WOWOW「いきなり本読み!」Vol.1 岩井秀人×佐久間宣行 対談|東京国際フォーラム公演放送記念 芸人と俳優の本読みはココが違う!2人のアイデアマンが紐解く「いきなり本読み!」

東京国際フォーラムで、どの大きさまでいけるかが確かめられた

──「いきなり本読み!」は昨年2月に浅草フランス座演芸場 東洋館で始まり、3回目は本多劇場(参照:三者三様の“ゴッチン”が登場!本多劇場で「いきなり本読み!」第3弾)、12月に行われた5回は東京国際フォーラム ホールCとグングン規模を拡大しています(参照:「いきなり本読み! in 東京国際フォーラム」今回は前川知大の、あの名作)。今回、WOWOWではこの東京国際フォーラム ホールCで開催された、松たか子さん、神木隆之介さん、後藤剛範さん、大倉孝二さんが出演された第5回が放送されますが、劇場の大きさについて、岩井さんはどんなふうに感じていましたか?

岩井 もともと、どのくらいまでの大きさでできるかってことは考えていて。例えば音楽だって、今でこそドームとか大きなところでやりますけど、ある時代までは「そんな大きさ、あり得ない」って言われていたと思うんですよね。

佐久間 そうですね。音が割れるとか、言われてましたよね。

岩井 そういう意味で言えば、(「いきなり本読み!」を)異常にデカいところでやったりするのも面白いんじゃないかなと思って。幸い、映像作家のムーチョ(村松)が参加してくれているから、何とかしてくれそうだと思ったし、東京国際フォーラムでやれたので、今後はもっとデカいところでも試してみたい。もちろん劇場が大きくなればそれだけ考えないといけないことは出てきますけど、より多くの人に観てもらいたいし、この時点ではコロナ対策で満席にはできなかったから、劇場が大きければ半分でも客席数が増やせると思ったので。

佐久間 でもあの大きなハコ(劇場)で、にぎやかなお芝居じゃなくてあえて静謐な「散歩する侵略者」(作:前川知大)を選んだのは何でですか?

岩井 うーん、それはまず、僕の台本(でやっていないもの)がなくなって。

佐久間 うん、それは感じてました!

岩井 (笑)。この間、僕がこれまで書いた台本を数えたら30個くらいしかなくて、必然的にほかの人の台本から選んだっていうのもあるんですけど、にぎやかな部分は台本によらなくても、本読み以外のシーンがあるから大丈夫と踏んでたというか。それに俳優さんたちの顔ぶれを見て、ちゃんと面白くなるって思ってたんですよね。

佐久間 なるほど。確かにすごかったですよね。笑いがありながら、岩井さんの意図なのか何なのか、後半にいくに連れて「散歩する侵略者」の世界観にどんどん入り込んでいき、松さんが“聞かせる”っていう。

岩井 予想以上だったのは、大倉さんがこの企画にものすごく向いていたってこと。もともと舞台俳優として大天才だと僕は思ってて、台本に書いてあることをちゃんとやりつつ、舞台の上で今、何が起きてるかを察知して、それをお客さんにも伝えていく、それを同時にやれるすごい俳優さんだと思っていたので、ずっと出てもらいたかったし、今回ちょっとだけご一緒できてうれしかったです。

俳優が本能的にどう台本と向き合っているか?それを知ってほしい

──初回の皆川さんしかり、第5回の大倉さんしかり、毎回必ず作品世界をリードしていく人が、座組の中から自然と現れてくる感じがします。

佐久間 確かにそうですね。配信も含めると、これまでほぼすべての回を観ていますけど、毎回面白いですよね。宮藤官九郎さんが演出された最新回(参照:岩井秀人「いきなり本読み!」、演出の宮藤官九郎「本読みって面白い」)では、(未来人役をハイテンションで演じたあと、職人気質の父親役をやった)中村獅童さんに、みんなが「獅童さんの普通のお芝居が良い」って言い出すのが面白かったな(笑)。

岩井 本人、汗だくになって未来人役を演じたのに、ちょっと肩の力が抜けた役のほうが良いって言われるっていう(笑)。

──キャスティングは毎回岩井さんが決めるんですか?

岩井秀人(WARE)プロデュース「いきなり本読み! in 東京国際フォーラム」より。©︎平岩と毛利

岩井 僕1人ってわけではないですし、宮藤さんの回は台本も宮藤さんのものだったので、宮藤さんが面白そうだなと思った人にオファーしました。もともとこの企画は、いろいろな人がいろいろなやり方でやったほうが良いと思っているんですね。例えば「いきなり本読み!」は、台本を削ったり、配役を変えたりするために、僕がやってる“俳優たちの寄り合い”で台本の下読みを一応やるんです。その寄り合いにはアマチュアの俳優さんからベテランまでいるんですけど、彼らが本番を観に来て、例えば浅野和之さんが初見であそこまでできちゃうことにみんな唖然とするんです。そういう体験って大事な気がするし、俳優ではないお客さんが観ても、そのすごさはわかると思う。黒木華さんに出演していただいたとき、「台本をもらったときにまず何をしてますか?」って質問したら、黒木さんは「え? 私何してるんだろう?」って言ったんですけど、実際に本読みを始めたらサッと人物が立ち上がってくる。きっと台本の文字列を見て、本能的に何かを処理してるんだと思うんですよね。……という黒木さんの姿を観たあとで、舞台やテレビの黒木さんを観ると、これまでとは全然違う見方ができるはずで、それが面白いんじゃないかなと思っています。

芸人の本読みと俳優の本読みは意味が違う?

──「いきなり本読み!」では俳優さんの“瞬発力”の鋭さを感じますが、俳優さんと芸人さんの瞬発力の違いについて、佐久間さんはどう思われますか?

佐久間 芸人さんの場合は、台本からこぼれ落ちた部分に自分の隙間を探していくっていう感じがしますね。以前、劇団ひとり、バカリズム、東京03、早見あかりで「ウレロ☆未開拓少女」をやってたときは、あれは客前一発本番なんですけど、収録の前週に本読みをやっていたんです。でもそれは直すための本読みっていうか。ボケとツッコミでやることは全然違うんですけど、ボケの人はそのセリフがウケるかウケないか本能的になんとなくわかるから、「このセリフ、大丈夫かな」ってセリフを確かめにいく感じで読むんですね。という意味で、台本が芸人に負けてるかどうか、めちゃくちゃ緊張感のある本読みでした。芸人は、まずは台本通りやってくれるけど、このボケより自分が考えたボケのほうが良いなって思ったら変えてくるんです。芸人さんは何よりもまず、客前でウケるかどうかが大事なので、そういう意味では、劇団ひとり、バカリズム、東京03レベルになると、本人以外で本読みをしてもあまり意味がないなって思ってしまうところがあります。

左から岩井秀人、佐久間宣行。

岩井 そうかもしれないですね。

佐久間 だから芸人さんと俳優さんでは本読みの意味合いがそもそも違うんじゃないですかね。

岩井 芸人さんで「いきなり本読み!」をやってみたい気持ちはあるんですよ。ただ全員芸人さんってなると確かに意味合いが変わっちゃうかもしれないので、例えば僕のポジションを芸人さんにお願いするなら、何でかわからないんですけど、麒麟の川島(明)さんだなって思ってて。

佐久間 ほうー。

岩井 芸人さんの場合のやり方が、何かあるんじゃないかなって。必ず最後に、台本に集約しなくても良いと思っているので。