現場をどう本気にさせるか
──これまでのお二人のインタビューや活動を通じて、お二人の笑いには“本気になったときの面白さ”に共通点があるのではないかと感じました。人が本気になったときの爆発力、そこが魅力ではないかなと。お二人は、俳優さんや芸人さんたちをどうやって本気にさせているのでしょうか?
岩井 その話を聞いて今僕の中で浮かんできたのは、「ゴッドタン」の西野(亮廣)さんと川島さんの取っ組み合い(「キンコン西野VS劇団ひとり」)。あれって佐久間さんが本気にさせたんですか?
佐久間 どうなんだろう?(笑) でもあれ、今はパッケージとしてみんなに面白いって言われてるけど、最初は現場で俺しか笑ってなかったんじゃないかな。
岩井 そうなんだ!
佐久間 あとでAPの子に「残虐な王様の遊びみたいに見えた」って言われて、それは言い方が悪いと思うんですけど(笑)、でもあれはもともとああいう企画じゃなかったのが、偶然そうなっただけ。あとで聞いたら、「佐久間が笑ってるから、まあテレビ的に大丈夫なんだな」と思って2人はやってたそうで、俺が命綱だったらしいです(笑)。
岩井 なんでそうなったのかまったくわからないんだけど、2人が真剣な顔で対峙してて、気付いたらお互いの髪の毛切ってて。
佐久間 あれは大変でした(笑)。2人とも次の仕事に影響が出ちゃうんで、「俺が各所に謝りに行かないといけないなあ」と思いながら収録してましたね。
岩井 という意味では、僕は全然あんなことはないです。けっこう効率を気にしますから(笑)、幸せなままオモシロが見つかればと思ってて。まあ西野さんと川島さんも幸せなんだと思いますけど。
佐久間 ですね(笑)。
──第5回「いきなり本読み!」では、岩井さんの一言で急に大倉さんのギアが入り、全員が作品世界にグッと入り込んでいく瞬間がありました。
岩井 「いきなり本読み!」には構造上、それが備わっている気がしますね。最初はどうやっても無茶な状況が続くんだけど、1時間も台本を読んでいると作品の匂いみたいなものがわかってくるし、俳優たちもほかの人が読むのを聞きながら役柄を形作っているので。その流れに自然と入っていけば良いんだなって感じが見えてくると思うんですよね。
佐久間 第5回のときは、「概念を奪う」って言葉が初めて登場したときの皆さんのきょとんとした感じから、その意味がわかったあとの演技の変わりようが面白かったですね。
岩井 そうですね。でもそこへの後藤(剛範)さんのアプローチがまたちょっとおかしくて(笑)。
佐久間 概念じゃなくて知性が奪われてしまうっていう(笑)。
岩井 ああやってちゃんとわかる間違いをしてくれると、次の人がやりやすくなるというか、スッとやれた人が引き立つので助かります。
思いついた新企画、勝算はどのくらい考える?
──「いきなり本読み!」は岩井さんが2019年秋頃に企画を思いつき、翌年2月に第1回を実施したというスピード企画でした。お二人ともアイデアマンであるところも共通していると思いますが、新企画を立ち上げるときの勝算はどのくらい考えていらっしゃいますか?
佐久間 岩井さんと僕は、立案については全然違うと思うんですよね。というのも、僕の場合はテレビだから、企画書にして会議に通さないといけない。だから「絶対面白い企画だけど、イメージをそのまま書いてもわからないだろうな」ってときは、企画書の頭3ページくらい、マーケティングについての説明を足してみたり……。でも「ゴッドタン」の中の企画は自分たちで決められるので、例えば僕が“尻ベーター”みたいに訳のわからないことを言い始めても大丈夫なんです(笑)。
岩井 尻ベーターは企画書に書くの、無理ですね。
佐久間 あははは! 岩井さんは新しい企画が受け入れられるどうか、どのくらいの段階で勝算を立てるんですか?
岩井 うーん……特に意識してないですね。毎回やってみないとわからないけど、「いきなり本読み!」についてやろうと思えたのは、演者さんが集められたからです。初回で皆川さんや神木くんに声をかけたとき「怖いけどやってみたい」「本読みの面白さを見せられたら確かに良いよね」って言ってくれた。それならきっとお客さんも面白がってくれるんじゃないかって思ったので。
──コロナの影響で、制作の現場や発表の仕方が変わり、クリエーションの現場にもさまざまな変化が出てきていると思いますが、お二人の活動スピードはまったく落ちませんね。岩井さんは5月から「いきなり本読み!」がテレビシリーズ化されるとか。
岩井 ええ。と言っても、劇場でやるのとそんなに大きくは変わらないと思います。でももっと客前じゃない感じっていうか、密室で本当に自分たちのためにやっているように見えるようなものになるんじゃないかなと思います。
──4月には、佐久間さんプロデュースのテレビドラマがテレ東で始まります。
佐久間 ジェーン・スーさんの著書「生きるとか死ぬとか父親とか」をドラマ化したもので、今撮ってます。いろいろ成立の経緯はありますが、僕が山戸結希監督にドラマ化を勧めました。
岩井 佐久間さんは、これまでやってないけどこれからやってみたいことってあります?
佐久間 うーん、コントをたくさん撮ってきたので、コメディ映画はやってみたいですね。よく考えてみたら、芸人さんと役者さんをミックスしたコメディを撮るのが、僕のキャリアで一番良いんじゃないかなって。
岩井 監督ですか?
佐久間 ですね。邦画のコメディってどうしてもウェルメイドで最後ウェットになるけど、韓国のコメディ映画は「エクストリーム・ジョブ」にしろ「ノンストップ」にしろ、ものすごくゲラゲラ笑える。そういう風合いのものを撮ってみたいなって。
岩井 へー! 僕は「いきなり本読み!」でこれからどんなことをやっていけるだろうっていうことを考えてて。キャスティングや会場の大きさとは別の話で、例えば日常的な台本じゃなく、ファンタジーみたいなほうが、相性が良い可能性が高いなって思うんです。僕、テーブルトークロールプレイングゲームに前から興味があるんですけど、そういう本も良いのかなって。
──可能性がどんどん広がっていきますね。今後の展開に期待しております!