宮城聰総合ディレクターのもと、2018年より新たなスタートを切った東京芸術祭。「ひらく」「きわめる」「つながる」をキーワードに、多彩なプロジェクトが展開する。そのフラッグシップとなるプログラムが、東京・池袋西口公園で上演される「野外劇 三文オペラ」だ。演出を手がけるのは、宮城が厚い信頼を寄せるイタリア人演出家のジョルジオ・バルベリオ・コルセッティ。フルキャストオーディション、ワンコインで観られる「三文オペラ」という冒険に満ちた本作の稽古場を、近藤良平と矢崎広が訪れた。近藤と矢崎は、同じく東京芸術祭の演目で11月に上演される「右まわりのおとこ」で共演する。言葉を越え身体を武器に国内外で活動する近藤、小劇場からミュージカルまで幅広い演目で存在感を放つ矢崎、2人は「三文オペラ」の稽古場をどのように観たのか? なお本特集では、コルセッティと宮城の「野外劇 三文オペラ」に懸ける思いも掲載している。
取材 / 興野汐里 構成 / 熊井玲 撮影 / 川野結李歌
東京芸術祭とは?
東京都の提案により行われる都市型総合芸術祭。宮城がプロデュースする「直轄プログラム」(10月18日~11月4日 / ディレクター:横山義志)のほか、国内外のアーティストが集う「フェスティバル/トーキョー18」(10月13日~11月18日 / ディレクター:長島確、共同ディレクター:河合千佳)、東京芸術劇場の主催事業の中でも国際色豊かな演目を集めた「芸劇オータムセレクション」(9月1日~11月25日 / ディレクター:内藤美奈子)、豊島区が“まち全体が舞台の、誰もが主役になれる劇場都市”を目指して行う「としま国際アート・カルチャー都市発信プログラム」(9月1日~12月9日 / ディレクター:根本晴美、杉田隼人)、アジアの若手アーティストの発掘・育成を実施する「APAF-アジア舞台芸術人材育成部門」(10月15日~11月12日 / ディレクター:多田淳之介)が展開する。
言葉を越えて深まっていく稽古場
近藤良平 海外の演出家が日本に滞在してクリエーションしている現場を観ることはそんなにないので、今日の稽古は面白かったですね。コルセッティさんは日本語がわからないけど、役者のリアクションとか空気感を見て演出しているのでしょうね。もし僕がイタリアで演出することになったら、やっぱり言語がわからないから、アクションをつなげて演出するんだろうなって思いながら見ていたら面白くて。上手く言えないけど……出演者がみんな、ちょっとイタリア人っぽく見えたよね?(笑)
矢崎広 そうですね(笑)。僕らの日常とは少し違う動きでした。コルセッティさんは、ご自分から動いてみせてくれる演出家なんですかね?
近藤 そういう感じだったよね。
矢崎 日本人が演じてるんだけど、異国のどこかに連れて行かれるような瞬間が何度もあって興味深かったです。
近藤 例えば首の突き出し方とか、ちょっとクラウン的なところがあったりして(笑)。
矢崎 僕も外国人の演出家の方とご一緒したことが何度かあるんですけど、パッションで通じる感じがありますね。セリフを噛んだとかセリフを間違えたとかってことじゃなくて、セリフと身体表現がつながっているかどうかが大事で。だからあんまり言葉は関係ないなって、僕が演出を受けたときは感じて。でも逆にごまかしが効かないので、今日も通し稽古前のピリピリした緊張感は自然と伝わってきましたし(笑)。これからさらに稽古が進むにつれ、役者と演出家さんのハートがどんどんリンクしていくんだと思います。お互いに対する理解が本番に向けてさらに深まっていくんだろうなって。
池袋の呑んべえも乱入しちゃうかも?
矢崎 「三文オペラ」は池袋西口公園で野外劇として上演されるんですよね。お客さんと演技エリアはどういう位置関係なのか気になります。
近藤 西口公園って丸いんだけど、一部屋根があるスペースがあって、そこはワンコイン500円の席らしいよ。でも屋根がない外周のほうは0円で観られるんだって!
矢崎 へー! それは思い切ってますね。
近藤 珍しいよね。テント公演とも違って、今回はなんの囲いも作らないそうだし、あの辺りは呑んべえもいっぱいいるから、本当に芝居に入って来ちゃうかもしれない(笑)。そうしたらシュールだろうなあ。
矢崎 それはシュールですね(笑)。作品の世界観と、上演している場所の状況が同じということですよね?
近藤 一緒に踊ったりしたら面白いけどね(笑)。そういう状況で「三文オペラ」をやるって、けっこうな賭けだよね。今日の稽古を観て感じたのは、コルセッティさんが演出するのがいいんだろうなってこと。コルセッティさんなら百戦錬磨だろうから、たとえお客さんが入って来ちゃっても動じないだろうし、イタリアの人だから池袋の状況も知らないだろうし。
矢崎 確かに(笑)。近藤さんは、もう10年くらい夏に「にゅ~盆踊り」を手がけられてますよね?
