花形4名が集う最終地・博多座に“集結”せよ!スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」中村隼人・市川團子・中村壱太郎・中村米吉がファイナルに向けた思い語る

年若き新キャストにより、新しい魅力が引き出され、大きな話題を呼んだスーパー歌舞伎「三代猿之助四十八撰の内『ヤマトタケル』」2024年版。これまで、2・3月に新橋演舞場公演、5月に御園座公演、6月に大阪松竹座公演が行われてきた同作がついに博多座でファイナルを迎える。集大成の舞台には、各地でメインキャストを勤めた中村隼人、市川團子、中村壱太郎、中村米吉が“集結”する。

このたび、ステージナタリーでは花形4人の座談会を実施。公演の合間を縫って集まった4人は顔を合わせるなり、長年の付き合いを感じさせる息のあった掛け合いを繰り広げ、互いの魅力や、作品の持つパワーをワイワイと語った。なお特集の後半では、長年歌舞伎を追いかけている演劇ライターの川添史子が、隼人・團子・壱太郎・米吉それぞれの“推しポイント”を紹介している。

取材・文(座談会) / 櫻井美穂文(コラム)/ 川添史子撮影 / 山本聡子

中村隼人・市川團子・中村壱太郎・中村米吉 座談会

花形4人が集結!

──スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」は、二世市川猿翁(当時:三代目市川猿之助)さんが、1986年に初演した作品です。その初演より38年、中村隼人さんと市川團子さんがヤマトタケル、中村壱太郎さんと中村米吉さんがヒロインである兄橘姫えたちばなひめ弟橘姫おとたちばなひめを勤め、新キャストで作品に新たな息吹を吹き込みました。2・3月に行われた東京公演では隼人さんと團子さんがヤマトタケル、米吉さんが兄橘姫・弟橘姫、5・6月の愛知・大阪公演では、團子さんと壱太郎さんがシングルキャストで、それぞれヤマトタケルと兄橘姫・弟橘姫を勤めてきましたが、10月に行われる博多座公演には、4名が“集結”します。

中村壱太郎 やっと、こうして4人がそろったね。

市川團子 うれしいです!

中村米吉 「4人そろったね」って言っても、ここ歌舞伎座の地下の会議室だし、そんな大したことはないですよ?(笑)

中村隼人 でも、博多座公演のキャッチコピーが“集結せよ”だから。このチラシ、カッコいいなあ。

スーパー歌舞伎「三代猿之助四十八撰の内『ヤマトタケル』」博多座公演のチラシ中面ビジュアル。

スーパー歌舞伎「三代猿之助四十八撰の内『ヤマトタケル』」博多座公演のチラシ中面ビジュアル。

米吉 でもね、この4人が舞台上で一堂に会することはないんですよ。

隼人 えっ、カーテンコールは?

米吉 そりゃ、カーテンコールはカーテンコールなんだから、全員いるでしょうよ!(笑)

一同 (笑)

隼人は“猫”、團子は“忠犬ハチ公”

──まずは、物語の主人公であるヤマトタケルを演じる隼人さんと團子さんの魅力について。ヤマトタケルは、心優しく繊細な青年ですが、誤って双子の兄を殺してしまったことから、父である帝の怒りを買い、数々の無理難題を命じられます。しかし、武勇に優れているうえ、頭も切れるので、帝の命令を次々クリアしていきます。隼人さんと團子さんでは、同じヤマトタケルでも、まとう雰囲気がまったく異なりますが、お二人それぞれの魅力を、壱太郎さんと米吉さんに語っていただきたいです。

壱太郎 僕は、團子くんのヤマトタケルとしかご一緒していなくて、隼人くんのヤマトタケルは映像でしか観られていません。だけど、2人とも“ヤマトタケルがどういう人間なのか”という提示の仕方が、良い意味で全然違うんです。具体的な部分は、実際にお客様に肌で感じていただきたいのですが、同じ“まっすぐ”でも、その方向性が違うというか。実際に2人と共演している米吉くんは、どうですか?

中村壱太郎

中村壱太郎

米吉 まず、化粧の仕方が全然違いますよね。

壱太郎 そこからなんだ(笑)。

米吉 ぜひ、まずはチラシでご確認ください(笑)。でもそれがお芝居にも表れていると思うなあ。あとは、感情を出力するときの、根源的な部分も違うように感じました。例えば團子くんは、感情が昂って手を握るシーンなどで、痛くなるぐらい力いっぱい握っちゃう人(笑)。隼人は、そう力いっぱい握ることはなくても、思わず涙があふれてしまうような熱さがある。同じセリフ、同じ演出のはずなのに、そこから2人の個性がにじみ出ているのが、共演していてとっても面白かったです。生き物としたら、犬と猫ぐらいの違いがありますよ。

隼人 僕は猫がいいなあ。

團子 僕は、犬がいいです!

