KAAT「三文オペラ」谷賢一×志磨遼平|負けず嫌いであまのじゃくな2人とブレヒトの“取っ組み合い”

P席こそ、まさしく「三文オペラ」の構図そのもの(志磨)

──谷さんはこれまでにも、観客との関係性を強く意識した作品作りをされてきました。今回「三文オペラ」には、劇中に登場するピーチャム乞食商会にちなみ、ピーチャム商会の一員として参加できるオールスタンディングの自由席・P席という席種が設けられていますね。

 ブレヒトはお芝居をお芝居の中だけで完結させずに、現実と照らし合わせて考えることを提唱した人だったので、現実との境界線をぼかすという意味で、今回のP席という試みは有効だと思いました。それからもう1つ、手軽に楽しめる娯楽が増えてきている中で、演劇も何かしらやらなきゃいけないと思っていて。それでKAATさんに無理を言って「P席を作りたい」とお願いしたんです(笑)。承諾してもらえるまでに結構時間がかかりましたけど、結果的にはむしろ僕が想像していたよりもいい形で実現してくださいました。

──実際、作品を俯瞰して観てしまうことで、その世界にうまく入っていけないお客さんも少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。P席は、そういった観客の心理をうまく利用しているなと感じました。

谷賢一

 ステージに近いところで、お芝居の世界に没入できるって喜ぶ人にとっても、高みの見物するほうにとっても、どちらにもメリットがある形でやれたらいいなと思っていて。今回、池袋で観客参加の盆踊りをやってきた近藤良平さんが振付で入ってくれているんですが、お客さんを煽ったり、動かしたりするプロフェッショナルである彼のアイデアをずいぶん参考にさせてもらいました。

志磨 P席こそ、まさしく「三文オペラ」の作品内の構図そのものですよね。よくできてる。「谷さん、天才ちゃうか?」って思いましたもん。

 天才ってワードまでもらっちゃってうれしいです。ひるむけどね(笑)。

──また観客ありきという意味では、演劇と音楽のライブは共通点が多くあるように感じます。志磨さんは観客との関係性についてどのように捉えていますか?

志磨 僕も手拍子したりノッたりとか苦手で、ライブハウスの壁際で腕組みしながら観てるようなタイプで……。

 ははは(笑)。わかる。俺もこっち側なんだよなあ。

志磨 だから僕はお客さんにそういうものを望んだことはなくて、「みんなで歌おう」とか、「ここがみんなの帰ってくる場所だから」とか、そういうのよくわからなくて。なので、僕はお客さんと1対1で真剣に向き合って、1つのものを共有しているようなイメージでいます。それが例えば「ラブ」でもいいし「ライフ」でもいいし、もっとポリティカルな問題でもいい。同じ問題に向き合ってるときに、僕がその答えを与えるのではなく、互いの中で燃える何かがあって、お客さんとはそれを共有してる、っていう感じかな。

 ライブでお客さんが妙な一体感出してきたら「えっ、ちょっと待って」ってなるの?

志磨 すごく冷めた目で見る。「君ら、何してんの?」って。

 例えば、全員で同じタイミングで手を振り上げてきたりしたら?

志磨遼平

志磨 僕ね、それを“1万枚の壁”って呼んでて。

 何それ、何それ!(笑)

志磨 僕調べによると、CDのセールスが1万枚超えたあたりからコレ(手を振り上げ、指を指す仕草)が出現するんですよ。だからコレが出てきたら「お! 1万枚超えた!」ってなる(笑)。

──ドレスコーズのファンの方は、志磨さんのような感じで俯瞰してライブを観ているお客さんが多いんですか?

志磨 そう、斜に構えたひねくれ者が多いんですよ。「志磨の望み通りになるものか」みたいな(笑)。

──それはそれでいい関係性を築けているような気がします(笑)。

志磨 そうかもしれないですね。これはこれで健全な付き合い方というか、そういった形でわかり合えてるというか。

“芸術のつとめ”とは

──「三文オペラ」の後半部分、志磨さんが手がけた歌詞の中に「芸術のつとめ」という一節が登場します。演劇、音楽に携わっているお二人にとって、“芸術のつとめ”とは……?

 芸術っていうのは、観客にとって不愉快さや違和感があるものじゃないといけないなと思っていて。例えばロックンロール。初めは、「あのガシャガシャしたうるせえ音楽は何なんだ?」って思っていたのが、今ではお店のBGMになるくらいポピュラーなものになっていったでしょ。演劇の場合、飲み込みやすい作品じゃないとお客さんは観に来てくれないから、難しい塩梅ですけどね。よりよい作品を作るには、どこかでお客さんに嫌われる覚悟を持たなきゃいけないなっていうのは最近考えています。

志磨 あの部分に「芸術のつとめ」っていうワードを入れたのは、反語なんですね。現実で理不尽なことがあったときの避難場所として、娯楽としての芸術をお望みであるならば、その用意もありますよ、って提示するところがこの「三文オペラ」の、ひいてはブレヒトのすごく意地の悪いところで。芸術とは?という問いについて、我々が今回の舞台で答えを提示するのも違うと思うし、その答えを追求するのが面白いから、いろいろな人がこの作品を使って意味を問い直してきたんでしょうしね。そう考えると、成立から100年くらい経っても「三文オペラ」という作品で遊んでいられるのってすげえなって思うんですよ。

 確かに100年はすごいかも。でも演劇界って400年遊べてる作品とか2500年遊べてる作品があるからね。音楽でも2500年演奏され続けてる曲ってあるのかな?

