4K ULTRA HD版の音は映画館で表現しようとしたものに近い
──今回、4K ULTRA HD化の調整に立ち会われたと伺いました。まず、4K ULTRA HDという仕様についてはどう感じましたか?
仕様そのものに関しては、僕は知りませんが、今回、最終版に近いサンプルを観せてもらったときに嫌だなと思ったことがありました。Blu-ray以降、映像はすごくきれいになっているけど、音の進化は取り残されたままなんです。今回だとオリジナルの音をそのまま4.1chにした影響で、音が引っ込んでいるように感じたんです。これはシーンによって違っていて、戦闘シーンなんかは問題ないけど、日常描写になった瞬間にすごく薄く聴こえてしまうんです。これはもう観た瞬間にわかるレベルなのに、こういった再販をするときに誰も直そうとしてこなかったんです。
──それはなぜでしょうか?
今回やってみてわかったんですが、音響関係のスタッフは気が付いていました。でも営業や販売をしてる人たちは気が付いてない。彼らは「オリジナルのまま(で手を加えない)」というのが売りだと思っているから。だから今回リテイクをお願いしたら、音響スタッフはすぐに素材を持ってきましたよ。
──そのリテイクが、「ガンダムインフォ」の商品ページ(参照:「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」4KリマスターBOX、富野由悠季監督のコメントが到着! | GUNDAM.INFO)でもコメントされていた、「聞こえにくくなっていた環境音を、オリジナルから抽出した音声を利用して再ダビング作業をすることで改善した」ということですね。
そうです。例えば今、少し静かにしてみてください。この部屋を撮影するとしても完全に無音ではないんです。なんとなく聞こえている「ブーン」っていう音とか、向こうの部屋で誰かがしゃべっている音もあるじゃないですか。「逆襲のシャア」や「F91」でもそういう環境音を入れているんです。だから劇場くらいの環境で聴くと、音が自然に聞こえました。でも単に4.1chにしただけだとその環境音が聞こえなくなってしまって、会話シーンではセリフだけがぶつ切りで聞こえてくるんです。セリフだけを追うならそれでいいんだけど、人間の感覚としては気持ち悪く感じるのです。
──だから今回の4K ULTRA HD版では環境音を加えて、当時の映画館で表現しようとしていたことを再現したんですね。
基本的にはそうです。ただ、再ダビングするにしても元の音の素材はないから、オリジナルのテープから環境音っぽく聞こえるものを取り出して加工して、それを別チャンネルに貼り付けるという作業をしてもらいました。だからこれはオリジナルではありません。でも当時、映画として表現しようとしたことには近づいていますので、オリジナルになったと言えます。
自分が観られる範囲のいい環境で観てほしい
──映像面では何か調整されてますか?
一切指示していません。そんなのはしょせん色味やコントラストの問題だけでしかなく、基本的にリマスターによって質感が変わるものなので、オリジナルのままというわけにはいきません。そもそもモニターで観たもので判断するんだけど、そのモニターが全然信用できない。同じ部屋にあっても、メインのモニターで観たものと別のモニターで観たもので違うんだから。
──では何をもって判断をするのでしょうか? 最終的に「これでいく」と決めるための基準は必要ですよね。
本来はそうでしょうが、僕はそういうことに基本的に興味はないし、自分の作品に関してそこまで正確に再現するだけの価値があると思っていません。だから周囲のスタッフの判断に任せているのが本当のところです。彼らはプロですから。あとね、年寄りの基準が正しいとか限らないのよ(笑)。ありがたいことに僕の作品は何度となく再販されていて、周りのスタッフも初めてではないから、彼らに任せているんです。
──少し話は変わりますが、富野監督のご自宅の視聴環境はどういう感じでしょうか?
ごく普通、もしくは普通以下です。「大画面でなければ観たくない」なんて考えは一切ありません。2、3人の映画監督に聞いたところでは、ホームシアターシステムなんて持っている人なんていませんよ。というのも真剣に観るのは現場でやっているんだから、家に帰ってまで観たくない(笑)。
──作業現場で観ればいい、と?
