「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」「機動戦士ガンダムF91」富野由悠季監督インタビュー|「オリジナルではない。でも映画として表現しようとしたことには近づいた」

完全オリジナルの劇場用作品として制作された「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」と、「機動戦士ガンダム F91」。公開から30年近い年月を経ても今なお愛され続ける2作品が、最新技術によるハイクオリティ映像の4K ULTRA HD Blu-rayとして生まれ変わり、同時にリリースされた。

コミックナタリーではこのリリースに合わせ、「ガンダム」シリーズの生みの親である富野由悠季監督にインタビューを実施。今回の4K ULTRA HD Blu-ray化にあたり監督がこだわったポイントや、制作の真っ只中にある劇場版「ガンダム Gのレコンギスタ」についても語ってもらった。

取材・文 / はるのおと 撮影 / 高原マサキ

作品紹介

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」

1988年に公開された「ガンダム」シリーズ初の完全オリジナル劇場用作品。「機動戦士ガンダム」から続く、アムロ・レイとシャア・アズナブルの長き戦いに終止符が打たれた。これにより「ガンダム」シリーズは1つの節目を迎え、その後の幅広い展開へと繋がっていく。

宇宙世紀0093年。ネオ・ジオンの総帥となったシャア・アズナブルは、地球に住む怠惰な人類を粛正するために隕石落とし作戦を開始。作戦を阻止するためブライト・ノアやアムロ・レイが所属する地球連邦軍のロンド・ベル隊が出撃するも、小惑星5thルナの落下を止めることはできなかった。さらにネオ・ジオン艦隊は武装解除に見せかけたルナツーへの攻撃と、小惑星アクシズを強奪する作戦を実行。目的どおり核兵器とアクシズを手中に収めたシャアは、第2の隕石としてアクシズを地球へ落とそうとする。地球落下に向かって前進を始めたアクシズを止めるため、アムロはνガンダムに乗って出撃。地球の命運をかけて、2人のニュータイプによる最後の戦いが幕を開ける。

「機動戦士ガンダムF91」

1991年に公開。安彦良和、大河原邦男ら「機動戦士ガンダム」のスタッフが再結集した。「逆襲のシャア」においてアムロとシャアの物語が完結したことを受け、「まったく新しいガンダム作品」を意識して制作された。

宇宙世紀0123年。コスモ・バビロニア建国を目指すクロスボーン・バンガードのモビルスーツ群が新興コロニー・フロンティアIVを奇襲し、平和なコロニーは一転して戦場と化していく。高校生のシーブック・アノーたちは、攻撃をかわしつつ練習艦スペース・アークへと避難。その最中、級友のセシリー・フェアチャイルドはロナ家に後継者として迎えられ、鉄仮面に変わり果てた父カロッゾ・ロナと再会する。クロスボーン・バンガードによるフロンティアIへの侵攻が始まる中、母の造った新型MS・ガンダムF91に乗り込んだシーブックは、敵となったセシリーと戦場で再会する。離ればなれとなった2人は、再び通じ合うことができるのか? そして、鉄仮面が企てる、陰謀の正体とは……?

富野由悠季インタビュー

デザインは基本的にデザイナー任せ

──5月上旬、NHKで「ガンダム」シリーズの特集番組「発表!全ガンダム大投票」が放送されて話題になりました。そちらでは作品部門で「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」が5位で劇場用作品としてはトップ、キャラクター部門では総合ランキングで1位がシャア・アズナブル、2位がアムロ・レイでした。これだけ作品やキャラクターが長く愛される理由をどう分析されますか?

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」よりアムロ・レイ。
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」よりシャア・アズナブル。
富野由悠季

僕の意図とはあまり関係がないんですよね。それでもあえて考えると、まずキャラクターに関しては、アニメのキャラクターだけど、リアルだと思わせる部分があったからではないでしょうか。主人公のアムロ・レイのナイーブで思い悩むような一面が視聴者にとって共感できたし、シャアもマスクを被ってマンガチックだけど、なんか違うよねという気分があって。「ガンダム」がこれだけ長く続いているのは、戦後のマシン信仰、メカ信仰という一般の人の興味に合致したのが一番大きいと思います。戦争に負けてアメリカに追いつこうとがんばり、自動車産業が盛り上がっていったという記憶が40代や50代の人にはあって、そういうリアルな社会と連動した部分が受け入れられたんでしょう。

「「逆襲のシャア」「F91」にはともに、メインスタッフのインタビューを多数収録したブックレットが同梱される。

「逆襲のシャア」「F91」にはともに、メインスタッフのインタビューを多数収録したブックレットが同梱される。

──なるほど。モビルスーツに関して言うと、先の投票ではアムロが乗るνガンダムが一番人気でした。今回の4K ULTRA HD版「逆襲のシャア」の特典となるブックレットには多数のインタビューが収録されており、その中のモビルスーツデザインをされた出渕裕さんとメカデザインを担当された庵野秀明さんの対談で、「富野監督から特にオーダーはなかった」という話が出ていますが……。

モビルスーツ全般ですが、基本的に僕はオーダーをしません。大河原邦男さん(メカデザイナー)が作った最初のガンダムはすごくクラシックな造形で、少しひどい言い方をするとデザイン的にはダサかった。でもダサいゆえにどうとでもアレンジできるようになっていて、のちの作品を作る際に「もう少し今っぽく流線型にしよう」みたいな欲を刺激してくれるものだったんです。

──細かな話ですが、先の対談で出渕さんが「(νガンダムに関して富野さんからの)唯一のオーダーは、ファンネルがマントみたいになっていてほしいというものだった」と語っていました。覚えてらっしゃいますか?

