コミックナタリー Power Push - 高屋奈月「フルーツバスケット」

まだまだ広がるフルバワールド

1998年から2006年まで花とゆめ(白泉社)にて連載され、第25回講談社漫画賞少女部門を受賞したほか、「もっとも売れた少女マンガ」としてギネスブックにも認定されている高屋奈月「フルーツバスケット」。押しも押されもせぬヒット作が、今年愛蔵版になって帰ってきた。さらには次世代を描く「フルーツバスケットanother」も花LaLa onlineで連載中と、ファン歓喜のニュースが続いている。

これを記念してコミックナタリーは、高屋にインタビューを実施。「フルバ」執筆当時の思いや、「another」の制作秘話を語ってもらった。また「フルバ」の名ゼリフをランダムで楽しめるコーナー「今日のおことば」も用意したので、金言を心に染み込ませ明日への活力としてみては。

取材・文 / 岸野恵加

高屋奈月インタビュー

「フルバ」は自然に傍にいた

──「フルーツバスケット」愛蔵版の発売、おめでとうございます! 7月に愛蔵版の発売と「フルーツバスケットanother」始動のニュース(参照:高屋奈月「フルーツバスケット」新シリーズ始動!舞台は透たちの卒業後)をコミックナタリーで出したときは、4万RT弱と絶大な反響がありました。

ありがとうございます! それでなくとも自分のマンガが文庫本になると、長く読んでもらえるような感じでうれしいのですが、愛蔵版とはなんともまあ……すごいことです。ファンの方に「愛蔵版は発売されないんですか?」という質問を度々いただいていたので、気持ちに応えることができてよかったなあと。

──世界中の人々に今もなお愛されている作品ですが、ご自身では、これだけ多くの人たちの心を掴んだ理由をどのように考えますか。

今になってもわかりません(笑)。なぜなのか私が知りたい……! なぜなんだろう……。でもありがたいです、とてもうれしいです。

──愛蔵版刊行にあたって久々に原稿を見返して、どのような思いが湧き上がりましたか?

自作を読み返すということは基本的にしないので、チェックでパラパラと……くらいなのですが、全体的に若気の至りパワーがすごいですね(笑)。いい意味でも悪い意味でも、若かったから描けたことがたくさんあったように思います。あの頃の私にしか、そして年を取った私にしか描けない“モノ”ってありますねえ。

「フルーツバスケット」最終回より、由希と透の別れのシーン。ここから物語が作られていったと高屋は話す。

──2006年に完結を迎えてから9年、「フルバ」という作品は高屋先生の中でどのように存在していましたか? 最終巻の柱では「作者には作品との別れがないから、(完結は)それほど寂しくない」と綴っていらっしゃいましたが……。

お話こそ完結しましたが、「フルバ」のお仕事自体はポツポツあったし、完全に離れたわけでもなかったので、普通に、自然に傍にいる感覚……かな? 細かい作品の設定とかは忘れちゃうし、さすがに「幻影夢想」や「翼を持つ者」になると完全に眠りについてしまってますけど、やっぱり「フルバ」は「いなくなった」という感覚ではないですね。

最終回のシーンから作り上げていった

──なるほど。それでは連載当時のことも伺っていければと思います。ドタバタと楽しいやり取りも「フルバ」の魅力ですが、「ホームコメディ」とキャッチフレーズが付いていることについて、「コメディだと思って描いていない」と1巻の時点で書かれていました。どのようなことを軸にした作品を描こうと、まず思っていましたか。

「フルーツバスケット」の物語は、今日子さんのモノローグで締めくくられる。

「フルバ」は最終回の透と由希のシーンから生まれて作り上げていった作品なので、やはりあのシーン、そしてラストの今日子さんのモノローグが大本の軸になっているんです。話が進むと決して「コメディ」とはくくれないエピソードが増えていくのももちろんわかっていたので、「やめてくれ……真反対の印象付けをするのはやめてくれ……」と思っていました(笑)。

──ジレンマがあったんですね。「フルバ」は透を主人公としながらもたくさんのキャラクターによる群像劇という面があり、それぞれの人間性を深く掘り下げて描いています。これだけ多くのキャラクターに寄り添ってその内面を描く作業は、どのように進めていたのでしょうか?

「フルバ」に限らず、私のマンガの描き方は、まず飛び石のように重要なエピソードや心情を配置して、そこに向かって飛んでいく感じです。飛び石自体はあまり動かず、その合間をどんなふうに移動するかはその都度調整していく。ただ、その作業はすべて私の頭の中で行われるので、担当さんにも説明するのが苦手です。キャラの性格とか心情とか意思なども説明するのが下手で……。ネームで描くから待っててください、って(笑)。「フルバ」はキャラが多いので、キャラごとの考えをまとめるのが大変でした。連載終了からずいぶん経つので、さすがにハッキリとはもう当時のことを覚えてないんですけど、描かなすぎても伝わらないし、描きすぎると話の尺が長くなり……どうやってまとめあげるかをずーーーっと考えてたように思います。

草摩紅野

──人数も多いですし、きっとキャラクターによっても描きやすい、描きづらいという傾向があったかと思います。紅野は描くのがとても大変だと、柱で書いていましたね。

紅野さんは、作者の提案するエピソードの方向性にいちいち歯向かったんですよ。なかなか納得してくれない。納得してくれないから動いてくれない。「なんなんだ君はーっ」って。……でも紅野さんはホントに好きです。ああいう、己の優しさで己の首を絞め続けて、周りに理解もしてもらえず自滅しそうなキャラが大好きです……。そしてそれは「星は歌う」の千広くんに継承されていきましたね。嫌われがちなキャラだとわかっているんですが、私はどうしても嫌いになれないし、ああいったキャラを描いてしまうのが私のマンガらしさだなあと。はい……(笑)。

「星は歌う」の千広。

──主人公の透についてはいかがでしょうか。「一番語りたくて、でも一番語るべきではない子のような気がする」とおっしゃっていたこともありました。

透くんに限らず、作品についてとか、本当はすごくすごく語り明かしたい!と思うときはあるんです。しょっちゅうあるんです。でもなあ……って。やっぱり、読者さんが感じたことの邪魔をするのがイヤで。例えば私が「こうでああなんだよ」って言ったところで、読者さんが読んだときにそう感じなかったら、それはその読者さんにとっては「正解」ではないし……。公の場ではなく、例えば内輪の集まりとかでならベーラベラ話しますよベーラベラ! ええもう、朝まで!(笑)

「フルーツバスケットanother」花LaLa onlineで連載中!
「フルーツバスケットanother」花LaLa onlineで連載中!

透たちが卒業してから長い時が流れ…。都立海原高校に新しい春がやってきました。 高校に入学したばかりの少女・彩葉(さわ)を待っていた、新しい出会いとは!?

高屋奈月(タカヤナツキ)
高屋奈月

7月7日東京都生まれ。1992年花とゆめプラネット増刊(白泉社)にて「Born Free」でデビュー。SFやファンタジー作品を発表後、1998年に花とゆめ本誌にて「フルーツバスケット」の連載をスタート。異性に触れると動物に変身してしまう一族と女子高生の交流を描き人気を集めた。同作で2001年に第25回講談社漫画賞少女部門を受賞。TVアニメ化も果たし、売上1800万部を突破する大ヒットに。“もっとも売れている少女マンガ”としてギネスブックに認定されるに至った。その他の代表作に「翼を持つ者」「星は歌う」「リーゼロッテと魔女の森」などがある。