近藤 そう、僕は池袋西口公園で毎年盆踊りをやってるのでよくわかるんだけど、あの辺は本当にいろんな国の人が集まって来るんですよ。普通に観光に来てる中国人や韓国人もいるし、公園に“住んでる”人たちもいる。非常にアクティブなスペースなんです。でも盆踊りはそもそも外でやるものだから、通行人も「あ、盆踊りやってるわ」って普通に感じると思うんだけど、「三文オペラ」を野外でやるって、普通じゃないので。
矢崎 あははは!(笑) 本当ですね。原作はフルオーケストラが入る音楽劇ですから。
近藤 実際、劇場でやるのと本番ではだいぶ違うだろうね。公園という場所は容赦ないから、役者も心配事が多いと思う。その中でやり続けるわけだから、寺山(修司)作品のような大変さがあるだろうね。
矢崎 出演者の中には僕と同世代の方もいるので、役者としてはうらやましいです。すごく尖った経験だと思うし、これをやったらもう何も怖くなくなるだろうなって。
近藤 あははは!(笑) 確かにそうだね。絶対面白いと思うけど、役者は最後まで気が抜けないだろうねえ。
矢崎 僕も出演者だったら本当に怖くてずっと気が立ってるだろうなって思います。しかもあの中で音楽もあり、歌も歌うから、ちゃんと音を取らなきゃいけないし……。
近藤 そうそう。さっきの稽古でも歌ってたけど、あともう1曲くらい聴いてみたかったね!
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四方舞台で繰り広げられる「右まわりのおとこ」
- 東京芸術祭2018
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- 2018年9月1日(土)~12月9日(日)
東京都 池袋各所
- 2018年9月1日(土)~12月9日(日)
- 東京芸術祭2018 直轄プログラム
「野外劇 三文オペラ」 -
- 2018年10月18日(木)~28日(日)
※23日は休演。
東京都 池袋西口公園
- 2018年10月18日(木)~28日(日)
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作:ベルトルト・ブレヒト
音楽:クルト・ヴァイル
訳:大岡淳
演出:ジョルジオ・バルベリオ・コルセッティ
音楽監督:原田敬子
衣裳デザイン:澤田石和寛
総合ディレクター:宮城聰
直轄事業ディレクター:横山義志
- キャスト
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ジョナサン・ジェレマイア・ピーチャム:廣川三憲
フィルチ / イード:泉陽二
シーリア・ピーチャム:森山冬子
ジャラ銭のマサイアス:宮下泰幸
マックヒース:後藤英樹
ポリー・ピーチャム:淺場万矢
曲がり指のジェーコブ:小長谷勝彦
のこぎりのロバート / 警官:綾田將一
ジミー / スミス:沼田星麻
しなしなのウォルター / 警官:菊沢将憲
ブラウン:柳内佑介
酒場のジェニー / 娼婦:榊原有美、葛たか喜代、篠原和美
ルーシー:水口早香
- としま国際アート・カルチャー都市発信プログラム
ダンスで演劇「右まわりのおとこ」 -
- 2018年11月22日(木)~25日(日)
東京都 あうるすぽっと
- 2018年11月22日(木)~25日(日)
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構成・上演台本・演出:芳賀薫
振付・演出:近藤良平
出演:千葉雅子、矢崎広、近藤良平
- 近藤良平(コンドウリョウヘイ)
- ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。愛犬家。現在、豊島区在住。振付家・ダンサー、コンドルズ主宰。NHK「サラリーマンNEO」「からだであそぼ」などに振付・出演として携わるほか、連続テレビ小説「てっぱん」オープニングの振付を担当。第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞、第67回文化庁芸術選奨文部科学大臣賞受賞。女子美術大学、立教大学などで非常勤講師としてダンスの指導にあたる。2016年にはコンドルズの20周年記念としてNHKホール公演を実施し、好評を博した。現在、NHKエデュケーショナルと共に0歳児からの子供向け観客参加型公演「コンドルズの遊育計画」や、埼玉県と組んで行う「近藤良平と障害者によるダンス公演」ハンドルズ公演など、多様なアプローチでコンテンポラリーダンスの社会貢献に取り組んでいる。
- 矢崎広(ヤザキヒロシ)
- 2004年にミュージカル「空色勾玉」でデビュー。以降、舞台を中心にキャリアを積む。近年の主な出演舞台に「人間風車」「モマの火星探検記」、朗読劇「季節が僕たちを連れ去ったあとに」「Shakespeare's R&J」「Photograph51」。ミュージカル作品では「ロミオ&ジュリエット」「スカーレット・ピンパーネル」「ジャージー・ボーイズ」など幅広く活躍中。19年に音楽劇「ライムライト」への出演が控える。また10月1日より始まった、文化放送「超A&G+あさステ!」(インターネットラジオ 月~土曜 7:00~7:30)の水曜日パーソナリティとしてラジオMCを務めている。