プロデューサーの唐津絵理&山本麦子が語る愛知県芸術劇場「ミニセレ2023」 (2/3)

3人の演奏家たちによる「安野太郎 ゾンビ音楽『大霊廟Beyond』」

──10月中旬は「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム 特別公演 安野太郎 ゾンビ音楽『大霊廟Beyond』」が上演されます。

「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム特別公演 安野太郎 ゾンビ音楽『大霊廟Beyond』」ビジュアル©︎松見拓也

「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム特別公演 安野太郎 ゾンビ音楽『大霊廟Beyond』」ビジュアル©︎松見拓也

唐津 「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」は音を使ったパフォーマンスの実験的な取り組みを行っているシリーズで、今回は同シリーズがまだ「サウンドパフォーマンス道場」という名称だった時代に参加していただいたことがある、安野太郎さんにお願いしました。安野さんはロボットが楽器を演奏する“ゾンビ音楽”プロジェクトを長年手がけていらっしゃり、巨大な足踏みふいご装置を使って演奏します。今回上演されるのは、そのゾンビ音楽の最新作となります。面白いのは、この作品自体が音楽のエコシステムに注目している点で、演奏の合間に音楽家の労働環境や、音楽家が社会生活を行ううえでの日本における現実が織り込まれます。また安野さん自身は2021年に愛知県で音楽大学の教員に就かれましたが、その彼が、“生きていくのが大変であろう音楽家”を目指す学生たちを育て、世に送り出す側に立っている、というところにアンビバレントな感情を持っていらっしゃり、その点でも今回は、これまでとは違う「大霊廟」になるのではないかと思います。なお出演されるのは、安野さんが教えている音大生と、中堅の音楽家、また彼と同世代のプロの音楽家たちです。

──演奏家の違いが作品にどう反映されるのか、楽しみですね。

唐津 そうですね。演奏家たちにインタビューを行い、それも作品に取り込んでいく可能性があるそうで、音楽ということだけでなくパフォーマンス全体としての違いが見えてくるのかもしれません。

ヌトミックと細井美裕のコラボレーション、再び

──10月下旬には「ヌトミック+細井美裕 マルチチャンネルスピーカーと身体のための演劇作品」が上演されます。

左から額田大志、細井美裕。

左から額田大志、細井美裕。

山本 額田大志さんと愛知県芸術劇場は、額田さんが2018年に「AAF戯曲賞」を受賞されたときからつながりがあります。それで2020年頃、額田さんと今後のことをお話したときに、額田さんが「もうちょっとじっくり、何ができるかを考えていきたい」「これまでご一緒したことがない方とコラボレーションしてみたい」とおっしゃって、そこで細井さんのお名前が挙がりました。ヌトミックも細井さんも音楽をベースに活動していますが、ちょっとアプローチが違っていて、額田さん、気になっていたそうなんです。それで、2021年に「波のような人」の上演が実現しました。その時に見えた課題や可能性を踏まえて今回は何ができるかを考えています。具体的な作品創作に入る前に「劇場で何ができるを、改めて試してみたい」という話になり、昨年「マルチチャンネルスピーカーと身体の実験【Theater Idioms】」という実験企画を実施しました。

【Theater Idioms】では、劇場内にマルチメディアスピーカーを置いて、人が入った場合と入らなかった場合の違いを考えてみたり、スピーカーを使って動いてみたりと、日によっては一般の方にも入っていただきながらさまざま実験しました。今回はその結果を受けながら、体験型・少人数・没入型の作品の可能性を模索しているところです。

AAF戯曲賞受賞作「鮭なら死んでるひよこたち」を羊屋白玉演出で

──11月は第21回AAF戯曲賞を受賞した守安久二子さんの戯曲「鮭なら死んでるひよこたち」が、受賞記念公演として羊屋白玉さんの演出で立ち上げられます。毎回受賞公演は作品と演出家の顔合わせも見どころの1つですが、今回も一筋縄ではいかない作品になりそうですね。

