昨年10月に東京・帝国劇場で開幕し(参照:花總まりがエリザベート役の集大成を見せる、ミュージカル「エリザベート」本日開幕)、愛知・大阪公演を駆け抜けてきたミュージカル「エリザベート」が、1月末に福岡・博多座で千穐楽を迎える。
新型コロナウイルス感染拡大の影響による2020年の全公演中止を経て、満を持し、2年ぶりに幕が上がった2022・2023年版の「エリザベート」。1996年に宝塚歌劇団雪組にて日本初演(「エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-」)され、2000年に東宝版が誕生した本作は、小池修一郎(演出・訳詞)の美意識が細部にまで宿ったヒット作だ。劇中では、ハプスブルク帝国最後の皇后エリザベートの生涯と彼女を愛する死神トートの愛が、退廃的な世界観の中、当時を生きる人々の熱気と絡み合い、美しい旋律に乗せて紡がれる。
そんな大人気ミュージカルがこのたび初めて、uP!!!とTELASA(テラサ)で生配信される(参照:「エリザベート」博多座公演をライブ配信、2022年公演のBD / DVD化も決定)。いつか観たいと思っていた人も、客席で深い感動を味わった人も、「エリザベート」の世界に浸れる貴重なチャンスだ。間もなく迎える千穐楽公演に向け、タイトルロールをWキャストで務める花總まり、愛希れいかが、作品にかける思いと生配信への期待を明かした。
構成・文 / 大滝知里
uP!!!およびTELASAでは、花總まり・愛希れいかそれぞれの博多座千穐楽の模様を独占配信!
「ミュージカル『エリザベート』生配信」
2023年1月30日(月)・31日(火)
配信情報
日時:2023年1月30日(月)17:00開演回
キャスト
エリザベート(オーストリア皇后):愛希れいか
トート(黄泉の帝王):井上芳雄
フランツ・ヨーゼフ(オーストリア皇帝):佐藤隆紀
ルドルフ(オーストリア皇太子):立石俊樹
ゾフィー(オーストリア皇太后):涼風真世
ルキーニ(皇后暗殺者):上山竜治
ほか
日時:2023年1月31日(火)12:00開演回
キャスト
エリザベート(オーストリア皇后):花總まり
トート(黄泉の帝王):古川雄大
フランツ・ヨーゼフ(オーストリア皇帝):田代万里生
ルドルフ(オーストリア皇太子):甲斐翔真
ゾフィー(オーストリア皇太后):剣幸
ルキーニ(皇后暗殺者):黒羽麻璃央
ほか
アーカイブ配信期間
2023年1月30日(月)17:00開演回
ライブ配信終了後準備整い次第開始~2月6日(月)23:59
2023年1月31日(火)12:00開演回
ライブ配信終了後準備整い次第開始~2月7日(火)23:59
花總まりインタビュー
心をこめて、真摯に誠実に
──昨年10月に東京・帝国劇場で幕が開いたとき、花總さんの中ではどのような思いが巡りましたか?
2020年に公演中止となってしまったので、楽しみにしていただいていたお客様にやっとご覧いただける機会がやってきたという思いがまずありました。それと同時に、博多座での大千穐楽までしっかりと、1回1回の公演を、心をこめて真摯に誠実に務めていこうと心に刻んだことを覚えています。
──1996年、宝塚歌劇団雪組トップ娘役としてミュージカル「エリザベート」の日本初演に出演して以来、花總さんはこの作品に長く関わられています。花總さんにとって、どのような魅力を持つ作品でしょうか?
「エリザベート」は、たくさんの方々に愛されている作品ですが、この作品の魅力は何と言っても楽曲の素晴らしさとその構成の見事さ。それらが皆さんの心に響くのだと思います。
オーストリア皇后エリザベートが中心となる史実をベースにしたストーリーには、家族や夫婦間の問題など現代にも通じるエピソードが多く、そういった点でも時代を超えて支持されているのではないでしょうか。「エリザベート」は本当に、脚本の(ミヒャエル・)クンツェさんと作曲の(シルヴェスター・)リーヴァイさんの大傑作だと私は思っています。
──そんな作品でエリザベートという役と長く対峙される中で、演じる難しさや喜びに変化はありましたか?