米吉 知らないよ!(笑)

壱太郎 團子くんは、忠犬ハチ公みたいだよね。秋田犬っぽい。

團子 (うれしそうにニコニコ)

米吉 確かに。背が高いから、團子くんを目印に待ち合わせもしやすいよね。

一同 (笑)

──隼人さんと團子さんは、東京公演ぶりにWキャストを勤めます。お互いのヤマトタケルについて、どのように感じていましたか?

隼人 僕も、團子くんのヤマトタケルは“忠犬ハチ公”のイメージかも(笑)。さっき米吉くんが言っていた、思わず手をギュッと握ってしまうような、一瞬一瞬を力いっぱい全力で生きている彼の精神性が、随所に表れているんですよね。僕が同じようにやったら、きっとガス欠で1カ月も持たないと思う(笑)。そういった若さ由来のエネルギーとは別に、彼のヤマトタケルには、澤㵼屋おもだかやという家に生まれたからこその芸も感じますね。

中村隼人

中村隼人

──初演を手がけた二世猿翁さんは、團子さんのお祖父さま。そして團子さんの初舞台は、2012年に上演されたスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」で、ヤマトタケルの息子・ワカタケル役を勤められました。

隼人 “團子”そのままで、役として成立していることには、観ていて圧倒されます。化粧にしても、動きの1つひとつにしても、“血”が色濃く見えるんです。でもそれこそが、スーパー歌舞伎が持つ特性の1つだと思っていて。あと、團子くんは「ヤマトタケル」が大好きで、お祖父さまが出演していた舞台映像を、セリフを全部覚えちゃうぐらい観ているんだよね。思い入れのある作品だからこそ、東京公演では葛藤と自問自答を繰り返し、苦しんでいたみたいでした。ただ、5月に御園座公演の舞台稽古を観に行ったとき、“自己との対話”から“周囲との対話”へと、彼のステージが1つ上がっていたように見えて。また一緒にできるのが楽しみです。

團子 東京公演では、(隼人さんが)僕に対して、「團子、大丈夫?」って優しく声をかけてくださって、本当にありがたかったです。僕はまず、“Wキャスト”自体が今回初めてだったので、僕がやっているお役をほかの方がやっていらっしゃる、ということがすごく新鮮でした。3月に隼人さんがいらっしゃらなくなって、寂しかったのを覚えています。10月の公演は今年2月の新橋演舞場での公演と同じく、隼人さんとのWキャストでヤマトタケルを演じさせていただくので、多くのことを学べるように食らいついていきたいです。

左から市川團子、中村隼人。

左から市川團子、中村隼人。

“芸風が違う”2人、壱太郎&米吉

──壱太郎さんと米吉さんが、ヒロインの兄橘姫と弟橘姫をWキャストで勤めるのは、博多座公演が初めて。兄橘姫と弟橘姫は姉妹ですが、兄姫えひめは頼れるしっかり者で、弟姫おとひめは内気で照れ屋と、ヤマトタケルを愛しているという点以外は、まったく違う2人です。隼人さんと團子さんは、壱太郎さんと米吉さんそれぞれの魅力をどう感じていますか?

隼人 壱太郎さんの兄姫・弟姫は、御園座公演の舞台稽古で拝見しただけで、共演はしていないのですが、(壱太郎と米吉は)もともと芸風の違う2人ですし、観ていて「兄姫と弟姫のキャストが違うと、これだけ作品の雰囲気が変わるんだ」と驚きました。あと、これは個人的な好みかもしれませんが……壱太郎さんだと弟姫、米吉くんだと兄姫が、なぜかグッと来るんですよね。年齢的には、壱太郎さんのほうが米吉くんより上なのに、不思議だなあ。

──團子さんは、壱太郎さん、米吉さん、それぞれと2カ月にわたり共演しています。どのような印象をお持ちでしょうか?

壱太郎 可哀想な質問だな、これは(笑)。

米吉 答えやすいように、僕たち部屋を出ようか?

團子 いえ、ここにいてください(笑)。僕にとってのヤマトタケルは祖父のイメージなんですけど、兄姫と弟姫は、どなたか俳優さんのイメージではなく、漠然とした兄姫像、弟姫像が頭の中にあって。その兄姫、弟姫のイメージに、(共演を通して)お二人の色がそれぞれ入って、融合した……という印象でした。僕はお二人共、弟姫をやられていたときのほうが好きかもしれません。もちろん兄姫も好きなんですけど。

市川團子

市川團子

米吉 ちなみに、どっちのほうがやりやすかった?

