作品へのリスペクトと新しさのバランスが神懸かり!と海宝直人が太鼓判「ウィキッド ふたりの魔女」 (2/2)

作品へのリスペクトと新しさのバランスがもはや神懸かり!

──「ウィキッド ふたりの魔女」のミュージカル映画としての質の高さについて、海宝さんが思うところをお聞かせください。

いやもうとにかく、冒頭からカメラワークがたまらなかったですね! エメラルドシティが見えてくるまでに「やられた!」と感じて、5・6回ほど観直したので、なかなか先に進めませんでしたが(笑)、それからもそういうシーンの連続。オリジナルの舞台版のファンが観たいところをきっちり観せてくれたうえで、映画ならではの表現や展開をしっかり組み込んでいる、そのバランスが神懸かっていると思います。ジョン・M・チュウ監督ご自身、オリジナルの舞台版が大好きということで、愛とリスペクトが作中にあふれているんです。

海宝直人

映画ならではの表現という点で、特に素晴らしいのが、CGだけに頼らない画作り。もちろんCGも駆使されていますが、大きなオープンセットが作られたり、リアリティや手触りのようなものを大事にされているのが伝わってくるんです。僕たちが余計なことを考えずに「ウィキッド」の世界に没頭できるのは、本当に細かいところまでこだわって作られているからこそだと思います。

──ちなみに、思わず観直したシーンって冒頭以外にもあったりするのでしょうか?

たくさんありますが、ネタバレにならない範囲で言うと、フィエロが歌う「ダンシング・スルー・ライフ」と最後のシーンは、繰り返し観ましたね。僕は「ダンシング~」でボックとネッサローズが踊り出すシーンが、オリジナルの舞台版でもすごく好きなんですが、映画版も非常に良くて。新しいフレーズが入って、曲が膨らんでいるんです。サントラでもたくさん聴いています。

映画「ウィキッド ふたりの魔女」場面写真

映画「ウィキッド ふたりの魔女」場面写真

──海宝さん目線の音楽のお話、ぜひもっと聞きたいです!

まずはもう、冒頭のオーバーチュア! 初めて聴いたとき、ダラララララという重低音から始まってバーン!と金管楽器が鳴った瞬間の音の厚みが、すご過ぎて笑っちゃいました(笑)。これから描かれる物語の楽しさと同時に、重みも感じさせてくれるアレンジですよね。アレンジが変わっているところはほかにもけっこうありますが、あくまで原曲へのリスペクトがあるうえで、良い意味で現代的な新しい解釈が入っているところが魅力的。そのバランスが、やっぱり絶妙で神懸かっているんですよね。

海宝直人

今の時代に合ったテーマを、最高のエンタメの形で伝える

──あらためて、海宝さんが思う映画「ウィキッド ふたりの魔女」の魅力や見どころをお聞かせいただければと思います。

舞台版をご覧になっていなくても、元の題材である「オズの魔法使い」のことは、多くの方がご存じだと思います。その「オズ~」に登場する“悪い魔女”と“善い魔女”を、別の側面から描いているところに惹きつけられます。僕が今稽古をしているミュージカル「イリュージョニスト」にもつながることですが、ある物事が、別の側面から見るとまったく違って見えてくるというのは、今の時代に非常に合ったテーマだと思うんです。

世の中には今、いろいろな情報があふれていて、人間というのは扇動的だったり刺激的だったりする情報を信じやすい。でもその中で、本当は何が真実なんだろうと、考え続けることが大切なんですよね。そんなテーマを、最高のエンタテインメントとして伝えているところが、この映画の大きな魅力です。美術も音楽も本当に素晴らしいので、映像美と音楽を浴びに行く感覚で足を運んでいただけたら、いつの間にか作品世界に没頭しているのではないかと思います。

映画「ウィキッド ふたりの魔女」場面写真

映画「ウィキッド ふたりの魔女」場面写真

──では、オリジナルの舞台版が大好きな方に向けた、ちょっとマニアックな見どころというと?

グリンダの「ポピュラー」のアレンジ、かな。アリアナ・グランデさんが演じるということで、作詞・作曲のスティーヴン・シュワルツさんご自身が「ちょっとヒップホップふうのアレンジに変更しようか」と提案されたそうなんです。でもアリアナさんが、「私はアリアナ・グランデが演じるグリンダじゃなく、グリンダそのものになりたいから変えないでほしい」と。それで舞台版の延長のような形でアレンジされることになった、というエピソードを知ったときは、「アリアナさんありがとうございます!」と思いました(笑)。

大好きなミュージカルが映画化されるときって、音楽のアレンジが現代的になっていたりして、大好きなだけに残念に思ってしまうことがあるじゃないですか。もし「ポピュラー」にラップが入っていたら、僕も少しがっかりしていたと思います(笑)。でもこの映画は、オリジナルの舞台版「ウィキッド」を愛する監督とキャストが思いを持って作っているから、そういうところが一切ない。そして日本語吹替版も、クリエイターの皆さんが歌にもお芝居にもこだわり抜いて、とても丁寧に、愛を持って録音してくださっていますから、ぜひ字幕版も日本語吹替版も楽しんで観ていただけたらと思っています。

海宝直人

プロフィール

海宝直人(カイホウナオト)

1988年、千葉県生まれ。7歳のときに劇団四季「美女と野獣」チップ役で舞台デビュー。その後「ライオンキング」の初代ヤングシンバに抜擢される。舞台を中心に活躍を続け、近年は劇団四季「ノートルダムの鐘」カジモド役、「アラジン」アラジン役などを務めた。2018年「TRIOPERAS」でウェストエンドデビュー。主な出演作に、ミュージカル「アリージャンス~忠誠~」「アナスタシア」「レ・ミゼラブル」「ジャージー・ボーイズ」「この世界の片隅に」「ファンレター」など。またロックバンド・シアノタイプのボーカルとしても活動。第13回岩谷時子賞では奨励賞を受賞した。3・4月にミュージカル「イリュージョニスト」フルバージョンへの出演が控える。