そうですね。実在する人物を演じる難しさというのは常にあります。物語の中で子供時代から晩年、亡くなるまでのエリザベートの人生をたどるということに、公演回数を重ねるごとに新たな発見があるんです。ですので、お稽古の中でいつも考え、悩みつつ作っています。
自分の中で引っかかりを整理して挑んだ
──花總さんは今回、エリザベート役の“集大成”としてこの作品に臨まれています。その心境を教えていただけますか?
2020年の公演は中止になってしまいましたが、2019年に上演された前回までの公演(参照:「エリザベート」幕開けに花總まり「今回もたくさん愛していただけたら」)やそのお稽古をする中で、自分の中で引っかかっていた点などを今回しっかりと整理して演出の方々とも話し合い、今までと少し違うアプローチの仕方で演じている場面が実はあります。言葉で説明するのは難しいのですが……。
──花總さんの挑戦をしっかりと見届けたいです。
コロナの状況と共に東京・愛知・大阪公演を歩んできましたが、博多座では千穐楽まで中止、ということがないよう祈るばかりです。やはり楽しみにしていてくださるお客様のことが第一ですから、何とか公演が止まらないように。また、それとは矛盾してしまうことになるかもしれませんが、毎日毎日、仮にその日が最後の舞台になってしまったとしても悔いの残らないよう誠心誠意、エリザベートとして全力で生きようと思っています。
──昨年10月の開幕以降、小池修一郎さんや出演者の皆様との思い出深いエピソードはありますか?
毎日がたくさんの出来事で彩られ、ハプニングもありますので、言い尽くせません。今回も、カンパニー全員がひとつになって舞台を作り上げることができたと思います。
──エリザベート役の愛希れいかさんとは、2度目のWキャストになります。
2019年から一緒にエリザベートを演じてきました。あと少し、お互い最後までがんばっていきましょう!
隅々まで楽しんでいただけるようなカメラワークで
──今回、博多座の千穐楽をライブ配信で、劇場に足を運ぶことができない観客にも公演の様子を届けることができます。
私は舞台というものは生でご覧いただくのがベストと考えている人間ですが、今回の公演は特にチケットが手に入らないお客様が多かったり、世の中の感染状況が収まっていない中、劇場へお越しになれない方々がいたりと、そのようなお客様にとって、「エリザベート」という作品を楽しんでいただく手段としてライブ配信というものの良さを理解しています。ですからぜひ、映画やテレビドラマなどの映像とは違い、ご覧になる方に舞台全体、隅々までを楽しんでいただけるようなカメラワークをお願いしたいですね。
プロフィール
花總まり(ハナフサマリ)
1973年、東京都生まれ。1991年に宝塚歌劇団に入団。1994年より雪組トップ娘役、1998年より宙組トップ娘役を務め、2006年に退団。2010年に活動を本格的に再開し、ミュージカル「レディ・ベス」「エリザベート」「Romale ~ロマを生き抜いた女 カルメン~」「マリー・アントワネット」などのほか、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」にも出演。オーストリア共和国有功栄誉金章、菊田一夫演劇賞演劇大賞、読売演劇大賞優秀女優賞、松尾芸能賞演劇部門優秀賞などを受賞。4・5月に「おかしな二人」、6・7月にミュージカル「SUNNY」が控える。
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愛希れいかインタビュー
誰かに嫌われることを恐れないエリザベートはカッコいい
──昨年10月に公演が開幕したときに、愛希さんはどのような思いでしたか?
いろいろな思いがありましたが、何より前回はお客様に残念な思いをさせてしまったということが心残りでしたので、幕が開いてお客様が大きな拍手で迎えてくださったことに、感無量でした。同時に、「またエリザベートを演じさせていただける」という、信じられないような気持ちでした。
──愛希さんは宝塚歌劇団の退団公演を「エリザベート」で飾り、2019年には退団後初の舞台出演として、東宝版に出演されました。「エリザベート」は、愛希さんにとってどのような魅力がある作品ですか?
一言で言い表すのは難しいのですが、今回、お稽古をしていく中で楽曲の素晴らしさを改めて感じました。この作品を観たり、演じさせていただいたりすると、心にズンと何かが重くのしかかるような感覚がありますが、一方でエリザベートが信念を貫き、自分らしく生きる姿に勇気をもらえます。「世界は終わった」という歌詞から始まる物語ですが、「明日からもがんばろう」と、希望を感じることができる作品です。
──観客から長く愛される理由はどこにあると思いますか?
