「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」「機動戦士ガンダムF91」富野由悠季監督インタビュー|「オリジナルではない。でも映画として表現しようとしたことには近づいた」

「G-レコ」は劇場版が本編

──今回「逆襲のシャア」と「F91」が4K ULTRA HD化されましたが、ご自身のほかの作品で同じ仕様にしてみたい作品はありますか?

ありません。僕が主体になっていろいろなアニメを作っているように見えるかもしれないけど、全部誰かのオーダーがあるからやっていることです。自分が作りたいと思ってやったのなんて1、2本あるくらいで、オーダーがない限りやる気はしません。宮崎駿監督みたいに「いい原作が見つかったから、引退宣言していたけどまたやるぞ」なんてことは僕にはないんです。

──とはいえ、富野監督の次の作品を期待しているファンは多いです。現在発表されている劇場版「ガンダム Gのレコンギスタ」への意気込みを教えてください。

富野由悠季

意気込みはありません。劇場版「G-レコ」も、僕が「やるぞ」と言ったものをバンダイ(ナムコアーツ)が受けてくれたという点ではほかの作品と違うように見えるかもしれないけど、ちょっとニュアンスが違いますね。まずテレビ版をオンエアする環境やビジネスの仕方を考えたときに僕は異常だと感じたんです。それを改善するためにどうすればいいかと考えて、行き着いたのが劇場版という形でした。

──どういう風に異常と感じたのか、具体的に教えていただけますか。

つまり「巨大ロボットものを深夜にオンエアしてどうするんだ」ということです。営業や販売の人は「深夜のオンエアでも、今の視聴環境なら観る人は観てくれる」と言います。確かに深夜にこっそりオンエアしても、商売になっていなくもないらしい。でも「それが興行か?」と言いたいのです。アニメではなく映画的な考え方だけど、人を集めてみんなで「つまんねえな」とか「面白いよね」って言い合って成立するのが興行でしょう。だから深夜でオンエアするとわかったときに、「だったらオンエアが終わるまでの2クール分、0号のフィルムの感覚でテレビ版を作る。それを見直してから劇場版を本編として作る」という覚悟をしたんです。

富野の最新作となる「ガンダム Gのレコンギスタ」。2014年から2015年にかけて放送された。

──あくまで劇場版が本編なんですね。

そうです。だからさっき言ったように個人的な意気込みはなく、こういう公開の仕方になっただけなんです。でも、テレビでのオンエアに合わせて強引に作ったおかげで、作っているときに「ちょっとまずいかな」なんて部分も「どうせ深夜だし、あとで編集するんだから」となったのはつらかったですね。

──それが一部で言われる「『G-レコ』はわかりづらい」という評価に繋がるのでしょうか。

それはタイトルに「ガンダム」と付いていて、「ガンダム」として観ているからでしょう。「ガンダム」と付けたのは僕の意図ではないから「困ったな」と思うけど、「ガンダム」だから観てくれているファンがいるのも理解はしています。でも100人視聴者がいると2、3人はちゃんと「『G-レコ』は『G-レコ』」だと嗅ぎ分けて評価してくれていますね。

21世紀の後半に向けて必要な物語を考える

──最後に、先日「機動戦士ガンダムNT」という「ガンダム」シリーズの新作が発表され(参照:「機動戦士ガンダムNT」11月劇場公開!「機動戦士ガンダムUC」のその先を描く)、来年には「ガンダム」40周年を迎えます。今後のシリーズ展開に対してどのようなことを期待しますか?

