「THEATRE for ALL」岡田利規×ノゾエ征爾 対談|多様な観客との出会いで起きる想定以上のこと、それが醍醐味

映像ならではの楽しみ方を

──今回「THEATRE for ALL」には、ノゾエさんが昨年演出された「ボクの穴、彼の穴。The Enemy」、岡田さんが2月に上演される「消しゴム山」東京公演が収蔵されます。どちらもコロナ以前に初演された作品の再演となりますが、初演からの変化や、映像コンテンツとしての楽しみ方についてお伺いできますか?

「プラータナー:憑依のポートレート」より。(撮影:高野ユリカ)

岡田 これも先ほどの文脈の話と一緒で、今回でいえば2020年のパンデミックという文脈は、それ以前に存在しなかった文脈ですよね。でもそれによって、以前作ったときには想定していなかった生産的なことが、やっぱり起きる。という意味ではパンデミックも、いつでも起こり得ることの1つのバージョンだと思います。つまり作品は何も変わっていなくても、観ている人の文脈が変わることが一番大きいのではないかなと。映像化にあたっては、映像にする用のアイデアを考えています。カメラは視点になり得るということを生かして、客席に座って観ているお客さんの視点ではできないけれど、できたらいいなって思うようなことをやってみたいと思っています。

ノゾエ 岡田さんのお話を聞きながら、僕もそうだなって思ったんですけど、コロナによって作品の何が変わるかっていうと特にそんなことはなくて、でも状況は勝手に変わるので、前と内容は何も変えていないのに違うふうにセリフが聞こえてきたり、状況によって作品が勝手に変容してくんだなというのを感じます。映像に関しては、僕は自分で撮り方について希望を言っていないんですけど、結果的に僕のイメージとちょっと近かったですね。劇場では画角の広さが大事だけど、映像ならもっと視点を絞る必要があるんじゃないかと思っていたのですが、そこがうまく絞られていると思いますし、面白かったです。

コロナの1年を経て

──この1年、お二人も公演中止や延期になるなど、新型コロナウイルスによるいろいろな影響を受けていらっしゃいます。その中で、映像を使った作品を発表し、創作をずっと続けていましたが、お二人がクリエーションをやめなかったのはなぜですか?

ゴールド・アーツ・クラブ×ノゾエ征爾「病は気から」より。(撮影:宮川舞子)

ノゾエ 立ち止まったか立ち止まらなかったかでいうと、僕は完全に立ち止まりましたし、落ち込んだし、惑いました。でも、すでに創作過程にあったので、いきなりその衝動を停止するってことができなかったんですね。それでこれまで映像なんて撮ったことなかったんですけど、iPhone 6の動画アプリを使って始めてみました。というのも、止まっちゃうのが怖くて、「皆さん、面白い表現を求めているでしょう?」なんて考える余裕もなく、ただ自分のために動画の撮影を始めたんです。ただただ止まってしまうことが怖かった。

でもいざYouTubeで公開するところまで準備したときに、「公開ボタンを押したら、世界中みんなが観られるんだ」と急に意識してしまい、“作品を発表する責任”とか余計なことがよぎってボタンが押せなくなって、1週間くらい寝かせたかな(笑)。最後は考えるのも疲れて結局押しちゃったんですけど。要は、後先考えずに、作りたい欲求で作っただけ。だからもし今、立ち止まっている人がいたら、それはいろいろ考えることができている証拠かもしれません。でも僕みたいに考えが“及ばない”ことがもし許されるなら、考えが至らないってことも、良いんじゃないですかね。そんなふうに思います。

岡田 僕自身は、ずっと忙しく作品を作り続けてきた中で、急にサバティカルをもらったような感覚でした。その間に、「次に僕はどういうことがやりたいか」という根本的なことに考えを向ける時間が作れたなと。リセットできた、休暇がもらえたというのと同時に、自分の中にとにかく作りたいっていう、ピュアな欲求があることを確認できて、それはホッとしたというか、とてもうれしかったです。スケジュールが詰まっている、その1つひとつに向き合う、というのを自分の表現欲求がどうのとか四の五の言わずにやってきていたけれど、その時間が止まったからこそ感じられたことでした。

また僕にとって演劇は、上演される場所があり、そこにパフォーマンスがあり、観客と場を共有することが大事だと思っていたけど、今はその場が奪われていて、僕にとって演劇の重要な構成要素である(劇場までの)“移動”も奪われていることから、これまで考えもしなかったような根本的なことを考えることができた気がします。

──お二人共、率直な思いをありがとうございました。

2020 / 2021 あうるすぽっとタイアップ公演シリーズ チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム山」東京公演
2021年2月11日(木・祝)~14日(日)
※2月13日(土)14:00開演回は“鑑賞マナーハードル低めの回”。
東京都 あうるすぽっと

作・演出:岡田利規

セノグラフィー:金氏徹平

出演:青柳いづみ、安藤真理、板橋優里、原田拓哉、矢澤誠、米川幸リオン

2020 / 2021 あうるすぽっとタイアップ公演シリーズ チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム山」東京公演 ライブ配信
2021年2月13日(土)17:00~、14日(日)14:00~
書籍 チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム石」
チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム石」

税込2200円

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「消しゴム山」「消しゴム森」の戯曲や上演記録、インタビュー、批評などを収録した書籍版「消しゴム」シリーズ。