最初は演出助手のオファーかな?って(稲葉)
──稲葉さん、寺十さんは新国立劇場のラインナップ作品に初登場、また稲葉さんは同劇場で初演出となります。
稲葉 私はこれまで新国立劇場で演出助手を2回くらいやらせていただいたことがあって、そのときは稽古初日に初台に向かいながら「国だ! 国立の劇場の稽古場に行くんだ!」って吐きそうなほど緊張して行ったんです。
小川 わかる!(笑)
稲葉 (笑)。でも稽古場で醸し出される雰囲気がアットホームだったと言うか、自分が所属している文学座と似てるなと思って、そのとき「何年かかってもいいからここで演出できたらいいな」って夢みたいに思っていたんです。そうしたらご連絡をいただいて……最初は「演出助手のオファーかな?」って思ったのを覚えています。
一同 あははは!(笑)
稲葉 でもだんだんムクムクと野望が湧いてきて、小川さんにいろいろ相談したらじっくり話を聞いてくださって。一緒に企画から考えてくださったことがうれしかったです。
──稲葉さんは小川さんが演出された「THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE(ビューティー・クイーン・オブ・リナーン)」(17年)に演出部としてクレジットされていますね。
稲葉 はい。でもそのときはまだ小川さんと面識がなかったんです。私、小川さんの演出がすごく好きで、(同作をプロデュースした)シアター風姿花伝支配人の那須佐代子さんに直談判して「何でもやりますので演出部に入れてくれませんか!」ってお願いしたんです。そのあと、今回のお話をいただいて。小川さんに「実は『ビューティー~』にスタッフとして就くことになってるんです」ってお話したら「えー!」って(笑)。以来、仲よくさせていただいています。
小川さんとの仕事は志が高いから楽しい(寺十)
寺十吾 僕は小川さんとそこそこ付き合いが長いんです。小川さんは芝居に関して、「私はこれが我慢できない」とか「こうしたい」って話すテンションが高くて(笑)。そうやって志が高いから一緒にいてすごく楽しいんですよね。稽古場でも外でも芝居の話ばかりだから心地よくて、その流れで今回、「また一緒にやりませんか?」とお誘いをいただいた感覚でした。なので新国立劇場だからといって特別な意気込みはなく、これまでの小川さんとの付き合いの中で自然にお引き受けすることになったと言うか。
──「誰もいない国」については、オファーされたときに意外な感じがしたとインタビューでお話されていました。
寺十 そうですね。そもそも翻訳作品自体ほぼ初めてで、今年韓国人作家の作品(「渇愛」)を演出したくらいなんです。しかもピンターと言ったら、不条理劇の大家ですから、そんな方の作品を自分がやるなんてって思いもありました。でも読み込んでいくうちに親近感も湧いてきて、今までやってきたことの延長線上でできると見出せたところもあり、意外な演出をしようなんて気持ちはさらさら起きませんでした。この戯曲の面白味を存分に出すにはキャスティングが重要だと思ったので、一番考えたのはそこですね。……というノリも、やっぱり小川さんからの影響という部分があります。かしこまりすぎず、侮らず、力まずということを大事にしながらやれたらなと。
──小川さんがご自身で演出される「スカイライト」については?
小川 先ほどお話した通り、優さんと、という思いがまずありました。脚本は、ただ読んでいてもストレートに面白いですし、イギリスの話ではあるけれど普遍的な話だなと。そういう意味ではオープニング3作品のうち、一番ストレートかもしれません。ただセリフの量がかなりあるので、役者さんが実は相当大変だとは思います。
──また、小川さんは演出家としてのお二人のどういった点に信頼を寄せていらっしゃいますか?
小川 賀恵さんの作品は最初、「十字軍」と「野鴨」を映像で拝見したんです。あれだけ難しい戯曲をこれだけわかりやすくと言うか、違和感なく楽しめるようにしていて、しかも役者さんがすごく生き生きしてる。舞台のビジュアルもよくてセンスがいいな、シンプルなよさがあるなと思いました。寺十さんは役者さんとして絶大な信頼を置いていますが、演出作品を拝見しても、役者さんが全員のびのびしてるんです。演出が飛び出しすぎず、「あくまで作品は役者さんのものである」という寺十さんのスタンスが演出家としてカッコいいなって思っています。
ベテランから若手まで、こだわりのキャスティング
──3作品とも魅力的なキャスティングが実現しました。どのように考えていかれたのでしょう?