期待なんてあるわけないじゃない、僕は今「ガンダム」をやってないんだから(笑)。だけどそれだけ書かれると困るからカッコつけましょう。「G-レコ」でうれしかったのは、女性ファンがついたこと。そこがこれまでの僕の「ガンダム」とは明らかに違うんですよ。だから40周年以降の「ガンダム」がもう少し裾野を広げようとするなら、女性客がついた「G-レコ」みたいなものや、もう少しおチビちゃん向けのものもあっていいんじゃないのかな、と思います。

──「G-レコ」もロボットは出ていますが、それは本質ではないと。

ロボットはほとんどダミー、ガジェットでしかない。「G-レコ」では未来に対して新しい物語が必要なんじゃないか、ということに挑戦してるわけです。そういった部分をファンタジーものや癒し系のものに奪われているままでいいのかな、と。ZOZOTOWNやSHOWROOMってあるじゃない? ああいったものが当たり前にある世代の子どもたちが大人になっていく21世紀の後半に向けて必要な物語って、ファンタジーとか癒し系ではない気がするんです。

──なるほど。富野さんが、ファッション通販サービスのZOZOTOWNや動画ライブ配信サービスのSHOWROOMを語られていることが意外に感じます。

この1カ月ぐらいで知ったことなんだけど……両サービスの創業者が、素質として共通して持っていたものってご存知ですか?

──……思いつかないですね。

全然違うものに見えるけど、ZOZOTOWNの前澤友作さんとSHOWROOMの前田裕二さんには共通点があります。今、IT関連で億単位のお金を動かす2人だから、PCが大好きだったように思えるかもしれません。でも、おふたりとも、22、3歳までバンド活動をやっていたんです。ただ、そっちで生き残れなくなってどうするかなって考えて辿り着いたのが、通販や動画配信だったんですよ。バンドってITですか?

──ITというイメージではないです。

ライブを通じて直に客と接したり、何人かのメンバーから成るバンドをまとめてきたことが、営業論や組織論に通じているんですよ。つまり何が言いたいかというと、最初からあのおふたりの成功の後に続こうとするのは駄目だということ。バンドでもスポーツでもなんでもいいけど、やっぱり何か体感できることをやっていないと、彼らみたいなセンスは身に付かないでしょう。

──何か別の道の体験をしておくと、あとで役に立つかもしれないということですね?

体験って理解が駄目。体験じゃなくて“体感”なんだよ。お勉強や知ったふうな理屈じゃなくて、自分の中で何かを積み上げていく必要がある。だからアニメの物語も、体感を通じて何かを考えさせるという……僕にとってはそれが「G-レコ」なんだけど、そういったものを作っていく必要があるんじゃないかな。それが前澤さん、前田さんのことを調べていて気が付いたことです。

富野由悠季

──ちなみに彼らのことを調べたのはなぜですか?

剛力彩芽と石原さとみという、2人の役者さんが揃って彼らみたいな実業家と交際していると報道されていたじゃない? 僕はそれまでネットで商売しようなんて人は興味がなかったけど、女の勘ってすごいから気になった(笑)。だから気になって彼らのキャリアと商売の仕方なんかを調べた。それで彼らにはそういう背景があるから成功したんだと僕は理解したけど、今度は若いクリエイターたちが、より若い世代に対してどういうメッセージを発信していくのかをしっかり考えていただきたい。はい、あなたは今とてもいい勉強しましたね。あとで授業料請求しようかな(笑)。

4K ULTRA HD Blu-rayがわかる
3つのキーワード

力強い輝きを表現し、映像の迫力を高める
「HDR(High Dynamic Range)」

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」より。

※画像はイメージです。

「HDR(High Dynamic Range)」によって映像の明るい部分と暗い部分の表現の幅が大幅に拡大。暗い場面での光の強さが豊かに表現できるようになり、アニメならではの光と陰による演出が際立つようになった。

手描きの描線を鮮やかに、ディテールも緻密に再現する
「4K解像度」

「機動戦士ガンダム F91」より。

※画像はイメージです。

「4K ULTRA HD Blu-ray」の解像度3840×2160画素は、現行Blu-rayのフルHD解像度の4倍。アニメの場合4K解像度にアップコンバートすることで、描線の再現の度合いがクリアになるほか、HD解像では識別しづらかった微細なディテールまでも鮮やかに再現できるようになった。

豊かな色再現で、場面をより鮮やかに彩る
「広色域」

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」より。

※画像はイメージです。

「4K ULTRA HD Blu-ray」では、新たな広色域規格「BT.2020」を採用し、自然界に存在する色の再現度が大幅に上昇。明暗の差が広がるHDRと相まって、今までは白一色になってしまうような強い光に色を加えたり、モノトーン調になりがちな暗い場所の色まで描けることで、映像のリアリティが増した。