左から守安久二子、羊屋白玉。

左から守安久二子、羊屋白玉。

山本 プロデューサーとして毎回試されるような経験をしています。「鮭なら死んでるひよこたち」は、割とオーソドックスなセリフ劇として、昭和の小学生たちの様子が描かれており、「あの頃のあの人たちは、どこへ行ってしまったのだろう?」というような、ノスタルジックな雰囲気もある作品です。羊屋さんは、戯曲賞の選考会で初期審査から「この作品を上演できたら良いと思う」とおっしゃっていて、作家の守安さんの希望もあり、今回羊屋さんに演出をお願いすることになりました。羊屋さんが愛知で作品を上演するのはおそらく初めてではないかと思います。

──キャストの顔ぶれもバラエティに富んでいます。

山本 キャストについては羊屋さんと話し合いながら、“自分の言葉で語れるような俳優に出てほしい”という目線で選んでいきました。結果的に札幌、愛知、九州、東京と拠点が異なる、いろいろな質感の出演者がそろいましたね。羊屋さんは作家・演出家なので、普段だったら気になる問題を自らリサーチし、俳優さんと一緒に作り上げていきますが、今回のように既存の戯曲を、作家が目の前にいる状態で上演するのはほぼ初めてだそうです。また羊屋さんは、HAUS(Hokkaido Artists Union Studies)という活動をされていて(編集注:“アーティストの自律を駆り立てる芸術的社会的な基盤”を目指す、中間支援団体)、俳優さんと演出家がどうやったら対等な関係性で作品を作ることができるのかということに真剣に取り組まれています。

愛知で生まれた作品を、各地へ

──お二人のお話を伺っていると、「ミニセレ2023」で上演される5作品はいずれも劇場とアーティストとの継続的な関係性から発展した作品なのだなと感じます。ツアーが決まっている作品も多いですが、お二人はその点についてはどのようにお考えですか?

唐津 創作から初演、再演という循環を大切にしています。作品やアーティストをただ消費しがちな日本の新作主義へのアンチテーゼでもありますし、一度作ったものを、責任を持って次につなげていくことは未来への劇場のメッセージだと思います。またアーティストや関わっているスタッフにとっても、1つの作品を作ることはものすごい時間とエネルギーがかかるものなので、再演することで仕事を得られることになります。今の日本の劇場環境の中で新作を丁寧に作るということは、地方では難しい部分もありますが、それぞれ持っている知財を使って、健全な環境でできる限り良い作品を作り、国内外の普段届けることができない地域の方にも観ていただけるようにしていきたいです。

山本 AAF戯曲賞の受賞記念公演のツアーは今回が初めてとなります。ツアーをするということ自体を大事にしていきたいと思っています。またAAF戯曲賞受賞記念公演で作家と演出家を分けているのは、“分権”の意味もあって。どうしても閉じられた環境になりがちな演劇の創作環境を“開けていく”ことを意識しながら続けてきました。ツアーすることで、そういった創作に対する意識も伝えていきたいですし、あるいは公演をご覧になった方が「私ならこう演出するのに」と思ってくださったら(笑)、ぜひ上演していただきたいなと思います。

左から唐津絵理、山本麦子。

左から唐津絵理、山本麦子。

プロフィール

唐津絵理(カラツエリ)

2010年から2016年まで「あいちトリエンナーレ」キュレーター(パフォーミングアーツ)。2020年よりDaBYアーティスティックディレクター。1993年から愛知芸術文化センターに初の舞踊学芸員として勤務し、現在、愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー。著書に「身体の知性」など。第73回芸術選奨にて文部科学大臣賞を受賞。

山本麦子(ヤマモトムギコ)

1982年、愛知県名古屋市生まれ。大学卒業後、広告代理店の営業を経て、2014年より愛知県芸術劇場に勤務。現在、企画制作部 演劇担当プロデューサー。