志磨 詠み人知らずみたいになったり、リズムやビートとしては残っているものはあるかもしれないけど、作品とか構造として残っているものはあまりないかも。

──お二人は作家として、自分の作品を何百年先も残していきたいという思いはありますか?

 ちょっと前まで「夢はなんですか?」「目標はなんですか?」って聞かれたときに、「1000年残る作品を作る」って答えていたんですけど、最近はあまりそういうことは考えていなくて。志が低くなったっていうことではなく、残してやろうと思って書くと、残らないっていうのがわかってきたから(笑)。

志磨 そうね、もどかしい。

 残るか残らないかは周りが決めることでもあるし、演劇をやっている人間は、今この瞬間に何が起こっているのかを伝えることしかできないので。結果的に何かしらの形で後世に残ったらいいなって僕の虚栄心が叫んでますけど(笑)、自分自身に愚直に正直でいた人の作品が数百年後、数千年後にも語り継がれているんでしょうね。

志磨 僕も昔は同じようなことを言ってたんですよ。「この曲は50年、100年残るような作りをしてますから」ってエラそうに言ってて(笑)。でもそれはそれで本当なんですけど、人に一番言いたくない心の根底にある気持ちは100年後も1000年後もおそらく変わらないでしょ、とも思っていて。そういう音楽であれば歌い継ぐにしかるものであるはず。それとすごく難しいのは、本当に魅力的なものはすぐに理解できるか問題ですよね。100年経ってようやく魅力がわかるものと、誰が聴いてもすぐよさがわかるもの、どっちが創作物として魅力的なのかなっていうのはいつも考えます。難しい問題ですけどね(笑)。

左から志磨遼平、谷賢一。
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「三文オペラ」
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『三文オペラ』

2018年1月23日(火)~2月4日(日)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール

2018年2月10日(土)
北海道 札幌市教育文化会館 大ホール

作:ベルトルト・ブレヒト

音楽:クルト・ヴァイル

演出・上演台本:谷賢一

音楽監督:志磨遼平(ドレスコーズ)

出演:松岡充、吉本実憂、峯岸みなみ、貴城けい、村岡希美、高橋和也、白井晃 / 青柳塁斗、相川忍、今村洋一、小出奈央、小角まや、奈良坂潤紀、西岡未央、野坂弘、早瀬マミ、平川和宏、峰﨑亮介、森山大輔、和田武

あらすじ

マクヒィス(松岡充)は、乞食商会社長ピーチャム(白井晃)の一人娘ポリー(吉本実憂)を見初め、その日のうちに結婚式を挙げる。それを知ったピーチャムとピーチャム夫人(村岡希美)は2人を別れさせるため、マクヒィスの親友である警視総監タイガー・ブラウン(高橋和也)を脅し、彼を逮捕させようと画策。両親の企みをポリーから聞いたマクヒィスは、逃げると称して娼館に立ち寄るが、そこで昔なじみのジェニー(貴城けい)に裏切られ、逮捕されてしまう。牢獄を訪ねてきたポリーと、マクヒィスといい仲になっているブラウンの娘ルーシー(峯岸みなみ)が鉢合わせしたことを利用し、彼はまんまと脱獄するが……。

関連特集
KAAT×サンプル「グッド・デス・バイブレーション考」 松井周
KAAT 作者を探す六人の登場人物 長塚圭史
KAAT Dance Series 2017 矢内原美邦 & 小野寺修二
谷賢一(タニケンイチ)
1982年福島県生まれ、千葉県柏市育ち。作家・演出家・翻訳家。DULL-COLORED POP主宰、Theatre des Annales代表。明治大学演劇学専攻、ならびにイギリス・University of Kent at Canterbury, Theatre and Drama Study にて演劇学を学んだのち、DULL-COLORED POPを旗揚げ。2013年には「最後の精神分析」で翻訳・演出を務め、第6回小田島雄志翻訳戯曲賞ならびに文化庁芸術祭優秀賞を受賞。また近年では海外演出家とのコラボレーション作品も多く手がけ、15年のシディ・ラルビ・シェルカウイ演出「PLUTO」では上演台本を担当し、同年のアンドリュー・ゴールドバーグ演出「マクベス」には演出補で参加。さらに16年のデヴィッド・ルヴォー演出「ETERNAL CHIKAMATSU」では脚本を手がけている。
志磨遼平(シマリョウヘイ)
1982年和歌山県出身。ミュージシャン・文筆家・俳優。2006年に毛皮のマリーズとしてデビューし、11年まで活動。翌12年にドレスコーズを結成する。14年にバンドを解体し、現在ドレスコーズは志磨のソロプロジェクトとして、メンバーが流動的に出入りする形態で活動中。16年には俳優として、映画「溺れるナイフ」、WOWOW 連続ドラマW「グーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-」に出演した。