コミックナタリー Power Push - 高屋奈月「フルーツバスケット」

まだまだ広がるフルバワールド

乗り越えた姿が描きたい

──(笑)。物語全体を振り返ってみて、特に印象に残っているエピソードはありますか?

呪いが解けていくエピソード。

やっぱり一番は最終回。それと、最終回前の今日子さんのお話が感慨深いです。あの回は自分で描いておいてなんですが、泣きそうになります……。あとは呪いが解けていく回も。

──やはり終盤のシーンが多いですね。

印象深いですね。けっこう誤解されるんですが、私は決してつらい重い気持ちとか出来事とかを描くのが好きなわけじゃないんです。というか、描かなくて済むなら私も避けたいです。楽しいことばかり描けるなら描きたい!(笑)……だけど、彼らが何かを成し得る、彼らなりの答えを描くとき、過程としてしんどいエピソードをはしょるわけにもいかないし、光を描きたければどうしても闇も必要なので……。何より、そこを乗り越えた姿が描きたいんです、いつも。その姿が描きたい一心で、しんどいエピソードもふんばって描いております。

杞紗が勇気を出して登校するシーンで登場したフレーズ「弱さ故の向上心」。

──「フルバ」にはモノローグやセリフなど、心に響く言葉がたくさん詰まっていますね。こうした言葉たちはどういうときに頭に降りてきたものでしょうか。

ありがとうございます! でも作者本人はそこまで「良いこと言わせるぜ!」と思って描いてはいませんでした。あくまでキャラの心情を形にしていっただけですね。

──特に印象深い言葉を挙げるとしたら?

「弱さ故の向上心」は高校時代に考えた……というか思っていた言葉です。しんどい時期だったので。

紫呉が殴られず、動揺した

──先ほど、結末は連載開始当初から頭にあったとおっしゃっていましたが、ストーリー全体の流れも構想通りになったのでしょうか。当初の予定から変わったエピソードなどはありますか?

大なり小なりありましたが、印象的なのはやはり、紫呉が殴られなかったことですね。

──殴られなかった、というと……、どのキャラクターに?

第16話より、はとりが紫呉に忠告するシーン。

第16話ではとりが紫呉に「由希か夾か…本田君か 誰かは知らんが必ず一人にはなぐられるだろうよ」と言うシーンがあったんですが、いざ最終回間際になったら、想像以上に由希も夾も精神的に大人になってしまい、殴ってくれなくなってしまったんです。今のこの2人が紫呉を殴ったら、逆に「どうした!?」って感じになってしまう……と。作者としては殴らせる気満々だったので、これにはちょっと動揺しました。

──殴らせる気満々(笑)。

でもうれしくもありました。キャラクターが自分の想像以上に動く瞬間って、本当にうれしいんです。なかなかないことなので。

──高屋先生はTwitterで「絵柄は変えようと意識は持つようにしている」とお話しされていたことがありましたが、「フルバ」はラストに向かうにつれ、キャラクターの成長に合わせて絵柄が変わっていきます。具体的にどのようなことを意図して変えていったんでしょう?

それは変えたくて変わったのではなく、病気が原因のひとつでもあったので、なんとも……今でも申し訳なく思っています。ツイートのほうもすみません、ちょっと忘れてしまったんですが、おそらく「絵が古くならないよう意識している」と言いたかった、のかな……? 私は絵が達者とは到底言えないですが、努力はしていきたいなあと。

──21巻の柱では「想定より1巻多くなった」と書かれていましたが、どのあたりのエピソードが伸びたのでしょうか。

「星は歌う」カット

や、それはただ単純に私の見通しが甘かっただけです(笑)。担当さんや友人には当初から「その巻数じゃ収まらないよ」と言われてました。私もなんで収まると思っていたのか……。あまり巻数が伸びるのはよくないとなぜか思っていたので、焦りもあったのかな? でもこれはフルバに限らずいつもです。いつも見込みよりオーバーします。「フルバanother」もすでに私の見込みが甘かった感じになってきました……。なんとか当初の予定通り、全3巻でまとめたいところです。

──「another」の単行本発売も待ち遠しいです! ファンブック「宴」では、「フルバ」連載中は「背中にいつも『責任』を背負っていた」とお話しされていました。その責任とはどのようなものでしたか。

「フルバ」を最後までちゃんと終わらせる責任、ですね。描き上げたときはなんというか、身も心もボロボロでした。本当はそこでマンガ家を辞めようと思っていたんですが、なかなかそうスッパリとはいかなくて。でも「フルバ」を超えるような作品はもう2度と描けないし、描くつもりもさらさらなかったので、じゃあこれからは私らしい作品をマイペースに描いていこうと。なのでその次の連載「星歌」は、一番化粧っ気のない“私らしい”作品にできたなあと、すごく気に入っています。

──「星は歌う」も「フルバ」のように人と人とが関わっていく様が心に刺さる作品ですが、ファンタジー要素はなく、より地に足が着いている印象を受けます。

「リーゼロッテと魔女の森」1巻

めちゃくちゃ地味なんですけど、そこがいい。ただ気楽な気持ちで読むと、心がやられるかもしれないのでご注意ください(笑)。……話を戻して。ただ、「フルバ」のファンブックで言っていたように、次世代編はどこかで描きたいなあって気持ちはずっとあって。今回愛蔵版が発売することが決まったときに、「今ここしか、描けるタイミングはないな!」と思ったんです。体調諸々の事情もあって「リーゼロッテと魔女の森」との同時進行は無理なので、「リゼ魔女」はお休みさせていただいてますが、「another」が終わったらまた帰るつもりでいます。その際もオンラインでの連載になると思います。

「フルーツバスケットanother」花LaLa onlineで連載中!
「フルーツバスケットanother」花LaLa onlineで連載中!

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高屋奈月(タカヤナツキ)
高屋奈月

7月7日東京都生まれ。1992年花とゆめプラネット増刊(白泉社)にて「Born Free」でデビュー。SFやファンタジー作品を発表後、1998年に花とゆめ本誌にて「フルーツバスケット」の連載をスタート。異性に触れると動物に変身してしまう一族と女子高生の交流を描き人気を集めた。同作で2001年に第25回講談社漫画賞少女部門を受賞。TVアニメ化も果たし、売上1800万部を突破する大ヒットに。“もっとも売れている少女マンガ”としてギネスブックに認定されるに至った。その他の代表作に「翼を持つ者」「星は歌う」「リーゼロッテと魔女の森」などがある。