團子 そんなのは、ないです!(笑)

壱太郎 よかった。回答によっては、組み合わせの公演日数を変えないといけないところだった(笑)。

──そんな壱太郎さんと米吉さんは、Wキャストとしてご一緒することに対し、楽しみにされていることはありますか?

壱太郎 米吉くんとは、南座の「三月花形歌舞伎」でもWキャストを勤めたことはあったけど(2021年公演での「義経千本桜」、2022年公演での「番町皿屋敷」「芋掘長者」)、そのときはいずれも演じる“型”が複数ある古典作品で、僕たちはそれぞれ、別の型を別の先輩から習っていたから、お互いにあまり意見交換することはなかったよね。もちろん、相手の芝居を観ながら勝手に学ぶことはあったけど。今回は、米吉くんが東京公演で先陣を切ってくれていたから、米吉くんの演技を確認しながら役を作っていくことができて、僕はある意味、得をしていると言っても良いかもしれません(笑)。さっき隼人くんが言ってくれたように、兄姫と弟姫が変わることでも作品の見え方は変わってくると思うし、その面白さをお客様に楽しんでいただくために、私たちも“集結”しているわけですから(笑)。

米吉 僕にとって壱太郎さんは、“一番近くて一番遠い先輩”といった感じなんですね。歌舞伎独特の、理屈が通らないからこそ、ジェットコースターのように勢いで見せて、お客さまの心を動かす場面がこの作品にも多いと思うんですけど、そういったシーンでの壱太郎さんの爆発力と情熱は、僕には真似ができない。今回、兄姫と弟姫を演じていない回では、僕らはそれぞれ、3部に登場するもう1人のヒロイン・みやず姫を演じます。その拵えをしている間、毎日必ず、壱太郎さんの兄姫・弟姫の芝居を聞くことになりますので、知らず知らずの内にも、絶対に影響を受けると思います。博多座公演をご覧になるお客様には、僕たちのそういった変化も含めて楽しんでいただきたいですね。

ヤマトタケルは、“弱ってるから”モテる

──みやず姫のお話が出ましたが、ヤマトタケルは、1幕では兄橘姫、2幕では弟橘姫、そして3幕ではみやず姫と、3人の女性と恋に落ちます。隼人さんと團子さんが演じているとすごくカッコよく見えるのですが、現代の感覚で冷静に考えると、かなりのダメ男にも感じます。今回、すべてのヒロインを演じられる壱太郎さんと米吉さんに“女性の視点”からお聞きしたいのですが、ヤマトタケルはなぜこんなにモテるのでしょうか?

米吉 端的に言うとね……きっと弱ってるから、いいんですよ。

一同 (笑)

壱太郎 そうだね。ヤマトタケルには「助けてあげなきゃ」って思わせるオーラがある。

米吉 特に兄姫と弟姫の姉妹はそうですよね。兄姫は、自分の夫をヤマトタケルに殺されているのに、非を詫びるヤマトタケルの姿にほだされちゃうし、弟姫だって、ヤマトタケルが倭姫やまとひめに「叔母上!」って泣いているのを見て、さらに惹かれちゃうわけですから。

中村米吉

中村米吉

──倭姫も「私だって、そなたの叔母でなかったら、弟姫と張り合いたいくらいですよ」と、弱ったヤマトタケルにメロメロです。

米吉 でも、みやず姫だけはそうじゃないんです。彼女は、自立した現代的な女性なので、ヤマトタケルの持つ、強い光に憧れている。

壱太郎 彼女は韓国ドラマの強いヒロインみたいだよね。みやず姫は、3部でいきなり登場するうえに、舞台上にいる時間も短いから、役を掴むのが難しそう。

米吉 弟姫との別れを描いた悲劇的な2幕ラストから、3幕に入るとすぐに(みやず姫とヤマトタケルが出会う)尾張の国だからね。物語上では、2幕と3幕の間にはすごく長い年月が経っているんですけど、お客さまの体感としては「さっきまで弟姫との別れを悲しんでたじゃん!」ってなる可能性があるかもしれません。

壱太郎 休憩明けに、いきなり新たな恋が芽生えているからね(笑)。みやず姫、どう演じるかしっかり考えないと。

米吉 これまで初演から長年、市川笑也さんが勤められ、今回の東京・愛知・大阪公演では、市川笑野さんと市川三四助さんがそれを受け継ぎ、大切に勤めてこられたお役。本役として、みやず姫を澤㵼屋以外の俳優が勤めるのは、今回が初めてとのことで、そのプレッシャーも感じています。しっかり受け継いで、大事に勤めたいですね。