代、清原なつの、さいとうちほなど、少女漫画の大家が多数執筆する一方、岩本ナオ「町でうわさの天狗の子」(平成21年度小学館漫画賞受賞作品)や小玉ユキ「坂道のアポロン」(宝島社「このマンガがすごい!2009」オンナ編1位)、ヒガアロハ「しろくまカフェ」(宝島社「このマンガがすごい!2010」オンナ編21位)など、若手新進作家による話題作も数多く連載されている。2010年1月号で通巻100号を迎えた。現編集長は武者正昭(2007年7月から)。