シアタートラム ネクスト・ジェネレーション パンチェッタ「un」稽古場レポート|“効率化”の先に幸福はあるのか?

interview:心地良い笑いの中に潜むのは……一宮周平、辻本耕志、原扶貴子が語る「un」

ここでは「un」の魅力の“発生源”に迫るべく、一宮、そして今回初めてパンチェッタに参加する辻本耕志と原扶貴子に、本作にまつわる質問に答えてもらった。

「排泄の時間って無駄だな、って思えてしまった」
一宮周平
一宮周平(イチノミヤシュウヘイ)

──「un」は「“食事”と“排泄”の概念がなくなった近未来」というかなり衝撃的な設定ですが、設定を思いついた経緯や、きっかけを教えてください。

人間の生活は、年々便利になっていっていると思います。しかし、ある時、この便利さの行き着く先が気になりました。これ以上ないような機能を持ち合わせているスマートフォンも、まだまだ新たな製品が発表されます。便利とは、無駄をなくしていく作業ではないかと思います。そして、その無駄をなくしていく作業を突き詰めていったときに、ああ、排泄の時間って無駄だな、って思えてしまったのです。排泄しないで済むのならば、喜ぶ人もきっと多いのではないかと。食事だって、数秒で摂取できるものや、得体の知れないような食品も数多く見受けられます。その先に、概念すらも消失するような未来があってもおかしくないのでは、と感じたところから構想を始めました。

──パンチェッタは、これまで小さめのスペースかつ、素舞台で作品を上演してきました。今回シアタートラムで上演するにあたり、劇場空間をどのように生かしたいですか?

シアタートラムという空間は非常にエネルギーのある場だなと感じました。今、パンチェッタがここでやる意味を強く考え、脚本の設定を変更し、シアタートラムだからこそ成し得る空間を、美術家の根来美咲さんと共に構築しました。初めての舞台美術に、私自身楽しみでなりません。

──稽古場では、偶発的に生まれた“わざとらしくないおもしろさ”によく反応されていたように見えました。パンチェッタの作品は、“演劇とコントのはざま”と表現されることがありますが、笑いについて意識されていることがあれば教えてください。

私は喜劇を作っているつもりではありますが、笑ってもらおうという気はありません。ただそこに生きている人が存在してさえいれば、おかしく感じてしまう構造が、脚本にあるのだと思っています。動物園の檻の中の動物を見て、人は笑顔になると思います。動物がおかしなことをしていたら、笑ってしまいます。そこに、動物なりの意図はきっとありません。舞台の上が動物園の檻の中だといいなあと、常々思ってはいます。

──今公演もそうですが、パンチェッタは、見るものの想像力をかき立てるチラシビジュアルをいつも制作されています。チラシは、いつも画家の松本亮平さん、デザイナーの齋藤俊輔さんが手がけていらっしゃいますが、完成までにいつもどのようなやり取りをされているんでしょうか。

画家とデザイナーは、劇団員というわけではないのですが、常に作品のビジュアルに関わってもらっています。実は彼らは私の高校時代の先輩と同級生でして、しかも私含め陸上部で出会った仲間です。画家の松本亮平に絵を依頼するときには、タイトルしか決まっていないことがほとんどで、そこで、こういう絵があると面白いよねといった具合に意見を出し合い、絵を描いてもらいます。先に絵を決め、実際にその絵に行き着くように舞台上の構造を考えたりすることも多々あります。そしてその絵を受けたデザイナーの齋藤俊輔が、絵のイメージ、パンチェッタのイメージを生かしながらデザインしているという流れです。普段演劇に関わることのない2人と作っているからこそ、説明的にイメージを押し付けないデザインとして出来上がっているのではないかと思っております。

──今回は、世田谷区芸術アワード“飛翔”舞台芸術部門の受賞記念公演となりますが、受賞したことで環境の変化はありましたか。また外部審査員の岩松了さん、マキノノゾミさん、小野寺修二さんの選評を受け(参照:第6回世田谷区芸術アワード「飛翔」 外部審査員評)、どのような思いを抱かれましたか。