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」よりνガンダム。

覚えているわけないじゃないですか。だけど、言われてみればそう言ったかもしれません。そのときは「マントみたいな」という言い方をしたように、そういう条件付けをしないとデザイナーは好き勝手にやるんですよ。「アニメなんだから好き勝手にやってもいいじゃないか」なんていうのはまったくの嘘で、ある程度の制限を与えないとすごく便利な新兵器になってしまう。便利すぎる新兵器は物語の中で効果的に使えなくなるんですよ。

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」
4KリマスターBOX
2018年6月22日発売 / バンダイナムコアーツ
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」

[4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc 2枚組]
9936円 / BCQA-0005

Amazon.co.jp

バンダイナムコアーツ

本編120分+映像特典約5分

特典

  • 特製収納BOX
  • 「逆襲のシャア」ドキュメントコレクション
    • 絵コンテやラフスケッチなど秘蔵資料を収録(100P)
    • 収録インタビュー
      富野由悠季(原作・脚本・監督)、北爪宏幸(キャラクターデザイン)、内田健二(プロデューサー)、池田繁美(美術)、大森英敏(メカ作画監督)、磯光雄(作画監督)、稲野義信(作画監督)、出渕裕(モビルスーツデザイン)、庵野秀明(メカニカルデザイン)、古林一太(撮影監督)、奥井敦(撮影監督)

映像特典

  • 劇場予告編
  • 特報映像1・2

音声特典

  • 4.1ch アドサラウンド音声
  • 原作・脚本・監督:富野由悠季
  • キャラクターデザイン:北爪宏幸
  • モビルスーツデザイン:出渕裕
  • メカニカルデザイン:ガイナックス、佐山善則
  • 作画監督:稲野義信、北爪宏幸、南伸一郎、山田きさらか、大森英敏、小田川幹雄、仙波隆綱
  • 美術監督:池田繁美
  • 撮影監督:古林一太、奥井敦
  • 音響監督:藤野貞義
  • 音楽:三枝成彰
  • 主題歌:TM NETWORK「BEYOND THE TIME~メビウスの宇宙を越えて~」
  • 企画・製作:サンライズ
「機動戦士ガンダムF91」4KリマスターBOX
2018年6月22日発売 / バンダイナムコアーツ
「機動戦士ガンダム F91」

[4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc 2枚組]
9936円 / BCQA-0006

Amazon.co.jp

バンダイナムコアーツ

本編120分+映像特典約6分

特典

  • 特製収納BOX
  • 「F91」ドキュメントコレクション
    • 絵コンテやラフスケッチなど秘蔵資料を収録(100P)
    • 収録インタビュー
      富野由悠季(原作・脚本・監督)、大河原邦男(メカニカルデザイン)、安彦良和(キャラクターデザイン)、村瀬修功(作画監督)、森口博子(主題歌歌手)、池田繁美(美術)、奥井敦(撮影)、井上幸一(設定制作)、藤野貞義(音響)、辻谷耕史(シーブック役)、冬馬由美(セシリー役)

映像特典

  • 劇場予告編
  • 特報(日本語・英語)
  • プロモーションフィルム
  • TV-CF

音声特典

  • 4.1ch アドサラウンド音声
    劇場公開版と完全版が選択できるダブルフォーマット収録
  • 原案:矢立肇
  • 原作・監督:富野由悠季
  • 脚本:伊東恒久、富野由悠季
  • キャラクターデザイン:安彦良和
  • メカニカルデザイン:大河原邦男
  • 作画監督:北原健雄、村瀬修功、小林利充
  • 美術:池田繁美
  • 撮影:奥井敦
  • 音楽:門倉聡
  • 音響:藤野貞義
  • 主題歌:森口博子「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」
  • 企画・製作:サンライズ
富野由悠季(トミノヨシユキ)
1941年11月5日生まれ、神奈川県出身。アニメーション監督。日本大学芸術学部映画学科卒業後に虫プロダクションに入社。日本初のテレビアニメシリーズ「鉄腕アトム」のスタッフとなる。1967年に退社後、CMディレクターを経てフリーの演出家として活動開始。1972年に「海のトリトン」で実質的に初監督を担当。1979年に「機動戦士ガンダム」の原作・総監督を務め注目を浴びる。代表作に「伝説巨神イデオン」「∀ガンダム」「OVERMANキングゲイナー」「リーンの翼」「ガンダム Gのレコンギスタ」など。