ステージナタリー Power Push - 中島みゆき「夜会」最新作「橋の下のアルカディア」劇場版

中島みゆき「夜会」がスクリーンに登場 中村 中が語るその魅力

みゆきさんは「鶴の恩返し」のような人

──「夜会」で中島さんは、脚本・作詞・作曲・歌・主演の5役を担われていますが、稽古場や舞台で中村さんがご覧になった「中島みゆき」とはどういう存在でしたか?

中村 中

この質問、いつもなんて答えよう?って思うんですけど……私はみゆきさんが曲を作ってるところを見られるわけではないし、1回舞台をご一緒したくらいでは全然正体が掴めない方ですね。ただ、稽古中は冗談を言って笑いながらお話してくれたり、その佇まいがあまりに自然体で驚きました。かつエネルギッシュだし、面白いことを常に探していて、落ち着きと無邪気さを感じました。その一方で、例えば「鶴の恩返し」のように、人の見えないところで生み出したり考えたりしていることがものすごくあるはずなのに、それを普段はまったく外に出さないのがちょっと恐ろしいなって。それを一番強く感じたのは、2014年の年末に紅白歌合戦で、(NHK連続テレビ小説「マッサン」の主題歌)「麦の唄」を歌っているみゆきさんを観たときなんです。その年、みゆきさんは「夜会」のほかに、「麦の唄」を書き、「問題集」というアルバムも出しているんですよ。絶対大変なのに、笑顔で1年の締め括りを迎えている、その姿に胸打たれました。

──デュエットシーンもありましたが、同じ舞台で声を重ねることで発見したことはありますか。

CDで聴いていても感じていたんですけど、息を吸わないなって思いました。ブレスが少ないんですね。同じセンテンスを一息で歌うには、私では息の量が足りなくて、結構ゼーハーしました。

──え、中村さんは声量豊かで、まったく途切れる感じがしないんですが……。

いやいや、全然です。私はまだまだ“力”って感じで。みゆきさんは力が抜けているのに厚みがある。それはすごいなって思いました。隣で歌ってて、力で押すしかない私の声、うるさかったんじゃないかなって心配でした。

──(笑)。「夜会」にご出演されたことで、何か影響を受けたと感じられる部分はありますか?

中村 中

まだそんなに時間が経っていないので、実感はないんですけど……。やっぱり今回の「夜会」は、戦への後悔を強く感じるので。そういう争いをしないようにするには、例えばお互いを認め合うというか、見たことがないものを受け容れたり、出会ったことのない人種や、知らない思想を持った人でも、交われる部分が少しでもあるなら拒まないことが大切だと思っているんですね。その考えが自分の中で大きくなりましたね。だから今回、どこの馬の骨ともわからない、男なのか女なのかもよくわからない私をみゆきさんがキャスティングされたのかな?とか、勝手に思っているんですけど。私では全然みゆきさんの考えには及ばないですけれどね。

──中村さんのライブはよくシアトリカルだと言われており、また俳優としてだけでなく音楽監督として舞台に携わったご経験もありますが、今後「夜会」 のようにご自身で舞台作品を生み出したいという思いはありますか?

そうですねー、自分でお芝居を作るのって、いつかしてみたくなりそうですよね。ただ私はすごい慎重派だから、持ち場持ち場でプロを集めたくなると思います。みゆきさんのようにすべて自分でやっちゃうのは……。みゆきさんの、あの苦境に飛び込めちゃう感覚って、度胸があってとっても女性らしいなと感じます。しかも18回も続けるなんてすごいエネルギーが必要だし、ハートも強いなあと思いますね。

──その「夜会」新作が、このたび、映画館で5.1chサラウンドにより観られることになりました。

これ、絶対書いてほしいんですけど、何かを観るってことは前日から始まっていると思うんです。体調を整えると入ってくる情報も鮮明だし、「夜会」は特に集中力が必要ですから、何時間寝るかとか計算して、必ず鑑賞前にトイレに行ってから観てください!(笑) それと、5.1chサラウンドで見る「夜会」は迫力ありそうですね。映画館っていう贅沢な空間で自分の背後から音がくるとかね、ちょっと日常では味わえないですよね。

中村 中

──「夜会」は毎回すぐにチケットが完売してしまうので、その存在は知っていても、実際に舞台を観たことがないという方も多そうです。改めて、中村さんが感じられた「夜会」の魅力とは?

「夜会」の魅力は、やっぱり中島みゆきさんがすべてを作っているってことだと思います。世界観も唯一のものですから、「実験劇」でどんな「実験」をするのかも魅力ですけど、それらを1人の人間が作っている強烈さ。あとは、初めて観る人はどんな舞台なのか謎に包まれている印象を持つと思うんですが、まずは1回、お試しあれ!って感じかな。調べるよりもう観ちゃったほうが早い! 「夜会」の世界観を純粋に浴びてほしい。だからフラットな気持ちで、構えずに観に行くのがいいかと思います。

──構えず観に行って、でも持ち帰るものは非常に重く、深いものかもしれません。

そうですね。ただ日本人なら本作で願われている思いの数々は知っていてほしいから。ぜひ映画館に足を運んでほしいと思います。

夜会VOL.18 「橋の下のアルカディア」 —劇場版— 2016年2月20日(土) 新宿ピカデリー&丸の内ピカデリーほか、全国ロードショー

アーティスト・中島みゆきを語る上で絶対に欠かすことのできない「夜会」。脚本・作詞・作曲・歌、そして主演の5役すべてを中島みゆきが務める魅惑の音楽劇だ。

2014年に東京・赤坂アクトシアターにて上演された夜会VOL.18「橋の下のアルカディア」は、『夜会VOL.15「~夜物語~元祖・今晩屋」』(2008~2009年)以来6年ぶりの新作書き下ろし作品として、大きな注目を集めた。台本と共に生み出された、劇のセリフとなり挿入歌となる「歌」は、「夜会」史上過去最多の46曲を収録。その歌と作品に込められたエネルギーは、観客の心を鷲掴みにし、23公演で3万人を動員した。

スタッフ

構成演出・脚本・作詞作曲:中島みゆき
監督:翁長 裕
音楽監督・編曲:瀬尾一三
ステージプロデュース:竹中良一

キャスト

中島みゆき
中村 中
石田 匠

配給:ローソンHMVエンタテイメント
協力:ヤマハミュージックパブリッシング・ヤマハミュージックアーティスト

中村 中(ナカムラアタル)

歌手、作詞作曲家、役者。2006年6月にシングル「汚れた下着」でメジャーデビュー。2007年セカンドシングル「友達の詩」で第58回 NHK紅白歌合戦に出場。4thアルバム「少年少女」は第52回 輝く!日本レコード大賞優秀アルバム受賞。最新アルバムは「去年も、今年も、来年も、」。また多くのアーティストに楽曲を提供しているほか、2009年上演の「ガス人間第1号」をはじめ、「エドワード2世」「マーキュリー・ファー」など、さまざまな舞台にも出演。2016年3月には舞台「ライ王のテラス」に第一王妃役で出演予定。音楽と演劇を両輪として多くの才能とインスピレーションを交わし合い、クリエイターをはじめとする先鋭的な感性の持ち主の心を鷲掴みにしている。

ライブ情報
「LIVE 2016 生まれ変わろう、そして」

2016年2月13日(土)18:00開演
2016年2月14日(日)16:00開演
日本橋三井ホール