「リストルージュ」1巻

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「リストルージュ」人間が絶滅危惧種の世界。人間を保護するキメラたちを通して、この作品では何が描かれる?

PR灯晴ほく「リストルージュ」

人間が絶滅危惧種となり、キメラ族に保護される世界。キメラ族の願いは人間を繁殖することだった。人間の少女の世話役となったキメラ族の少年は、少女とともに過ごすうちに、ある感情が芽生えはじめ……。作者の灯晴ほくが自身のXで発表したエピソードが話題を呼び、現在は月刊ミステリーボニータ(秋田書店)で連載されている。

/ ひらりさ

灯晴ほく「リストルージュ」1巻
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灯晴ほく「リストルージュ」2巻
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私たち人間が、絶滅危惧種だったら……?

「絶滅危惧種」という言葉を聞いたとき、どんな生き物を思い浮かべるでしょうか。イリオモテヤマネコ? オオサンショウウオ? レッドリストに掲載されている生き物は、日本だけで3716種(2020 年時点)。でも、今は彼らを保護する側にまわっている私たち人間が、逆に絶滅危惧種になったら……? そんな衝撃的な世界観を描くのが、灯晴ほくの「リストルージュ」です。

「リストルージュ」の“エピソード0”となる第0話より。

「リストルージュ」の“エピソード0”となる第0話より。

1カ月以上続いた酸性雨によって、生き物たちがドロドロに溶けてしまった世界。溶けた動物同士がくっついて生み出された生き物が、「キメラ」です。「人間を食べると頭がよくなる」という噂を信じて人間を主食とし、実際にかなりの知能を持つようになったキメラたち。しかし、人間のほうはというと、キメラが食べたことにより、絶滅の危機に。反省したキメラたちは、人間を保護することを決定。今や世界に10名程度まで減った人間は、特別な施設で大切に育てられています。外にいるキメラたちが人間を見ることができるのはごくたまに開かれる「おひろめ会」のときだけ……というのが本作の世界観。

「リストルージュ」第0話より。

「リストルージュ」第0話より。

元々は「人間が絶滅危惧種だった話」としてXに投稿された本作。Xで大きな反響を得た結果、秋田書店の月刊ミステリーボニータに読み切りとして掲載され、好評につき、すぐに連載が決定した。

心をグッと奪うのは、なんといってもキメラたちの見た目です。鳥や狼、昆虫など、多彩な生物のパーツを用いて描かれるキメラたちの造形は、今まで見たことがないもの。おどろおどろしさとかわいさが共存していて、どこか、パレードやサーカスの一群を眺めているような気持ちになります。そのイメージを彩るのは、描線の力強さ。大ゴマの使い方、キメラたちの瞳の描きわけなども、とても魅力的です。

「リストルージュ」第0話より。人間の少女・カレンと、彼女のお世話係であるキメラのミラ。

「リストルージュ」第0話より。人間の少女・カレンと、彼女のお世話係であるキメラのミラ。

そんな、ディストピアな世界観とメルヘンな絵柄をスパイスとしつつ、作中に起きる物語を、読者にとって身近な出来事と感じさせてくれるのが、主要キャラクターたちの“人間らしさ”。本作の主人公であるジュリは、キメラの少年ですが、名門大学への進学に失敗し家族から落ちこぼれ扱いされる中で、再起を図るために、人間の“お世話役”の門戸を叩きます。ジュリが世話を任せられる人間のメリアは、美しく優しい少女ですが、5歳のときに出たおひろめ会での失敗経験でトラウマを抱え、再度おひろめ会に踏み出すことをためらっています。孤独と挫折を味わいながらも懸命に生きる2人のボーイミーツガールが「リストルージュ」の軸なのです。

生かすため? 飼っているだけ? キメラたちにとっての“人間”という存在

次第に心を通わせていく2人に降りかかるのが、メリアの誘拐未遂事件。ジュリの奮闘により難を逃れたメリアでしたが、ジュリはキメラたちから犯人の仲間ではないかと疑われてしまいます。容疑を晴らすため、犯人探しを余儀なくされるジュリ。しかしこの出来事を機に、「メリアの世話」という仕事が、メリアのためのものなのか、揺らいでいきます。果たして、キメラたちは本当に人間を「生かそう」としているのか。それとも、ただ「飼って」いるだけなのか──。

「リストルージュ」第1話からはキメラの少年・ジュリと、彼がお世話する人間の少女・メリアを軸に物語が展開される。

「リストルージュ」第1話からはキメラの少年・ジュリと、彼がお世話する人間の少女・メリアを軸に物語が展開される。

先ほど、ジュリのことを「人間らしい」と評しましたが、それでもジュリは“キメラ”。ジュリの価値観は人間のものとは微妙に異なります。メリアに共感や愛着を持ちつつも、メリアに寄り添いきれないジュリと、それにチクチクとした痛みを感じるメリア。その繊細な描写が、「リストルージュ」のドラマをさらに味わい深いものにしています。

タイトルの「リストルージュ」が意味するものとは

タイトルの「ルージュ(赤)」ゆえか、作中では“赤”が印象的なモチーフとして登場します。強烈だったのが、最新刊2巻に収録された、メリアが初潮を迎えるシーン。キメラたちは、この「赤の合図」で、メリアが結婚式を迎えられるようになったと喜び、お祝いします。ジュリもみんなと一緒にメリアを祝福しますが、メリアはこれに違和感を覚えます。ジュリとメリアのすれ違いを描写するうえでグッとくるシーンですが、現実世界でも現に起きている、女性が「産む」という役割ばかりを負わされ、個人を置いてけぼりにされるジレンマともリンクするもの。作者がこの世界観を通じて描こうとしているテーマの大きさを感じました。

「リストルージュ」第2巻より。

「リストルージュ」第2巻より。

笑顔の裏に残虐な性格を隠し持った、メリアの婚約者・レイユも登場し、ますます緊張感が高まっている最新刊2巻。ディストピア的なファンタジーが好きな方、ボーイミーツガールが好きな方、ぜひ2人の行く末を追ってみてください!

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©灯晴ほく(秋田書店)2024

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