仕事以外で観たくない。これは音も一緒で、ある作曲者に「(プライベートでは)どんな環境で聴いてるの?」って聞いたら、「CDプレイヤーにイヤホン。疲れるもん」だって。もちろんファンを馬鹿にしてるわけじゃないですよ。僕もオーディオファンになりたいと思った時期があり、がんばったこともあります。でも実務者はそんなものです。
──とは言え、今回の4K ULTRA HD版に関しては、4K対応のテレビや高音質なシステムで観たほうがいいですよね。
当然そういう仕様だから、そういう環境で観るべきなんだろうけど、作品の評価にはあまり関係ないよね。プロとしてものすごく生意気な言い方をさせてもらうと、小さいモニターで観ても大画面で観ても映画のカット割りの良し悪しはわかるから関係ないんです。自分が観られる範囲のいい環境で観てください。
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「G-レコ」は劇場版が本編
- 「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」
4KリマスターBOX - 2018年6月22日発売 / バンダイナムコアーツ
本編120分+映像特典約5分
特典
- 特製収納BOX
- 「逆襲のシャア」ドキュメントコレクション
- 絵コンテやラフスケッチなど秘蔵資料を収録(100P)
- 収録インタビュー
富野由悠季(原作・脚本・監督)、北爪宏幸(キャラクターデザイン)、内田健二(プロデューサー)、池田繁美(美術)、大森英敏(メカ作画監督)、磯光雄(作画監督)、稲野義信(作画監督)、出渕裕(モビルスーツデザイン)、庵野秀明(メカニカルデザイン)、古林一太(撮影監督)、奥井敦(撮影監督)
映像特典
- 劇場予告編
- 特報映像1・2
音声特典
- 4.1ch アドサラウンド音声
- 原作・脚本・監督:富野由悠季
- キャラクターデザイン:北爪宏幸
- モビルスーツデザイン:出渕裕
- メカニカルデザイン:ガイナックス、佐山善則
- 作画監督:稲野義信、北爪宏幸、南伸一郎、山田きさらか、大森英敏、小田川幹雄、仙波隆綱
- 美術監督:池田繁美
- 撮影監督:古林一太、奥井敦
- 音響監督:藤野貞義
- 音楽:三枝成彰
- 主題歌:TM NETWORK「BEYOND THE TIME~メビウスの宇宙を越えて~」
- 企画・製作:サンライズ
- 「機動戦士ガンダムF91」4KリマスターBOX
- 2018年6月22日発売 / バンダイナムコアーツ
本編120分+映像特典約6分
特典
- 特製収納BOX
- 「F91」ドキュメントコレクション
- 絵コンテやラフスケッチなど秘蔵資料を収録(100P)
- 収録インタビュー
富野由悠季(原作・脚本・監督)、大河原邦男(メカニカルデザイン)、安彦良和(キャラクターデザイン)、村瀬修功(作画監督)、森口博子(主題歌歌手)、池田繁美(美術)、奥井敦(撮影)、井上幸一(設定制作)、藤野貞義(音響)、辻谷耕史(シーブック役)、冬馬由美(セシリー役)
映像特典
- 劇場予告編
- 特報(日本語・英語)
- プロモーションフィルム
- TV-CF
音声特典
- 4.1ch アドサラウンド音声
劇場公開版と完全版が選択できるダブルフォーマット収録
- 原案:矢立肇
- 原作・監督:富野由悠季
- 脚本:伊東恒久、富野由悠季
- キャラクターデザイン:安彦良和
- メカニカルデザイン:大河原邦男
- 作画監督:北原健雄、村瀬修功、小林利充
- 美術:池田繁美
- 撮影:奥井敦
- 音楽:門倉聡
- 音響:藤野貞義
- 主題歌:森口博子「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」
- 企画・製作:サンライズ
- 富野由悠季(トミノヨシユキ)
- 1941年11月5日生まれ、神奈川県出身。アニメーション監督。日本大学芸術学部映画学科卒業後に虫プロダクションに入社。日本初のテレビアニメシリーズ「鉄腕アトム」のスタッフとなる。1967年に退社後、CMディレクターを経てフリーの演出家として活動開始。1972年に「海のトリトン」で実質的に初監督を担当。1979年に「機動戦士ガンダム」の原作・総監督を務め注目を浴びる。代表作に「伝説巨神イデオン」「∀ガンダム」「OVERMANキングゲイナー」「リーンの翼」「ガンダム Gのレコンギスタ」など。
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