ヤマトタケルの成長ごとに現れるヒロインたち
──隼人さんと團子さんは、ヤマトタケルの兄橘姫、弟橘姫、みやず姫との恋を、どのように捉えていらっしゃいますか?
隼人 同時に3人の女性を愛してしまうヤマトタケルをどう理解するかは、僕自身すごく悩みました。やっぱり人間性を疑うし、僕にとっては本当にあり得ないことなので……。でも、演じるうえで、そうやって“あり得ない”で片付けてはいけないし、お客様にはそんなヤマトタケルの姿を納得いただけるように演じなければと思っています。1幕、2幕、3幕と、ヤマトタケルの影の部分が次第に濃くなっていくのですが、僕はそこに女性が惹かれていくんじゃないかなと考えていて。別人に見えてしまわないよう、グラデーションをつけることを意識して、その変化を見せていけたらと思っています。
團子 僕は、兄姫、弟姫、みやず姫との恋は、年代別の恋なのかなと思っています。兄姫は初恋、弟姫は高校生のときの恋、みやず姫は大学を卒業してからの恋で……。
米吉 ねえ、区切りが細かくない!?(笑)
一同 (笑)
米吉 そしてその基準だと、みやず姫との恋は、ちょうど今の團子くんってこと?
團子 僕はまだ大学を卒業していないので、もうちょっと先です! ヤマトタケルの実年齢も、実際にそれぐらいかなって。十代の頃は、まだ精神的にも自立できていないから年上の方に恋をして、社会人になってある程度自立すると、今度は守る側に立つ余裕ができるというのが、僕のヤマトタケルのイメージです。
壱太郎 なるほど。面白い捉え方だね。
團子 ヤマトタケル自身、非常に仲間思いで、等しく“人”を大事にする人物。“相手のことを大切にしたい”という芯のある人柄であることを、表現することができたらうれしいです。
博多に“集結”せよ! 4人のおすすめ博多情報も
──博多座公演で、この座組での「ヤマトタケル」は、ついにファイナルです。作品への思いや、博多座公演に向けてのお気持ちをお聞かせください。
隼人 東京公演では、作品の持つ力の大きさに圧倒されていました。今回は、38年前の初演版に立ち返った台本を使用しているんですけど、大きなテコ入れなしで、ほぼそのまま上演できていること自体のすごさも、改めて感じています。
壱太郎 この「ヤマトタケル」からすべてのスーパー歌舞伎が始まったわけですから、作品としてすごみがあるよね。同時に、“今、僕たちが上演する意義”もしっかり見つめ直さないといけないと思っていて。もちろん、スーパー歌舞伎だから、壮大な物語があって、スピード感があって、ただ上演するだけでも非常に魅力的なんだけど、猿翁のおじさまがお客様に何を伝えたかったのか、僕たちでその芯にあるメッセージ性を理解する必要がある。
隼人 “侵略する者とされる者”が描かれていて、今の時代と重なる部分も多いですよね。
米吉 時代を飛び越えて通じるものがあるということを、我々が伝えていかなきゃいけない、というプレッシャーも改めて感じています。作品がよく見えるか、悪く見えるかは、この4人にかかっているわけですから。
壱太郎 今日まで上演されてきた「ヤマトタケル」という作品を、次につなげるというのが、僕たちの最後の使命じゃないかな。
團子 僕も、とにかくお舞台をより良くしたいです。6月の大阪公演から時間が経ち、冷静になれた部分もあると思うので、しっかりお役を見直して、博多座公演では熱量を持って毎日演じたいです。
──最後に、全国各地から博多座に“集結”されるお客さまに向けて、皆さんから博多の魅力やおすすめの場所を教えていただけますか。
米吉 やっぱり、アンパンマンミュージアムかなあ(編集注:博多座から徒歩2分)。
一同 (笑)
壱太郎 近いなあ(笑)。
隼人 (真面目な顔で)僕は、アンパンマンミュージアムは必ず行きますね。
米吉 ねえ。本当に?
隼人 毎回、そこでパンを買ってるよ。
米吉 (隼人に疑いの目を向ける)
隼人 でも、アンパンマンミュージアムは、横浜にもあるからね。
──アンパンマンミュージアム以外の博多の魅力も、ぜひお願いします。
壱太郎 とにかく空港が近いからね。すぐ帰れるし、すぐ行けるのが便利! あと韓国も近いから、休演日に釜山まで焼き肉食べに行けるよ。
團子 わあ、本当ですか!
壱太郎 うん。パスポート持ってきてね。
團子 えっ、今日持ってきてないです……。
米吉 違う違う、今じゃないから!
一同 (笑)
隼人 でも、やっぱり食べ物じゃない?
團子 (目をキラキラさせながら)屋台のとんこつラーメンに行きたいです!
隼人 屋台かあ。いいねえ。
團子 前に隼人さんに連れて行ってもらって、本当においしかったです!
米吉 ふぐもいいんじゃない? あとはもつ鍋ですね。
隼人 やっぱり、鍋系ですね。軽めの食事しながら飲んで、締めに屋台のラーメン!