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」
4KリマスターBOX
2018年6月22日発売 / バンダイナムコアーツ
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」

[4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc 2枚組]
9936円 / BCQA-0005

Amazon.co.jp

バンダイナムコアーツ

本編120分+映像特典約5分

特典

  • 特製収納BOX
  • 「逆襲のシャア」ドキュメントコレクション
    • 絵コンテやラフスケッチなど秘蔵資料を収録(100P)
    • 収録インタビュー
      富野由悠季(原作・脚本・監督)、北爪宏幸(キャラクターデザイン)、内田健二(プロデューサー)、池田繁美(美術)、大森英敏(メカ作画監督)、磯光雄(作画監督)、稲野義信(作画監督)、出渕裕(モビルスーツデザイン)、庵野秀明(メカニカルデザイン)、古林一太(撮影監督)、奥井敦(撮影監督)

映像特典

  • 劇場予告編
  • 特報映像1・2

音声特典

  • 4.1ch アドサラウンド音声
  • 原作・脚本・監督:富野由悠季
  • キャラクターデザイン:北爪宏幸
  • モビルスーツデザイン:出渕裕
  • メカニカルデザイン:ガイナックス、佐山善則
  • 作画監督:稲野義信、北爪宏幸、南伸一郎、山田きさらか、大森英敏、小田川幹雄、仙波隆綱
  • 美術監督:池田繁美
  • 撮影監督:古林一太、奥井敦
  • 音響監督:藤野貞義
  • 音楽:三枝成彰
  • 主題歌:TM NETWORK「BEYOND THE TIME~メビウスの宇宙を越えて~」
  • 企画・製作:サンライズ
「機動戦士ガンダムF91」4KリマスターBOX
2018年6月22日発売 / バンダイナムコアーツ
「機動戦士ガンダム F91」

[4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc 2枚組]
9936円 / BCQA-0006

Amazon.co.jp

バンダイナムコアーツ

本編120分+映像特典約6分

特典

  • 特製収納BOX
  • 「F91」ドキュメントコレクション
    • 絵コンテやラフスケッチなど秘蔵資料を収録(100P)
    • 収録インタビュー
      富野由悠季(原作・脚本・監督)、大河原邦男(メカニカルデザイン)、安彦良和(キャラクターデザイン)、村瀬修功(作画監督)、森口博子(主題歌歌手)、池田繁美(美術)、奥井敦(撮影)、井上幸一(設定制作)、藤野貞義(音響)、辻谷耕史(シーブック役)、冬馬由美(セシリー役)

映像特典

  • 劇場予告編
  • 特報(日本語・英語)
  • プロモーションフィルム
  • TV-CF

音声特典

  • 4.1ch アドサラウンド音声
    劇場公開版と完全版が選択できるダブルフォーマット収録
  • 原案:矢立肇
  • 原作・監督:富野由悠季
  • 脚本:伊東恒久、富野由悠季
  • キャラクターデザイン:安彦良和
  • メカニカルデザイン:大河原邦男
  • 作画監督:北原健雄、村瀬修功、小林利充
  • 美術:池田繁美
  • 撮影:奥井敦
  • 音楽:門倉聡
  • 音響:藤野貞義
  • 主題歌:森口博子「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」
  • 企画・製作:サンライズ
富野由悠季(トミノヨシユキ)
1941年11月5日生まれ、神奈川県出身。アニメーション監督。日本大学芸術学部映画学科卒業後に虫プロダクションに入社。日本初のテレビアニメシリーズ「鉄腕アトム」のスタッフとなる。1967年に退社後、CMディレクターを経てフリーの演出家として活動開始。1972年に「海のトリトン」で実質的に初監督を担当。1979年に「機動戦士ガンダム」の原作・総監督を務め注目を浴びる。代表作に「伝説巨神イデオン」「∀ガンダム」「OVERMANキングゲイナー」「リーンの翼」「ガンダム Gのレコンギスタ」など。