環境の変化と言われると、それ以上に世の中の環境の変化のほうが激しすぎて、良いほうにはまだ転じておりません。もちろん、どの分野に関わる方も似た思いだとは思いますが。審査についてですが、審査員の方々が、私の作品に真剣に向き合ってくださったことが一番うれしいことです。そしてそこに感想をいただけるだなんて。基本的に作品は、私が何よりも面白いと思えるように作っているのですが、それをこんな風に評価していただけるというのは、とても心強く感じました。「あ、私が面白いと思っていることを一緒になって面白がっていただけた」って。岩松さんが、会話のやり取りに着目してくださり、ああ、こんな風に面白さを言葉にしていただけるってすごいことだなあと感激しました。

profile
1989年生まれ。2013年に、第1回公演「Role」でパンチェッタを旗揚げ。以来、すべての作品の脚本・演出を手がける。第9回せんがわ劇場演劇コンクールのグランプリ・オーディエンス賞・俳優賞、2018年度若手演出家コンクールの最優秀賞・観客賞を受賞。2020年には、第6回世田谷区芸術アワード“飛翔”舞台芸術部門と合同で開催されたシアタートラム ネクスト・ジェネレーションに選出された。
「しっかり食べて、健康でいましょう」
辻本耕志
辻本耕志(ツジモトコウジ)

──戯曲を読んだときの率直な感想を教えてください。

食べる事、排泄する事が当たり前の生物。それがなくなってしまうとは、どういうことなのか、何が欠落して、何が生まれるのか、視点が面白いと思いました。

──演出家としての一宮さんの印象を教えてください。稽古を受ける前と現在で、一宮さんのイメージは変わりましたか。

初対面のとき、柔らかい印象を受けました。稽古場でも、物腰の柔らかさに、接しやすさを感じます。怖い人じゃなくて安心しました。

──作品をご覧になる方が、作品を楽しむためのキーワードを教えてください。

「食べる」ということが、いかに喜ばしいことなのかを思いながら見てもらいたいですね。しっかり食べて、健康でいましょう。

profile
1977年生まれ、和歌山県出身。コントグループ・フラミンゴのメンバー。小林賢太郎率いるコント集団・カジャラに参加。出演作に、小林賢太郎プロデュース公演のほか、川尻恵太演出のSUGARBOY「タイプ」、西田大輔演出の舞台「ジーザス・クライスト・レディオスター」など。映画やドラマへの出演も多数。現在公開中の映画「オレたち応援屋!!」、TOKYO MX・BS11ほかにて放送中の歴史バラエティ「戦国炒飯TV」に出演している。
「目先の会話に騙されないで!」
原扶貴子
原扶貴子(ハラフキコ)

──戯曲を読んだときの率直な感想を教えてください。

不思議なお話だなと思いました。食と排泄のない世界。架空の世界かと思いきや、よく考えてみれば人間は、すでにたくさんの文化を切り捨ててきていますし、食だって、コントロールされていないとは言えません。いずれは、人間が生きるという行為そのものもなくなってしまうのかもしれないというそら恐ろしさを感じました。食べることを放棄した世界では、俳優が生で演じる演劇は、どうなっているのでしょうか……。

──演出家としての一宮さんの印象を教えてください。稽古を受ける前と現在で一宮さんへのイメージは変わりましたか。

一宮さんとは今回初めてご一緒させていただいています。演出を受けてみて、一番感じるのは、ごくごく真っ当な芝居作りをなさる、ということ。“嘘をつかずにその場にいること、役を生きること”を大切にされていて、演出の意図も明確です。柔らかい物腰の中に、やんちゃな男子が潜んでいて、そのバランスがとても魅力的な方だなと感じています。

──作品をご覧になる方が、作品を楽しむためのキーワードを教えてください。

「目先の会話に騙されないで!」です。登場人物たちは、瞬間瞬間の言葉、出来事に翻弄されたり、されなかったりですが、人間が構築したはずなのに、すでに人間では制御不能になっている世界が、時折、ヌッと顔を出してきます。その世界とはすなわち、コロナという突然の理不尽の下に置かれている私たちが生きる世界そのものなのかもしれないのです。ともかくは、劇場に足を運んでくださるお客様の前でお芝居ができること、それに向けて稽古ができることが、ただただ喜びであり、内容のこともありますが、演劇そのものを楽しんでいただけたら、それ以上のことはありません!

profile
大阪大学文学部演劇学専攻卒業。2001年から2013年までKAKUTAに所属。野坂実演出の舞台「キャッシュ・オン・デリバリー」、渡辺えり作・演出のオフィス300「肉の海」などに出演。映画「夢売るふたり」から本格的に映像作品への出演をスタートさせ、主な出演作に映画「凶悪」「魔女の宅急便」「海街diary」「勝手にふるえてろ」、TVドラマ「ゆとりですがなにか」「フルーツ宅配便」など。出演映画「ホテルローヤル」が現在全国で公開中。