壱太郎 海も、見てるだけで楽しいよ。
米吉 博多座で歌舞伎公演が行われるのは、基本的には2月と6月じゃないですか。だから歌舞伎ファン的には、観劇ついでに10月の博多を満喫できる、なかなかないチャンスじゃない? 2月だと寒くて、6月だと暑いから、10月が一番、観光も満喫できるちょうど良い時期かもしれません。ということで、皆さん、10月は博多座に集結してください!(笑)
プロフィール
中村隼人(ナカムラハヤト)
1993年、東京都生まれ。萬屋。中村錦之助の長男。2002年に初代中村隼人を名乗り初舞台。
中村隼人オフィシャルファンクラブ-隼会- (中村隼人オフィシャルファンクラブ-隼会-)
中村隼人 (@1130_nakamurahayato) | Instagram
市川團子(イチカワダンコ)
2004年、東京都生まれ。澤㵼屋。市川中車の長男。祖父は二世市川猿翁。2012年に「ヤマトタケル」で五代目市川團子を襲名し初舞台。
五代目 市川團子 (@danko_ichikawa) | Instagram
中村壱太郎(ナカムラカズタロウ)
1990年、東京都生まれ。成駒家。中村鴈治郎の長男。1995年に初代中村壱太郎を名乗り初舞台。2014年、吾妻徳陽として日本舞踊吾妻流七代目家元襲名。
中村 壱太郎 (@nakamurakazutaro) | Instagram
中村米吉(ナカムラヨネキチ)
1993年、東京都生まれ。播磨屋。中村歌六の長男。2000年に中村米吉を襲名し初舞台。
ここでは、歌舞伎を愛する演劇ライターの川添史子に、中村隼人・市川團子・中村壱太郎・中村米吉の“推し”ポイントを語ってもらう。
2024年、東京・愛知・大阪を駆け抜けた令和のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」が、博多座でファイナルを迎える。各地でメインキャストを担った、中村隼人と市川團子、中村壱太郎と中村米吉の全員が集結するのはこの最終地、博多のみ。観ていてうれしい、追いかけて楽しい、個性あふれる若き4人の魅力を紹介していこう。
まずはヤマトタケルの2人から。
颯爽とした姿が目をひく隼人は30歳。舞台に登場した瞬間から立ち去るまで、水際立った男ぶり。客席は終始うっとりと眺めることになる。さまざまな舞台で主役を経験して着実に力を積み重ね、以前は細身だった身体も一回り大きく鍛えた。近年は天下の二枚目片岡仁左衛門にもさまざまな役をよく学び、セリフまわしや身のこなし、演技にますます深みが増している。映像での活躍も目覚ましく、主演ドラマ「大富豪同心」は年末スペシャル放送が決定。2025年の大河ドラマ「べらぼう」に長谷川平蔵役で出演も決まったとか。“歌舞伎界のイイ男”を日本全国に届ける、頼もしい存在だ。
誠実で一生懸命な演技が、観客の胸を打つ團子は20歳。ついこの間まで子役だった彼が、主役を担うプレッシャーたるや。だが、試練を乗り越えていくヤマトタケルの物語が今の彼とぴったりと重なり、役を引き寄せる強さがあるのだろう。博多座といえば、昨年「新・三国志」での本水の立廻り、全身全霊のダイナミックな姿をご記憶の向きも多いハズ。彼を見ていると、三代目市川猿之助の「無心に、無垢に、何物かを求めていれば、そしてそれが正しいことであれば、本当に時代の方からついてくる」という言葉を思い出す。
お次は、舞台に咲くヒロイン、兄橘姫&弟橘姫姉妹をWキャストで演じる2人。
上方俳優らしいこっくりとした味わい、品の漂う色気、情感溢れるエモーショナルな女方が魅力の壱太郎は34歳。表現にかけるアツさは人一倍。コロナ禍をきっかけに映像作品「ART歌舞伎」を発表、YouTubeチャンネルで解説動画を発信、歌舞伎絵本の企画&プロデュースなどなど、「何人いるんですか?」とびっくりするような広範囲で精力的な行動力は歌舞伎界随一。アイデア豊富、好奇心旺盛、歌舞伎を新たな層に届けるプロデューサー的な視点も持つ、とどまることを知らないエネルギーの塊。
ぼんじゃりとした雰囲気、可憐な舞台姿の米吉は31歳。古風な美と現代的な美の両方を兼ね備え、近年、大役抜擢に見事に応えている若手女方のホープだ。楚々とした舞台姿からは想像できない、インタビューでの饒舌ぶりが有名で、トークイベントも大人気。取材者としてもそのユーモア溢れるおしゃべりを大いに楽しませてもらっているが、言葉が溢れるほどの研究熱心さ、そして頭の良さの証拠だろう。すました顔をしながら、心の奥には舞台にかける情熱が燃え、努力も怠らない。でもそんなアツさは外に見せない、ちょっぴり天邪鬼なところも魅力。
三代目猿之助と哲学者・梅原猛が作り上げた壮大な叙事詩は、若者の成長物語でもある。それにこうした未来ある若者たちが挑む姿は、やはり胸に迫る。そして、輝く美しい人たちが、毛利臣男デザインのあっと驚くゴージャスで独創的な衣裳を身にまとい、役を生き抜く姿はとにかくまぶしい。“きらめく”若手がこぞって博多の地に降り立つワクワクの興行は、大いに盛り上がるに違いない。これに、中村錦之助に市川中車に市川門之助という作品を力強く支えるベテラン勢、中村福之助と中村歌之助という次世代の花形、さらに作品を熟知する澤㵼屋の顔ぶれも集う「ヤマトタケル」オールスター公演だもの! 観ない理由がないではないか。さあ観客たちよ、目撃せよ、集結せよ!
プロフィール
川添史子(カワゾエフミコ)
編集者、ライター。演劇雑誌「シアターガイド」を経て、現在フリー。演劇パンフレットや冊子、雑誌での取材・執筆を多く手がける。