稲葉 実は私、中学生のときから原田美枝子さんの大ファンで(笑)。映画「愛を乞うひと」で原田さんは娘と母親の2役を演じていらっしゃるのですが、同一人物とは思えないくらいの演じ分けだったんです。その印象がずっとあり、今回、母親役には100歳から20歳にガラっと若返るような、そういう変化を見せてくれる人がいいと思って、「あ、原田さん!」と。その娘・マルタ役の小島聖さんは、純粋さと怖さを持ち合わせている方。お二人とも初めてご一緒させていただくのですが、だからこそ想像力を掻き立てられる顔合わせだなと思いました。水橋研二さんも映画でしか拝見したことがなかったのですが、ナイーブな少年のような役を演じられつつも内に秘めた熱いものとか、芯の強さを感じさせるお芝居をされていて。深谷美歩さんは3回ぐらいご一緒してますが、爆発力があって自分の意思を持っていらっしゃる役者さん。小林勝也さんは、劇団での “先生”でした(笑)。役者さんとしてはとにかくカッコよくて、何十歳も年上の先輩ですが、すごくフラットで、誰よりも若いアイデアをバンバン出してくださる。稽古場では野放し状態で野生児が1人いる、みたいな感じなんですけど(笑)、それが稽古場の潤滑油になっていてすごく安心感があるんです。
一同 あははは!
──「誰もいない国」の稽古場もかなり面白くなりそうですね(笑)。
寺十 柄本明さんは演出もされるので、柄本さんがこの脚本をどう読むのかなってことを稽古場で共有していけるのではと楽しみです。自由なようでいて非常に思慮深い方だと思うので、一緒に作っていけたらなと。対する石倉(三郎)さんは、今回の役はセリフ量もすごく多いし、非常にピュアな感じで臨んで来られるのではと思います。その石倉さんを柄本さんがどう転がすのか、突き放すのか……。2人のやり取りを稽古場で見せてもらえるってことだけでも非常に特権だなって思います(笑)。有薗(芳記)さんは怪優の印象がありますが、実は非常に真面目な方なので、そういう意味で一番会話ができるかなと(笑)。柄本さんと石倉さんがわーっと盛り上がったら有薗さんにスッと間に入ってもらおうかと思ってます。
一同 あははは!(笑)
寺十 平埜(生成)さんは初めてご一緒するんですが、このメンツの中に入っていただくので、一緒にこの現場を目撃してもらおうと思ってます(笑)。
小川 「スカイライト」は、先ほどお話した通り優さんのイメージがまずあって。葉山(奨之)さんは、長塚圭史さんが演出された「ツインズ」などで観ていて、「あのフレッシュさが素敵!」と思って、今回お願いしました。浅野(雅博)さんとは、2013年に演出した「帰郷 / The Homecoming」(ハロルド・ピンター作)のときに、中嶋しゅうさんが呼んできてくださって。素敵な役者さんだなと思ってそのあと何度もオファーしたんですけどなかなかスケジュールが合わず、今回やっとお願いすることができました。
──浅野さんと蒼井さんはかつて不倫関係にあった男女を演じられます。お二人のバランスが絶妙ですね。
小川 そうですね。登場人物は3人ですけど、舞台上には常に2人ずつしかいません。あれだけしゃべるけれど結局は人間関係の話。そこに興味を持ってくださる役者さんにお願いしたいと思っていました。NTLiveで上映されたスティーヴン・ダルドリー演出版はビル・ナイとキャリー・マリガンが演じていて、おじいちゃんと孫みたいな関係でしたけど、戯曲上は50歳前後と30歳の男女なので、まさに今のお二人の年齢なんですよね。でもNTLiveで観たとき、キャリー・マリガンの長ゼリフがあまりに素晴らしくて、映像なのに思わず「わー!」って拍手しちゃって! 優さんがどう演じてくださるか私も楽しみです。
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三者三様の戯曲との出会い方
- 「誤解」
- 2018年10月4日(木)~21日(日)
東京都 新国立劇場 小劇場
- 「誰もいない国」
- 2018年11月8日(木)~25日(日)
東京都 新国立劇場 小劇場