エリザベートがとても現代的な女性だった、ということがポイントかなと思います。現代では当たり前のように思える、“性別に関係なく個人の自由を重んじる”ことを、当時のエリザベートは尊重し続けました。彼女には母親や皇后として生きることから逃げてしまった部分もありますが、自由に生きたいと願ってそれを成し遂げる姿が、私たちの心に訴えかけるのだと思います。エリザベートは誰かに嫌われることを恐れないところがカッコいい。私も彼女のように生きられたらと思うときがあります。
──愛希さんはそんなエリザベートの、どのような部分を核に演じたいと思っていますか?
エリザベートはもともと愛情深い人だと思うんです。帝国のしきたりや環境によってそれをなくしてしまいますが、夫・フランツに対しては愛し、尊敬しているからこそ最後まで自分が皇后として生きる姿を見せる。それが彼への愛情表現だと思って演じています。また、母親や妻、皇后としての顔はエリザベートにとっては“作られたもの”で、それに向き合いつつ、葛藤し、行動した結果が彼女の人生になる。自分自身を許せなかった気持ちもきっとあるので、そういう内面の複雑さも表現できたらと思っています。
崩れ落ちていくさまをより明確に
──2019年の前回公演と比べて、エリザベートという役に対する変化や発見はありますか?
たくさんあります。コロナ禍で私の身の周りでもいろいろなことが起き、この数年は生と死についてより深く考えました。その経験があって今回、エリザベートという同じ役の同じシーンでも私の中では違って感じられています。意識的に変えたのは精神病院のシーン。小池(修一郎)先生と話し合って、「私が踊る時」というナンバーの勝ち誇った姿からパキッと心が折れて崩れ落ちていくさまがより明確に見えるように変えています。
──東京・愛知・大阪公演を経て、いよいよ福岡での千穐楽が迫ってきました。
まだ実感は湧きませんが、毎日充実した日々を過ごさせてもらっていて、エリザベートを演じないとスッキリしないくらいです(笑)。一緒に乗り越えてきたカンパニーの皆さんと離れることに寂しさはありますが、ここまで自分のすべてをかけられる作品に出会えたことに感謝の思いでいっぱいです。
花さんのおかげで今の私がある
──2019年に続きエリザベートをWキャストで演じられている花總さんに、お伝えしたいことはありますか?
エリザベートという役に、私の憧れである花さん(花總)と一緒に取り組ませていただけたことは本当に幸せです。Wキャストはライバルのような存在で難しいのかなと思っていたのですが、花さんが優しく私の目線まで降りて来てくださって、いろいろな気持ちを共有させてもらえたことで、Wキャストの素敵さに気付くことができました。ここまで歩むことができたのも、今の私があるのも、楽屋でたくさん笑っていられたのも、花さんのおかげです。感謝と、大好きです!ということをお伝えしたいです。
──「エリザベート」が生配信されることについて、どのような期待がありますか?
「エリザベート」が生配信されるのは初めてのことだと思いますので、私も緊張しています。「観たいけど観られない」というお声をいただく中、このような機会で皆さんにお届けできるのはうれしいです。客席からは観えない目の微妙な動きなど、皆さん細かく演技をされているので、そういった表情やお衣裳のディデールなども観ていただきたいです。ぜひ「エリザベート」という作品をお家でも楽しんでいただけたらと思います。
プロフィール
愛希れいか(マナキレイカ)
1991年、福井県生まれ。2009年に宝塚歌劇団に入団。2012年に月組トップ娘役に就任。2018年、「エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-」エリザベート役で退団。退団後はミュージカル「エリザべート」「ファントム」「フラッシュダンス」「マタ・ハリ」、「泥人魚」などに出演するほか、NHK大河ドラマ「青天を衝け」、テレビドラマ「潜水艦カッペリーニ号の冒険」、NHK特集ドラマ「アイドル」など映像でも活躍。3・4月にミュージカル「マリー・キュリー」が控える。
愛希れいか (@manaki_official) | Twitter